3.ただいま!
魔物退治に行くときは部屋のバルコニーから飛び出るけど、家に入るときは普通に裏口から入る。
愛馬のオレリーを厩舎に預けるという名目があるので、これも暗黙の了解だ。
持たされている鍵で裏口のドアを開けて入り、鍵を閉めてから両親を起こさないよう静かに屋敷の中に入って行った。
2階の自分の部屋にたどり着いた時に、部屋から灯りが漏れているので、不思議に思いゆっくりとドアを開けると、目の前に侍女のアラベルが仁王立ちしていた。
驚きを顔に張り付けた笑顔で、
「アラベル、ただいま。どうしたの?」
と小声で話す。
アラベルはにっこりと微笑み、
「お疲れのお嬢様を癒そうと、湯あみの準備をしておりました」
「あっ」
レーヌの口から間抜けな声が出た。
湯あみの準備中に呼び出されそのまま討伐に向かっていたのを忘れていた。
「お嬢様、明日はリュカ様がいらっしゃるのですよ?精一杯体を磨かせて頂きます!」
と鼻息荒く、腕まくりを始めた。
リュカ、というのは、9歳の時に魔物から助けた少年の名前だ。
確か、ユルバンの隣の領地に住むナタン公爵家のご子息で、3歳年上だ。
小さな頃、剣の腕は近所の少年に負けないほどで、あの討伐の少し前くらいから突然魔法が使えるようになったので、両親を説得して初めて参加した討伐だったらしい。
討伐の翌日、約束通りこの家に来てどういった状況でけがをしたのか、現地での治療状況も合わせて話してくれた。
その日以降、けがを負わせたことを気にしているのか、時折、花束を持ってこの屋敷にくる。
父親は身分も悪くないし、婚姻の申し込みがあればいつでも許可すると言っているけど、私まだ15歳だからね。この国の成人年齢である16歳までは時間があるし。
それに、たぶん、婚姻するとかしないとか、そんな関係ではないと思う。
つらつらと考えていたら、アラベルに手を引かれ、あっという間にバスタブに連れてこられ、体を沈めていた。
「今日はどこもけがをしていませんか?」
髪を梳きながらアラベルは聞いてくる。
討伐に出たあと、必ずそう問いかけられる。心配をかけているのは両親だけではないんだな、と思う。
「今日は大丈夫でした」
と笑顔で頷くと、アラベルは安堵した表情になり笑顔を浮かべていた。
湯あみが終わり、髪を乾かしてもらったところで、アラベルは、おやすみなさい、と言って部屋から出て行った。
ゆっくりとベッドに潜り込むと、あっという間に眠りに落ちた。