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コンビニおもてなし6号店とオザリーナ温泉郷

 辺境都市バトコンベで開催されていた大武闘大会の翌日。
 
 弁当の調理作業を終えた僕は、開店までの時間を利用してオザリーナ商会温泉施設建設現場へ向かいました。

 ちなみにですが……
 各地とつながっている転移ドアは、本店の厨房から店舗へ向かう廊下の壁に設置されているのですが、6号店への転移ドア設置する場所がとうとうなくなってしまいまして、その向かいの壁に設置しております。
 本来、そちら側の壁は窓があったのですが、それを撤去して壁にして、魔法灯で灯りを確保している次第です。

「ヴィヴィランテスが『まぁた行き先が増えるの? ややこしいわねぇ』とか言って怒りそうだなぁ」
 
 苦笑しながら、僕は6号店の中へと姿を現しました。

 朝早いため、ルア工房の作業員は誰もいません。

 店内はすでに完成しています。
 真新しい棚が店内にずらっと並んでいまして、あとは商品を陳列するだけの状態になっています。
 街道側の壁は、すべてガラス張りになっていまして、そこには

『コンビニおもてなし6号店近日オープン』
 の張り紙がされています。

 なんか、その看板を見ていると感慨深いです……何しろ、僕がこのコンビニおもてなしのオーナーになった際には、支店どころか本店を維持するのにひぃひぃ言ってましたからね。

 それが、何の因果か異世界にお店ごと移動しちゃって、その異世界でどうにかこうにか営業を頑張ってきた結果、こうして6個目のお店を持つことが出来ることになったわけです。

 さらに、定期魔道船や出張所、おもてなし酒場やおもてなし診療所、おもてなし食堂におもてなし商会といった関連店まで持つことが出来ています。

 これは、僕だけの力では絶対に出来ませんでした。
 
 転移した向かいにお店があったルアによくしてもらったり、
 イエロやセーテンが狩りを手伝ってくれたり、
 カガクに惹かれてやってきたスアに協力してもらい、そして結婚して支えてもらって……
 
 いろんな人の助けを得て、こうしてここまでたどり着けた次第です。
 ホントに、みんなには感謝しても仕切れません。

 そういえば、スアが言っていたのですが……僕がこの世界にお店ごと転移してしまったのって、どこかの世界の転移に巻き込まれた可能性が高いそうです。
 なんでも、
『……パルマ世界の住人が……クライロード世界に転移されたのに、巻き込まれた……みたい』
 とのことでした。
 巻き込まれたのはともかく、そのクライロードとかいう世界に送り込まれた人は、今頃どうしてるんでしょうね。
 ひょっとして僕みたいにその世界でお店を開いたり、その世界の女性と結婚して子供を3人くらいもうけていたり……案外、僕と違ってチートな能力をもってたりするのかもしれませんけど、まぁ、それを知る術はありませんので、とりあえずその人のご無事をお祈りしておこうと思います。

◇◇

 コンビニおもてなし6号店は地上3階、地下2階の構造になっています。
 1階が店舗で、地下は倉庫、2,3階は宿泊施設になっています。
 この2、3階部分は一般開放する予定はありません。
 コンビニおもてなし関係者専用の保養所にする予定です。
 3階には温泉が設置されていまして、平坦なオザリーナ温泉郷を一望出来ますので、なかなかなもんですよ。

 一通り施設を見て回った僕は、その足で外に出ました。

 コンビニおもてなし6号店のすぐ横には、オザリーナ商会温泉施設の建物があります。

 地上5階建てのその建物の屋上部分には
『温泉宿オザリーナ』
 の看板が掲げられています。

 先日まで、布で覆われていた建物は、その周囲を覆っていた布も足場もすでに取り払われています。

 どうやら、こちらも完成しているようですね。

 温泉宿オザリーナのさらに横には駅馬車の発着場が建設されています。
 ここから発着する駅馬車が、山向こうにある辺境都市ララコンベとの間を行き来する予定になっています。

 温泉郷の周囲には魔獣除けの柵が設けられていまして、城門も設置されています。

 温泉郷内の通路もルア達が石造りで設置してくれているのですが……問題はそれ以外の部分ですね。

 僕達コンビニおもてなしがこの温泉郷に協力したことで、ララコンベにお店を出されている方々が
「コンビニおもてなしさんが協力してるんなら」
 そう言って、こちらへもお店を出店してくださっています。

 ですが

 そのお店を合わせましても、温泉郷全体の2割程度しか埋まっていません。
 店舗を先に造っておけば、そこに入らせてほしいと言ってこられる業者がいるかもしれませんけど、オザリーナ商会にそこまでの資金的余裕はありませんので、店舗は開店希望者が自費で建てなければならないのが現状なんですよね。

 それなりに質のいい温泉ですし、定着すればそれなりにリピーターが望めるかもしれませんが、そのお客さんを出迎える温泉郷自体がこの状態では……

 一応、オザリーナにも
「出店希望者はしっかり募集してね」
 と伝えてありまして、各地の商店街組合にチラシを配布しているはずなのですが、もうじき開店というこの時期で、この状態では先行き不安と言わざるをえません。

 一応、僕も、辺境都市ナカンコンベのドンタコスゥコ商会のドンタコスゥコにも
「よかったら出店を検討してみてくれないかな?」
 と話を振ってはいるんですけど、
「う~ん……タクラ店長さんのお願いだけに、どうにかして差し上げたいのはやまやまなのですけどねぇ……何の特産品もない出来たての温泉郷に出店となりますとねぇ……」
 そんな感じで、あまりいい返事をもらえていません。
 損得勘定に長けているドンタコスウコが渋るとなると、やはりオザリーナ温泉郷は現状ではかなり厳しいと言わざるを得ないのかも知れませんね……

「う~ん……とりあえず見切り発車してしまうか……それとも、もっとお店が増えるまでオープンを延期するか……」
 温泉郷を見回しながら、僕は腕組みをして考えこんでいました。

 その時です。

 ……なんでしょう
 気のせいか、城門のあたりで何か声がしているような気がします……

「誰かいないー? ねー?」

 なんかそんな感じの声が聞こえます。

 まだオープンしていませんので、城門は閉じたままにしてありまして、衛兵もいないんですよね。
 一応城壁にはスアが防壁魔法を展開してくれていますので、侵入される心配はありません。

 僕は、首をかしげながら城門へ移動しまして、内側からしか開けることが出来ない扉を開けました。

 すると、城門の前に数代の馬車が止まっているのが見えました。
 先頭の馬車の操馬台に座っている女性の1人が声を上げていたようです。

「ここに何かご用ですか? まだ建設中ですので、営業しているお店はありませんよ」
 僕がそう言うと、その女性が僕の元へ駆け寄ってきました。
「あなた、ここの関係者?」
「えぇ、そうですが」
「アタシ踊り子のシャラ、あっちは吟遊詩人のレイレイっていうんだけどさ、この温泉郷で営業させてもらえないかと思ってさ」
 その女性の手には、オザリーナが各地に配布したと思われるチラシが握られていました。

 その女性、シャラは僕を見つめながらニカっと笑みを浮かべています。

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