いけにえ2
年老いた魔法使いが私をみて陛下に耳打ちをした。
その内容は分からない。
私を生贄にするという事は恐らく決定事項だ。今更なにか付け加えることがあるとは思えなかった。
それとも、何か生贄の条件の最終確認をしたのだろうか。
見て分かる様な条件なのだろうか。
見た目で思い当たるのは、私の髪の毛は少しだけ水色がかっていること位だ。
それだって、少ないと言えばそうだけど、私一人だけという程珍しくはない。
私の父の髪の毛もやや水色がかっている。
本当に珍しいのはピンクブロンドと呼ばれるうっすらとピンクが混じった髪の方だ。
まさにリゼッタ嬢の髪の毛はその色だ。
選ばれた者だからこそ、ああそう言えばという話はあるけれど、それは私にも当てはまるのだろうか。
それとも、魔法使いだけに見える何かがあるのだろうか。例えば精霊に嫌われる匂いだとか、魔法力の少なさだとか。
けれど、それは事前に調査されているのだろうと思った。
私が気が付かなかっただけで、誰かが私を確認して、それで今日ここに呼び出された。 だから今更耳打ちするような事があるとは思えなかった。
私は陛下に微笑みかけたまま、会釈をした。
きちんとした令嬢としてのマナーのある会釈だ。
幼いころから何度も何度も練習してきたそれは、こんな状況でも手も震えていなかったし、足もふらつかなかった。
スカートをつまむ指先は緊張で冷え切っていて、もはや感覚が無いけれど陛下に対して失礼にならない態度がとれた。
このまま何を言われても泣かず、きちんと貴族の娘としての礼儀を保ったままこの場を終えたい。
もう、決まってしまったのだからどうしようもない。
「サラ・ウェルズリーでございます」
声もかろうじて震えていなかった。
陛下は一言、二言挨拶を述べた後話の本題に入った。
「これは苦難を伴う、務めとなる。
それでもあなたであれば務めを果たせると信じ、この勅命をくだす」
ああ、ついにその時が来てしまったのかと思った。
王命の書かれた紙を読み上げる大臣の言葉はすべてを完璧に理解できてはいない。
儀礼のための文章は普段話す時のものと大分違う。
けれど、これだけは分かった。やっぱり、生贄に選ばれたのは私だった。
私が生贄として地の国に行かなければならない。