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第49話 レンカスタム

 俺たちが向かった町のハズレまでは、いくばくも時間はかからなかった。

 雑草がわずかに生える小さな丘があり、その付近に幾本か木がたつ。まだ夕方でもあるのに、ここにくると人気がまったくない。俺はおもむろに銀色の銃を取り出すと、頭で理解した方法を用いて、マガジンを装填する。擦れ合う音と、奥まで差し込まれた機械的な感覚は、初めて味わう。

 質感は、当然ながら金属ではある物の、なぜか冷たさを感じない。

 銃本体は、もっていないと思えるほどの軽さだ。それなのに、手にはしっかりと吸い付くように馴染み、感覚的にはしっくりくるので、不思議なものだ。

 若干腕を伸ばして、顔の前に右手でもった銃を構えた。できるだけ顔の近くにし、銃口と目線を一致させて左手は、右手を支える形で添えた。

 目の前の木に向けて、まずは一発。

 硝煙の香もなく、薬莢が飛び出すこともなかった。ただスライドが後方に動き、射出音が鳴る。まるで、焼ごてを水に突っ込んだ時の、瞬時に蒸発する音に似ていた。

 次の瞬間、予想外のことが起きた。木が拳大の大穴を開けて弾が貫通していたのだ。

 俺は確認のため、他の木を狙いもう一発撃つと、同じ現象が起きた。さらに、近くに転がる岩を狙い撃つと、また同じく、拳大の穴を開けて貫通する。

「……すごいな」

 思わず声が漏れ出る。ここまでの貫通力があるとは、想像もしていなかったからだ。するとヒナミは、俺に寄り添うように、声をかけてくる。

「へー。レンは銃も扱えるんだ〜。どこで習ったの? もしかして日本では、ギャングだった?」

「……いや、多分違う。記憶はない」

 何かこの女には、違和感しか感じない。俺の返答に驚いたのか、考え混んでしまった。

「レン! すごいなその杖は!」

「ああ。そうだな。試しにこのまま出し入れをしてみるか」

 握ったまま内側に収まるイメージを描くと、すんなりなんの違和感もなく体内に溶け込んでしまう。想像以上に早く、一瞬でできた。そして、握った状態の時を意識すると、瞬時に現れる。

 次に、他人に奪われた時にどうなるか試すべく、リリーに協力をしてもらう。

「リリー、この銃をもっていてもらえるか?」
 
 ところが、渡そうとしても手からは離れない。意識して離しても、リリーは触れることすらできなかった。

「あれ? レン、見えるけど触れられないな?」

 何度もリリーは触れようと努力をしてみても、触れることはできなかった。他人はふれられず、奪われる心配がない武器だ。しかも弾は今のところ、岩ですら貫通する。さらに体内から瞬時に出し入れができて、弾も無制限ときた。

 すごい武器だな。一対一であるなら、有利にことが運べそうだ。

 あとは、三十発以上撃てるなら無限に近いだろう。再度俺は確かめるべく、再び取り出す。

「すまない。もう少し確認させてくれ」

「は〜い」

「分かった! レンの好きなようにするといい」

 俺は岩に向けて、続けざま引き金を何度もひく。そこに岩があったことを忘れてしまうぐらいの状態になってしまう。今は何もなくなり、五十発を超えたあたりで、一旦撃つのをやめた。

 終わりのないことに、ようやく答えが出た。無限だ――。

「待たせたな。確認はできた宿に帰るぞ」

 俺たち三人は宿に向かった。

 ヒナミとは部屋がかなり離れているため、どうにか引き離して別々の部屋に向かう。俺とリリーは同じ部屋だ。

 どこかで姿をくらましたいと考えていた。俺たちの戦いには、足手まといだからだ。蓮次郎の過去の女だとしても、俺には関係がない。冷たいようだけど、捨て置く。

 危険性で言うと力がなければ、今度は俺たちが危険になる。そのことについては、リリーも同じ考えだった。図書館で次の目的地が判明次第、転移ゲートを使い巻いてしまおうと、俺とリリーは作戦を考えた。
 
――翌朝。

 俺たちはすぐに、図書館に向かう。思ったより図書館の方が早かったようだ。早速俺たちは、再び”ヴェーダの涙”なるアイテムの所在についてヒントとなる情報を漁る。

 探しはじめてから数刻後。

「レン! この本は、可能性が高そうだぞ」

「ん? デーヴァの城? そんな遺跡があるのか?」

「ああ。この本を読むと、かつてデーヴァを信仰していた者たちが、神の秘宝とする”ヴェーダの涙”を祀っていたようだな」
 
「そこまでの物だと、盗掘されていそうだけどな。行ってみる価値はありそうだな……」

「ただこの本だと、地名などの場所がまるで示されていないんだ」

「後でアルにでも聞いてみるか。でかしたぞ! デーヴァの信仰関連も調べてみるか」

「私は、デーヴァの城を引き続きしらべてみる!」

「頼んだ」

 俺たちは、順調に情報を集めていった。ヒナミがきた場合は、別の情報を流して撹乱する予定だ。あの女はやはり、どこかおかしい。何かを知っている素振りもある。
 
 俺には、このアイテムがどこかまた、地下深くの遺跡ではないかと思っていた。今まで偶然にしても、地下に関わることが多い。

 あの塔だけは別物ではあったけど、思い起こせばあの字”Congratulation”は、一体どういうことなんだろうか。

 わざわざゲーム的な側面を見せてまで、何を演出したかったのか。そもそもあの仕掛けを用意したのは、元地球人ではないかと思っている。このどこかで、世界が誰かの手で動かされているかも知れないと思うと、どこか不気味でならない。

 俺は、気になりつつも再び本に目を落とした。

 ちょうどその時だ、またあの人物がやってきた……。

「バルザ……」

「レン、久しいな」

「掃除か?」

「ああ、掃除だ。今はまだいない。近いうちにやってくる」

「他の奴らは?」

「ああくる。お前を狙ってな」

 また追っ手が、やってくるようだ。

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