ララコンベどったんばったん その6
結果的に、オザリーナが新会長に収まってしまったオザクザク商会は、船出早々借金で転覆という事態からは逃れることが出来ました。
ですが、根本的には何も解決していません。
オザクザク商会が開発していた土地をみんなで調べてみたのですが……
・土壌は痩せていて農場に転用出来ない
・近くに小川しかないため温泉施設を作っても生活用水をまかなえない
・地下水脈も皆無
・街道から離れているため、人を呼び込みにくい
と、まぁ……たとえ温泉施設が完成したとしても、現状マイナス条件しかないわけです。
オザリーナ達はこんな悪条件の土地を『温泉が出る』との偽情報を信じてオザクザク商会の残り少ないお金を突っ込んだわけです。
これでは、僕の世界でいうところの原野商法といえなくもありません。
オザクザク商会がポルテントチーネに支払ってしまったお金は、本来であればポルテントチーネの有罪が確定すればその資産を回収して返金されるはずですが、あのポルテントチーネのことです、周到に隠していてまず回収されないでしょうね……
「やっぱり……もう、どうにもならないのですね~……」
オザリーナは涙目でその場にへたり込みました。
う~ん……
なんとかしてあげたいとは思いますけど、こんな悪条件の土地では打つ手がありません。
実際に質の良い温泉が出ているのであれば、ララコンベ温泉郷と姉妹縁組みをして相互にお客さんを行き来してもらい、それぞれの温泉を楽しんでもらうことで集客をアップさせることも出来るかもしれませんけど……
一応、スアに地下の泉源がないかどうか調べてもらったのですが、この周囲にはやはりララコンベ温泉郷の泉源が1つしかないそうです。
「……近くに大きな川でもあれば、地下にその水を送り込んで温泉の量を増加させられる、けど……」
スアはそういいながら水晶樹の杖をかざして近くの地形を探っていきました。
ですが、このあたりに詳しい4号店のララデンテさんに来てもらって話を聞いて見たところ、
「この一帯はもともと火山地帯でさ、近くに川なんてないはずだぜ」
そう言いながら首をかしげています。
この一帯の神様として長年崇められている思念体のララデンテさんが知らないとなると、さすがにお手上げか……僕はそう思っていたのですが
「……見つけた」
スアはそう言うと、水晶樹の杖を北の方へ向けました。
しばらくすると、何やら地下の方でゴゴゴと、音がし始めたような気がしたのですが……ほどなくして、枯れていたオザクザク商会の温泉施設の中に温泉が噴き出し始めたではありませんか。
これは、スアが閉鎖していたあの管を開いたからこそ流れ込んできたわけですが、ララコンベ温泉郷の湯量がいきなりに増加していたため、こうしてお湯をオザクザク商会の温泉施設に引き込んでもララコンベ温泉郷の湯量はまったく減っていませんでした。
「スア、このお湯の元になっている川の水ってどこから引いているんだい?」
「……ずっと北……オトの街の近く」
スアによりますと、その川はオトの街の近くを蛇行しながら流れている川だそうでして、大雨が降ると反乱してオトの街を襲いかねない川なんだそうです。
その川の水を、オトの街の人の生活水分は残し、余剰分を魔法でこちらに引き込んで来たんだそうです。
「温泉が~……温泉が~……」
オザリーナは、地下から勢いよく吹き出している温泉を見つめながら歓喜の表情を浮かべています。
こうして、近くにララコンベ温泉郷があったおかげで、どうにかオザクザク商会の温泉施設に目処がつきました。
僕は、ルア工房のルアに来てもらいまして、このオザクザク商会の温泉施設について相談しました。
現時点では、オザクザク商会はほとんどお金を持っていません。
まずはそれをどうしようかと思っていると、
「魔女信用金庫の単眼族ポリロナと」
「同じく巨人族のマリライア」
「「お金絡みのご相談をかぎつけて、呼ばれる前に即参上!」」
と、魔女信用金庫の2人が僕達の後方でポージングしました。
「……っていうか、さっきからいたよね、君達」
「まぁまぁ、店長さん」
「細かい事は気にしてはいけませんよ」
にこやかに微笑みながら、2人はオザリーナの元へ歩み寄っていきまして、なにやら相談し始めました。
で
その結果、このオザクザク商会の温泉施設を建設するための費用を魔女信用金庫が低金利で貸し付けることになったそうです。
まだ成功するかどうかもわからない施設にお金を貸すなんて……と、僕は思ったのですが、
「大丈夫です、この施設はきっと成功します」
「私達が言うのですから間違いありません」
2人はそう言いながら再びポージングしていきました。
……ほ、ホントにそうだといいんだけど……
2人はどうやら本当に成功すると確信しているらしく、この契約に保証人をとりませんでした。
僕が元いた世界ではありえないことです、はい。
なんか、そんな話を聞いていると、計画を代行して進めている僕もちょっと緊張してしまいます。
ルアと、オザリーナも交えて相談した結果。
まず最初は基幹施設を建設することにしました。
具体的には、温泉宿ですね。
で、温泉宿の経営が軌道に乗り始めたら徐々に周辺にお店を増やしていけばいいかな、と思っている次第です。
実際のところ、最近のララコンベ温泉は定期魔道船のおかげで連日多くのお客さんが押しかけいまして宿が満室で泊まれないお客さんが出ちゃう日も少なくなかったそうなんですよね。
そういうお客様をオザクザク商会の温泉宿に案内する方向でまずはスタートしようと考えている次第です。
ただ、温泉施設となりますと当然食事を作れる人がいないといけないわけですが……
「料理職人も~……ウスシオーネさんが手配してくれる段取りになっていましたので~……あてがまったくないのです~」
そう言うと、オザリーナは再び涙目になっていきました。
なんといいますか、ここまでくるともう笑えてくるから不思議ですね。
で、まぁ食事に関しましては色々考えた結果、ララコンベにありますコンビニおもてなし食堂エンテン亭の支店を宿の中に建設することで調整することにしました。
いえね、エンテン亭を経営しているテンテンコウ♂からですね、
「バイトも雇って、お店が軌道にのった……いいお話があれば支店を考えてみたい」
そう、相談をもちかけられていたんです。
そこで、良い話と言えるかどうかは微妙ではあったのですが、この話をテンテンコウ♂にしてみたところ、出店することを快諾してくれた次第なんですよ。
なんでも、最初の支店は少人数で小規模なお店から始めたかったそうで、この話は願ったり叶ったりなんだとか。
このエンテン亭支店は、エンテン亭本店で調理を行っている猿人四人娘の1人、グー子が行う事になりました。
で、店員は、4号店の店員ツメバの奥さんのチュンチュが来てくれることになりました。
チュンチュは、こちらの生活にも慣れたのでちょうどバイトでもしようかな、と思っていたところだったそうでして、ツメバ経由でこの話を聞くと、二つ返事でOKしてくれたんです。
なんかこれ……ツメバが、チュンチュに4号店のバイトに来て欲しくないから、意図的に仕向けたんじゃないかって気がしないでもないのですが……ただでさえ日頃からチュンチュの尻にしかれてますからね、ツメバって……
まぁ、そんなわけで、食事に関しても目処が付きました。
あとは、あれこれ買うことが出来るお店があれば……
「……そうだなぁ……乗りかかった船だし、コンビニおもてなしの出店(しゅってん)を考えてみるか」
僕は店舗検討部門のブリリアンに連絡をとりまして、オザクザク商会の温泉施設の調査をしてもらうように依頼しました。
その結果をもって、コンビニおもてなしを出店するか、出張所を出店するか、決めたいと思います。
そんなわけで、どうにかオザクザク商会の温泉施設に目処が立った次第です。
温泉宿の経営は、もちろんオザリーナにしてもらいます。
なので、温泉施設をどのようにして、どうやってお客さんに楽しんでもらうかについてはオザリーナとルアの間で話し合ってもらうことにしました。
ここまでしてあげたのですから、最後の部分が自分でやってもらいませんとね。
こうして、オザクザク商会の温泉施設の建設が装いも新たに開始されました。
「ホントにもう~なんとお礼を言えばいいのやら~」
オザリーナは、そう言いながら何度も僕に頭をさげてきました。
「施設や宿の従業員に関しましては~、不本意ですが~、実家に頭を下げまして~、実家のお屋敷で働いているメイド達に来てもらおうと思います~」
「実家のメイド?」
「はい~、実は私の実家って~、王都の貴族をしているんです~。私は~実家を出て~、一社会人として働きたかったので~、実家とは縁を切っているのですが~、ここまで店長さん達にしていただいたのですから~私としましても~背に腹は代えられません~」
オザリーナはそう言いながら笑っていました。
あぁ……それでか……
魔女信用金庫の2人がオザリーナから保証人を取らなかったのは、きっとこのことを知っていたからですね……何が「きっと成功する」だよ、まったく。
僕は、建設中の温泉施設を、目を輝かせながら見つめているオザリーナを横目で見ながら、魔女信用金庫の2人のことを思い出し、思わず苦笑していたのでした。