竜の国2
一歩一歩進んでいた。涙は魔法の才能が無いと知った時流しすぎてしまった所為で出なかった。
地の国に行かねばならないという目的があったから泣かなかったのかもしれない。
上が、空が明るい気がした。
一歩一歩昇る階段で、ようやく気が付く。
下っていた筈の階段を気が付けば昇っている。
元いた場所に戻ってきてしまったのだろうか。けれど門と呼ばれていた蓋は見えない。それに、一度も引き返した記憶は無かった。
ただ、前に前に進んでいた。
それに石で作られた階段は狭く体ごと振り向くことすら難しい。
明るいところまで、一度行ってからそれから考えようと思った。
階段を上がり切ったところにあったのは大きな部屋だった。
それも赤い絨毯と幕が印象的な豪奢な部屋。階段を下り始めたときの様なドアも、簡素な部屋も何も無い。
「乙女よお待ちしておりました」
声をかけられて驚く。
誰かが待ち構えているとは思わなかった。
その人は茶色の髪の毛をしていて瞳が少し金色がかっている様に見えた。
不思議と揺らめいている様に見える瞳に思わず見入ってしまう。
服装は私の国のものとそこまで変わらない様に見える。
けれど、刺繍がとても手が込んだ金糸で、そして手に付けたブレスレッドの様なものは美しい宝石が光っている。
この人が高貴な人間だということが分かる。
「初めまして、私――」
挨拶をしようとしたところで止められる。
「この国では名前は特別なものだ。
だから、名乗る時にはよくよく考えた方がいいですよ」
私と同い年位に見えるその人はそう静かに言った。
意味が分からなかった。
「乙女。詳しい説明は後程いたします。
まずは、国主様にご挨拶を」
私はこの国の事を何も知らない。この国、地の国にたどり着いた後に何をすべきなのかさえも
この国の法律も、マナーも何もわかっていない。現に名前を名乗ろうとして止められた。
けれど、この人は私の事を待っていたと言っていた。
私がここにあらわれるのを知っていたということだ。
どうやってそれを知ったのだろう。
同じように預言がなされたのだろうか。
「行きますよ?」
金色の瞳をしたその人が言った。
この後どうなるのかは知らない。けれど、この人にとりあえずついていく以外の選択肢はなさそうに思えた。