謎の日本式城郭城 その2
勇者ライアナから
『定期魔道船が謎の城に攻撃されている』
との連絡を受けた僕は、スアの魔法の絨毯にのって現地に向かいました。
魔法の絨毯には、タイミング良く狩りから戻ってきたイエロとセーテンも乗り込んでいます。
「……しかし、城が出来てて、そこから攻撃されているって一体どういうことなんだ?」
僕は地図を見つめながら首をひねっていました。
勇者ライアナから連絡をもらったあたりには城なんてありません。
それどころか街や村、集落すら存在していないあたりなんですよね。
「そのようなところに城でござるか?」
「なんかウキウキするっキ」
イエロとセーテンは、僕の手元の地図を覗き込みながらそんなことを言っています。
そんな2人とは対象的に、魔法の絨毯を操縦しているスアは少々眉間にシワをよせているような……
「……なんかね、嫌な予感がする、の」
「嫌な予感?」
「……うん……またか、と、いうか……しつこい、と、いうか……」
スアはそんな言葉を口にしながらジッと前方を見つめています。
またか、とか、しつこいとか言われても……そんな言葉がぴったり当てはまる人物なんてそんなに多くはないといいますか……むしろ1人しか浮かんでこないと言いますか……
そんな僕の視線の先に、魔導船の姿が見えてきました。
魔導船の周囲には結界が張り巡らされています。
おそらく勇者ライアナが展開しているのでしょう。
そこに向かって、何やら魔法弾らしき物が無数に打ち込まれています。
で、
その魔法弾の射出場所と思われる山の方へ視線を向けた僕なのですが……あれ?
「……山の上に、城がない?」
「ないでござるな?」
「ないッキね?」
僕・イエロ・セーテンの三人は思わず目を点にしていました。
そんな中、スアが
「……下……もっと下の、森の中……」
そう言いました。
スアに言われて、僕達3人は一斉に視線を山の裾野の方へ向けていったのですが……
「「「え?」」」
僕達3人は一斉にすっとんきょうな声を上げてしまいました。
確かに、そこに城がありました。
僕の世界で言うところの日本式の城郭といいますか、そんなお城が森の中からひょこっと天守閣をのぞかせているのです。
その天守閣の窓という窓から大砲らしき筒の先がのぞいていまして、そこから絶え間なく魔法弾が射出されているではありませんか。
しかも、その天守閣の上には金のしゃちほこならぬしろいいるかのような物体が一対設置されていまして、その口からも巨大な魔法弾が射出されまくっています。
ですが……
僕達3人が驚いたのは、そのことではありません。
僕達の視線の先で、そのお城が動いているんです。
な、なんて言えばいいのかあれなのですが、と、言うか、自分でも何を言っているのかちょっと怪しくなってるんですけどね……えぇ、城が動いているとしか形容しようがないんです。
森の中から天守閣をのぞかせているその城は、戦闘空域から離脱しようとしている定期魔道船をおいかけるようにして森の中を疾走しているのです。
「動く城でござるか、これはまた楽しそうな敵でござるな」
そう言いながら、イエロはすでに抜刀して両手に剣を構えています。
「腕が鳴るキ、一気に攻め込むキ」
セーテンも、両手の爪を伸ばして気合い満々の様子です。
そんな2人の様子を確認した僕は、
「スア、あの城に近づけるかい? イエロとセーテンに攻め込んでもらって……」
そう声をかけたのですが……そんな僕の声を聞いているのかいないのか……スアは何やらブツブツ言っています。
よく聞いて見ますと、
「……あの女、ホントしつこい……あの女、ホントうざい……あの女……」
……なんかですね、そんな言葉をまるで念仏のように唱えながら天守閣の方をジッと見つめているんです。
で、僕・イエロ・セーテンの3人も、スアが見据えている方向へ視線を向けたのですが……
「あ!?」
「いっ!?」
「うっキ!?」
僕達は再びすっとんきょうな声をあげてしまいました。
いえね……天守閣の中に人影があったんです。
その人影は、定期魔道船を指さしながら何やらわめきちらしているようなのですが……
……間違いありません
その人物……と、いいますか、その女……忘れもしないというか、忘れたくても忘れることが出来ない……そう……ポルテントチーネです。
「なんか、王都の牢獄を脱獄したって聞いてたけど……なんでまたこんなところに……」
そう口に出した僕だったのが……思い当たる節は思いっきりありました。
先日、トツノコンベって辺境都市で暴れていたポルテントチーネをスアがやっつけたといいますか……おそらくその時のお礼参りとばかりに定期魔道船を襲いに来たってことなんでしょう。
定期魔道船はコンビニおもてなしから離れていますし、簡単に撃破できると思ったのかもしれませんね。
そんなポルテントチーネの誤算は、その定期魔道船に異世界の元勇者が係員として乗り込んでいたってことでしょう。
「って、ことは、あのお城って……まさかあの時変な城塞みたいな建物に変化していた屋敷魔人が変化した姿なのか?」
「……多分、そう」
スアはそう言いながら右手をお城に向かって伸ばしました。
「え?ちょ、ちょっと待って欲しいでゴザル、スア様」
「アタシらにも出番を……」
イエロとセーテンが慌てて駆け寄る中、スアは
「……ほんっと、ウザい」
そう言いながら右手の前に大きな魔法陣を出現させました。
次の瞬間、その魔法陣から光線が飛び出しまして、あっという間に城壁に向かっていきまして……
ドッゴーン
すさまじい衝撃音が周囲一帯に響き渡りました。
城の周囲にもうもうと煙が立ちこめています。
ほどなくして、煙が薄らいでいくと……その中にお城の姿が見えてきたのですが……
天守閣がなくなっていました。あのしろいいるかのしゃちほこも見当たりません。
完全に破壊されたその天守閣の跡地に、ポルテントチーネの姿があったのですが……スアの魔法光線の衝撃のせいで、その衣服は完全になくなっており、素っ裸のままその場に立ち尽くしています。
その体を隠そうともせずに振り返ったポルテントチーネは、僕達を睨み付けながらわなわなと肩をふるわせています。
「だ、誰かと思ったら、まぁたアンタ達なのね……ほんっと、いっつもいっつも人の邪魔ばっかりしやがってさぁ……ほらリーク! 気絶してないで、あの小娘とその一味をあの絨毯ごとやっておしまい!」
そう言いながら、床を蹴りつけています。
で
そんなポルテントチーネの眼前に、今、イエロとセーテンが立っています。
えぇ、ポルテントチーネがまだ生きていることを確認した2人は
「いざまいるでゴザル!」
「うっきー!」
気合いもろとも魔法の絨毯から天守閣に飛び移ったんですよね。
2人に左右を押さえられたポルテントチーネは、スアと僕を指さしたまま固まっています。
「……ちょっと、アンタ達……人がしゃべってる間に乗り込んでくるのって、卑怯じゃないかしら?」
ポルテントチーネは、魔法の絨毯の上からでもわかるくらいに、大量の冷や汗を額から流しています。
そんなポルテントチーネを左右から囲んでいるイエロとセーテンは、
「油断しているお主が悪いでござる」
「その通りキ」
そう言いながら、じりじりとポルテントチーネとの距離を詰めています。
形勢不利を悟ったポルテントチーネは、必死になって足を動かしています。
どうやら、床を蹴って屋敷魔人のリークを目覚めさせようと必死な様子です。
……ポルテントチーネからは見えないと思うのですが……お城はすでにスアが魔法のロープでグルグル巻きに締め上げているんです。
ですので、例え屋敷魔人のリークが目を覚ましても、ピクリとも動けないといいますか……
そんな事とは知らないであろうポルテントチーネはですね、屋敷魔人のリークがピクリ共反応しないことに業を煮やしたらしく、
「えぇい、かくなる上は!」
そう言うと、足下に転がっていた自分の魔法袋に手を伸ばしました。
ですが、
その中から何かを取り出すのを許すイエロとセーテンではありません。
「甘いでござる!」
イエロは、ポルテントチーネが手を伸ばした先にあった魔法袋を蹴り飛ばしました。
その魔法袋は綺麗な放物線を描き、僕の腕の中へと収まった次第です。
「ちょ!? 人の魔法袋に何すんのよ! 人の物を取ったらいけないって習わなかったのかしら!」
ポルテントチーネはそう言いながら僕に向かって手を伸ばしています。
「あぁ……そうだね。とりあえずこれは取得物ってことで辺境駐屯地に提出することにするよ」
「ちょ!? あんた何を馬鹿なことをむぐぐ」
「さぁ、おしゃべりはここまででござる」
「おとなしくお縄を頂戴するキ」
僕に向かって声を張り上げていたポルテントチーネをイエロとセーテンが左右から押さえ込んでいきました。
口を自由にしていたらうるさいから、と、まずその口に猿ぐつわをかましてから後ろ手にポルテントチーネを縛り上げていく2人。
とはいえ、王都で衛兵何十人もを相手にして結構な時間抵抗したポルテントチーネだけありまして、イエロとセーテンの2人をもってしてもなかなかすぐには縛りげることが出来ませんでした。
その後、スアが魔法で気絶させ……と、いっても、これにも相当抵抗したポルテントチーネでして、スアが思わず、
「……ホントに、往生際が悪い、わ」
と、苛立った声をあげたほどだったわけです、はい。
と、まぁ、そんなわけで……ポルテントチーネとその部下の屋敷魔人のリークを捕らえることが出来た次第です……っていうか、これで何度目だ……
僕は思わず大きなため息をついてしまいました。