テトテ集落の果物狩り その3
いつものように、コンビニおもてなし本店の厨房で弁当などの調理作業並びに商品の仕分け作業を終えた僕は、本店のことを魔王ビナスさんにお任せしてテトテ集落へ移動していきました。
いよいよ今日からテトテ集落で果物狩りがはじまります。
僕は、その様子を確認に来た次第です。
おもてなし商会がありますリンボアさんのご自宅に、コンビニおもてなし出張所が併設されています。
これを、リンボアさんのご自宅に居候しています豹人の冒険者ミミィが経営してくれています。
本日開店するテトテ集落果樹園の隣には狩った果物を持ち出して食べることが出来るコーナーを設置していますが、その中に、コンビニおもてなしの食べ物を販売するコーナーも新設しています。
ここでは、弁当やサンドイッチ、飲み物類に加えてヤルメキススイーツも販売しています。
コンビニおもてなし本店がお休みの日には、ヤルメキススイーツのメイン担当者のヤルメキスかケロリンがここにやってきて、みんなが狩ってきた果物をその場でスイーツに仕上げるサービスも行う予定にしています。
で、このコーナーは、ミミィが担当することになっています。
このテトテ集落で、コンビニおもてなし出張所に買い物に来られる方々の6~7割は弁当やサンドイッチを購入に来られます。
そういったみなさんは、だいたい果樹園が開店する前にお店に来られますので、それまでの間ミミィは出張所で販売を行いまして、果樹園のオープン時間が近づきましたら、弁当類を魔法袋に詰めて果樹園へ移動し、そこで販売を行っていくことにしています。
ミミィが果樹園に行っている間のコンビニおもてなし出張所では、食べ物以外の雑貨類を販売するのですが、これはリンボアさんが受け持つことにしています。
リンボアさんは、おもてなし商会の仕事も行っていますけれども、雑貨を買い求めに来られる方はそう多くはありませんので、リンボアさん1人でもなんとかなると考えている次第です。
とはいえ、リンボアさんもお年ですので、念のためにリンボアさんのご自宅にはスアが召喚したゴーレムを一体配置することにしました。
このゴーレムは、話をすることは出来ませんが非常に力持ちですので商会に持ち込まれた商品の移動作業などを手伝うことが出来る次第です。
場合によっては、ミミィを呼びに移動することも可能ですしね。
果樹園の入り口と、その横には木製の大きな小屋が作成されています。
左にあるのが狩った果物を持ち出して食べることが出来るコーナーでして、その中ではミミィがすでに準備万端の状態です。
右にある建物が果樹園の入り口になっています。
その後方には、広大な果樹園が広がっています。
果樹園といいましても、樹木の果物ばかりではなく、イチゴによく似たイルチーゴ、それに、ジャルガイモの収穫体験コーナーまで設けられています。
多種多様な体験が出来るうえに、希望者にはテトテ集落のみなさんによる本格的な農業指導も受けることが出来るサービスなんかも準備されているそうです。
すでに、テトテ集落のみなさんも配置につかれています。
みんなが空を見上げる中……その方角からゆっくりと定期魔道船が姿を見せました。
ゆっくりに見えたのは最初だけでして、その姿があっという間に大きくなったかと思うとテトテ集落にあります魔導船乗降タワーに接岸していきました。
程なくして、その出入り口からお客さんが下船してきたのですが……
「お、あそこが果物狩りの入り口か?」
「そうみたいね」
「パパ、今日は一杯取って食べようね」
そんな会話を交わしながら早足に果樹園の入り口に向かっていった親子連れを筆頭に、すごい数のお客さんがその後に続いていくではありませんか。
テトテ集落には以前から魔導船が発着してはいたのですが、乗降者はあまり多くありませんでした。
おもてなし商会テトテ集落店を通して子供服や果物類を仕入れる商売人の方が利用するくらいだったのですが、今日は完全に様相が違います。
そんなみなさんを、テトテ集落のみなさんが大勢で出迎えています。
僕達が遊びに来た時のように
「ようこそおいでくださいました!」
「みなさん今日は楽しんでいってくださいね!」
そう言いながら、お客さんの列を左右一列になって拍手で見送ってくれています。
その、人で出来た通路の中をお客さん達は移動しています。おかげでみなさん、迷うこと無く目的地である果物園へたどり着けていました。
今日のお客さんのほとんどがチケット購入者の方でしたので、入り口もそう混雑することなく対応出来た次第です。
やはり、魔導船のチケットとの抱き合わせ販売はナイスアイデアだったみたいです。
ほどなくして、果樹園の中に多数のお客さんの姿がみられるようになりました。
とはいえ、今回の果樹園開設にあたりまして、テトテ集落のみなさんが果樹園をさらに拡張しているものですから魔導船1回分のお客さん程度では全然埋まった感じにはなりません。
その後、2回、3回と魔導船が定期的にやってくる度に、多くのお客さんが下船し、そのまま果樹園へ向かっていったのですが、それでもいっぱいといった感じはしませんでした。
お客さんが迷子にならないように、果樹園のあちこちに集落のお年寄りや魔法使いの奥さん達が立っているおかげで、道に迷う人や迷子になってしまう子供達もほとんど出ませんでした。
制限時間は1時間ですが、午前中にやってきたみなさんは、飲食コーナーで果物やお弁当などを食べた後、一休みすると
「どれ、もう一回行ってみるか」
と、再び果樹園に入って行かれる方も少なくありませんでした。
再入場が特に多いのは子供連れの方々ですね。
子供達と一緒に楽しみながら果物を狩っている、そんな感じです。
このパルマ世界は城壁のすぐ外側が森になっていまして、森の果物などにも慣れ親しんでいるように思われがちですが、ガタコンベなどの辺境地の森には凶暴な魔獣が多く住んでいますので、子供達はむしろ森に入ることを禁じられているんですよね。
そんなことも影響してか、初日の営業は大盛況となった次第です。
◇◇
「やれやれ、どうにか初日を終えることが出来たね」
本日最後の定期魔道船を見送りながら、僕は肩を自分で叩いていました。
今日の僕は、ミミィがきりもりしていたコンビニおもてなしの販売所が大盛況だったもんですから、結局1日その手伝いをした次第です。
「いやはや、すごい人だったねぇ」
ミミィもそう言いながら額の汗を拭っています。
準備していたお弁当も、あっという間に足りなくなりまして、急遽魔王ビナスさんに追加を作ってもらうことになりました。
その輸送を担当してくれたハニワ馬のヴィヴィランテスなのですが、そのヴィヴィランテスが販売所に姿を見せるなり
「あ、お馬さん!」
「可愛い!」
「乗りたい!」
子供達がそんな歓声をあげながらヴィヴィランテスの元に殺到していった次第です。
これに対して、ヴィヴィランテスは
「ちょっとアンタ達、アタシはね、高貴な馬なのよ、アンタ達のようなガキンチョの相手なんてね
1人1回しかしてあげないんだからね!」
……と、まぁ、どこのツンデレなんだよ的な台詞を口にすると、駆け寄って来た子供達を3人づつ乗せて果樹園の中を回ってあげていた次第です。
で、すぐにその順番待ちの列が出来たのですが、最後の1人までしっかり相手をしてくれたヴィヴィランテスでして……集落の皆さんからも大感謝されていた次第です。
「ちょっと店長、なんかいい話でしめようとしてる気がするけどさ、明日は絶対にしないからね」
「あぁ、わかってるって、今日はホントにありがとう、ヴィヴィランテス」
「わかってるわね? 明日は絶対にしないって言ってるのよ」
「うん、わかってるってば」
「ホントにいいの? しなくて、ホントにいいの?」
「……ひょっとしてヴィヴィランテス……したいの?」
「う゛ぁ、ヴァカ言わないでよね、そんなはずあるわけないでしょう……ただ、店長が『どうしても』って言うのなら考えなくもないってだけで……」
「いや、そ、そこまで無理は……」
「言いなさいよ! ここまで馬に言わせておいてそこで引き下がらないでよ!」
と、まぁ、そんなやり取りがあった後、明日もヴィヴィランテスによります乗馬体験も行われることになった次第です、はい。