1.慰労会が開かれるそうです
月に1度の警護団の定例会という名の雑談会が開かれる日は、討伐時に着用している洋服で参加する。
定例会の会場はユルバンの市場近くにある、雑貨店の2階だ。
なぜ雑貨店の2階なのかと言えば、寄付された洋服をどこかで保存したい、と警護団の総リーダーでもあるリアムが呟いた一言を聞きつけた、警護団騎士部隊にいるシリカがそれなら、うちの店で、という話しになり、シリカがオーナーになっている雑貨店の2階を借りることになったのだ。
奥に細長いその店の2階はシリカが寝食で使う2つの部屋以外に3つ部屋が空いており、部屋を仕切るドアを開けることもできるので、20人は入れる。
現在の警護団員は魔法部隊が8人の騎士部隊が12人なので、ちょうど20人いる。
この定例会はほぼ強制参加ではあるが、外せない用事がある人は出席した団員から情報共有してもらえばいい、ということにしてあるので、全員出席することはあまりない。
だが、11月の定例会は珍しく全員出席していた。
それというのも、リアムから今日の定例会で治療会の出欠を決めることと、重大な話がある、とテレパシーが送られてきていたのだ。
約束の時間の15時に全員が集まったことを確認したリアムは、3部屋の真ん中の部屋の壁際に立ち、部屋で各々座っている顔を見回してから口を開いた。
「忙しい中、集まってくれて感謝する」
軽く頭を下げ、すぐに顔を上げると話しを続ける。
「まず最初の議題だが、11月の最終日曜日の28日の治療会は実施予定だ。出席できないものはいるか?」
リアムは座っている魔法部隊の顔をひとりひとり確認していく。
「そうか。欠席者なしだな。いつも通りの時間に集合して実施する。宜しく頼む」
リアムはそこで言葉を区切り、ひとつ咳払いをすると、
「次の議題なのだが……」
リアムはためらいながら話しているのを全員見つめている。
「実はだな……魔物退治を頑張ってくれている警護団員の慰労会を開きたいと王城から伝言を賜った」
それはこの場にいる全員が想像していなかった言葉だった。
「なぜ、今更王城が関わろうとしてくるんだ!?」
アルシェが怒気まじりに放った言葉は、その場にいる全員の本音だろう。
この国の各町で警護団を作ることになった理由は、王城が頑なに警護団を作らないと言い張り、魔物が出て、王城に危機が迫ればその分は退治するが、それ以外は関知しない、と通告があったからだ。
また、王城だけ魔物を寄せ付けないよう防御壁を張っている、とか、王城の関係者が魔物と取引をしていて、王城以外を攻撃するように仕向けている、という噂も国中に広くひろがっている。
もし、それらの話が本当であれば、町が魔物に襲われても不思議ではないという危機感から、自主的に各町で警護団が作られたのだ。
それなのに、だ。
今更、王城が警護団を慰労したいというのはどんな冗談なのだろう?
その話を聞いてレーヌも口を開けて、固まってしまった。
レーヌだけではなく、この場にいる半数が同じように口を開けて驚きの表情で固まっていた。
「日時も指定があり、12月3日の夕方から、王城の広間で立食形式でパーティーをするということだ」
リアム自身も動揺しているのか、少し声を震わせながら話している。
「出席については各自に任せる。出席希望者は11月の治療会の日までに俺に言ってくれ」
しんと静まり返った場を見回しながら、
「今日の定例会は以上だ」
とリアムが場の閉会を宣言した。
いつもなら定例会が終われば雑談しながら帰るのだが、今日は王城の慰労会という衝撃的な話しがあったためか、押し黙り、あるいは不機嫌な顔をしながら三々五々帰り始めていた。
だが、魔法部隊の女子チームのレーヌとイネス、リディは部屋の片隅に集まり、帰り支度をしながらなんとなしに慰労会についての話題になった。
「わたし、王城に着ていくドレスなんてないけど、王城に入れるチャンスなんてめったにないよね?」
魔法部隊女子チーム最年少の9歳のリディが茶色の目を輝かせながら、2人の顔を見ている。
「そうね、なかなか王城に行く機会なんてないですわよね?」
イネスもリディの意見に同意する。
「ねぇ、リディ?ドレスの件が大丈夫なら、王城に行く気あるの?」
レーヌはリディに質問してみる。
「うん。だって、王城に行って、王様とか王子様に会えるなんてそうそうないじゃない?」
リディは両手を胸の前で組んで、レーヌを見ている。
レーヌは少し考えて、あたりを見回すと、
「リアム!」
と声を張り上げた。
その声に気づき、こちらに向かってきたリアムに質問を投げかける。
「ねぇ、慰労会に着ていくドレスがないのだけど、どうしたらいいかしら?」
レーヌの質問に、リアムは首を傾げた。
この警護団では身分を明かすことはないが、リアムはレーヌが公爵令嬢だと知っているので不思議に思ったのだ。
「こちらでドレスを用意することにしてある」
「えっ?」
「これも王城からの話でな。警護団員の中でふさわしい洋服がない場合、一式下賜すると聞いている」
レーヌは呆然と話しを聞いていたが、リディはその言葉を聞くと、
「それなら、行きたいです!」
と目を輝かせ元気よく返答した。
レーヌとイネスは顔を見合わせ、
「幼いリディの保護者かわりとして、私たちも出席しますわ」
とイネスが返答した。
「了解した。ドレスについてはあとで連絡する」
とリアムが言うと、リディは笑顔で頷くと、
「ありがとう!」
と満面の笑顔でレーヌとイネスにお礼を伝えた。
定例会の帰り道、レーヌはイネスと一緒の馬車に乗って屋敷へと向かっていた。
隣の屋敷なので、どちらかの馬車で町の中心部に行き、そこで馬車を降りてシリカの店にいくのが定例会の時のお約束なのだ。
今日はイネスが馬車を出してくれた。
馬車に向い合せになるように座ると、イネスがすぐに口を開いた。
「突然の話しで、おどろきますわね」
「ええ、本当に」
レーヌはイネスの言葉を肯定して、首を傾げ、戸惑いを含んだ声で、
「今まで各町の警護団のことなんて見向きもしなかったのに、慰労会を開くなんて……」
イネスも首を傾げながら、
「リディを1人、王城へと行かせるのも問題があると思って私たちも行くことにしましたけど、一体なんの目的があるのかしら?」
2人で首を傾げながら考えていると、突然イネスが、
「それよりも、私たちもドレスを作らないといけないですわ!そんなに時間がないのに間に合うかしら?」
「ああ、そうだわ。時間がないわ」
「両親に相談して、どうするか決めないといけませんわ」
2人して、ため息をついていると、レーヌの屋敷が見えてきた。