妖怪斡旋商人
翌週、深雪の店を訪れるものがある。
「ごめんくだしー!」
銀髪混じりの若い男、
「傘は生活には必要でしょうが、古臭い」
深雪の商品にケチを付ける。厳しい言葉を吐く。時代は
搭季の意見に耳を傾けつつも用件を聞く。
「不景気で店員が余ってると聞きまして」
この男の魂胆は知れている。人買いが奴隷を作る商売なら、妖怪商人は政府軍の行う残党征伐に妖怪を送り出す。
「高額礼金の保証付きです。後悔はさせませんよ?」
「たいがいにしておくんなまし。斡旋する子なんておりません」
送られた者の命は保証しない。商売自体が許せない。断りの言葉を告げると、厚手の手袋で深雪の右手を掴んでくる。すっと躱す。
搭季は残念そうな表情をした。
カタンと奥の扉の開く音がする。扉の向こうには玄助が立っている。今日はお茶の試飲会をする日で用意していたのだ。奴隷のように送られる側であるためか、
「い、いらっしゃい」
「ほぉ、丹波の黒豆茶ですか。」
喩え気に食わない人物であってもこの店は客扱いするらしい。
「結構なお味です。お礼にいいことをお教えしましょう。この店を潰すために雲龍入道が店出してますよ」
最近商品の売れ行きが悪くないか尋ねられる。心当たりがある。はじめに商品を貶したのは、この話をする布石だったらしい。
搭季は店内を眺める。雑貨店の壁は小物の詰まった棚がほとんどだが、1角だけポスターが貼ってある。前は学校の演奏会のポスターや競技会のポスターが貼ってあった。近所の学校がなくなってしまい、今は
「
妖怪買いから話題を逸らす。
「狐茶、黒豆の味のお茶ですが、10銭とお安くなっています。おみやにいかがです?」
「ああ、1パックもらいますよ」
鞄を開けると無造作にそれを放り込む。搭季は商売の駆け引きを楽しみ、深雪に親愛の情すら感じている。外に出ると玄助が入り口の掃除をしている。銀狐の毛並みが逆立っている。
「オレの商売が気になるか? 気にすんな」
「でも、塔季さんは僕たちを奴隷のように……」
「いい雇い主に会えたヤツもいるよ。妖しによっては文通してる」
玄助は気の抜けたような表情をする。数刻後ハッとなって掃き掃除の続きをする。その頃には塔季の姿はなかった。