45話 塔へ(4/5)
「手強いな奴は……」
俺は、目の前にいる騎士から発せられる”何か”を感じとっていた。
今までとは全然違うタイプだ。むしろ、帝国ダンジョンの四十層にいた騎士を強化した奴にも見える。
「レン、帝国のダンジョンの奴に似ている気がするぞ」
確かにリリーいう通り、あのダンジョンで遭遇した騎士にどこか似ている。気のせいかもしれないし、そうでないかもしれない。今は、用心に越したことはない。同じくダンジョンの完全蘇生を利用して、肉体保管をしているとしたら、焼印師の関わりがあるはずだ。
そうは簡単に通らせはしないだろう。
俺はリリーと同時に放ち先制攻撃を与える。
「ダークボルト!」
「フェアリーランス!」
相反するそれぞれの輝きが、騎士に殺到する。着弾して仕留めたかと思いきや、騎士は悠々とシールドを正面に構えた。
――魔法が自ら避ける。
何が起きたのか、魔法自身が避けて通ったようにすら見えた。俺たちは繰り返し放つ物の、変わらずだった。
アンチマジックでもない、かといって強固な魔法防御でもない。
少なくとも騎士の動きからすると、盾以外では魔法を受け止めようとしない所を見ると鎧は異なるのかもしれない。とはいえ、誘き寄せるための罠かもしれない。
この膠着状態のままにすることにも行かず、俺は接近戦に挑む。
「リリー、俺は前に出る!」
「わかった!」
俺は驚愕した。視界に見える範囲は全て、白銀の一色に染まる。俺の踏み込みより早く迫る騎士は、音もなく盾を正面に押し出して、本体ごと俺の全身に当ててきた。
――避けられない。
俺が踏み込んだ勢いと騎士の踏み出す勢いの相乗効果で、全力で壁に突っ込んだかのような衝撃を喰らう。
「グハァッ!」
俺は宙を舞うと同時に騎士は、袈裟斬りを繰り出す。背後に迫る剣に対して体を無理やり捻り、拳一つ分かわす。このまま刺突の猛攻を予測していたところ、一瞬にして後退すると元の立ち位置に戻っていく。
「レン!」
「問題ない!」
「わかった!」
俺はすぐに反撃に出た。
体勢立て直し以前に、攻め続けなければ勝機は見えない。範囲殲滅としてのダークインフェルノを展開した。火炎なら、騎士の盾でも防ぎようがない。もし奴の装備が現時点において最強ならまだ、可能性はある。
「ダークインフェルノ!」
「フェアリーレイン!」
黒い炎は、周囲を焼き尽くしながら騎士に迫る。盾は構えても炎に飲み込まれていく。盾以外の部位はどうやら脆かった様子だ。鎧はヒビだらけとなってしまい盾だけが健在だ。
この火炎の中で急接近をして、ダークインパクトを当てられた。衝撃さえ伝わればよく、損傷は二の次だ。どうにかして、剣を持つ手に当てられ狙い通りにいく。騎士は思わず手を離してしまい、剣は俺の後方へ遠く宙を舞う。
向かった先は、リリーがいる方向だ。即時後退して俺は剣を奪った。
再び助走をつけ、体当たりを繰り出と同時に、剣を振り抜き当てた先は、首筋だ。さすがにこの剣だけあり、切れ味が鋭い。簡単に首がはねられてしまい、青血が噴水のように首から吹きあふれた。
討伐後、体内にある魔石も入手して、魔石とともに剣と盾も回収した。
今回は、苦戦続きだ。魔法が聞かないアンチマジックタイプや魔法自体が回避してしまうタイプと二通りの激戦だった。過去、討伐をしたことがない。
多少の負傷はした物の進む分には支障ない。今回の魔石収納でだいぶ赤色が増してきている。あと、どの程度まで必要か未知数である物の、そう遠くない未来に予定の質まで向上ができそうに思えた。反対に順調に濃さが増すのは、それだけ苦戦をする相手がまだまだいるわけだ。
「なんか魔法が直接効かない敵ばかりだな……」
「私は、魔剣に切り替えて挑めるぞ!」
「そうだな。二人で前衛をするといざ何かあった時、対処が困難になる。だからリリーは今のまま頼む」
「わかった。私の精霊としての力もましたと思うから、まだまだやれるぞ!」
「助かる」
俺たちはしばらく敵に遭遇することもなく、歩みを進めていた。騎士を倒して以来、すでに1時間は経過している。なぜか雑魚すら遭遇しない状態だ。周りの景色は変わらず石壁が続く。
行き着いたのか、道の先には大きな広場につながっている。ただ誰もそこにはいない。あるのは死体だけだった。つまりはついに最終地点なのだろうか。魔獣もいなければ、その残骸もない。周りに飛び散る残骸と呼べる物は少しばかり奇妙だ。
人はわかるし、獣人もわかる。ここの地域や帝国のダンジョンですらみたことがない異形の残骸も無数にある。古い物も新しい物もあり、種類も形も千差万別だ。
「どうなっているんだ?」
「私もみたことがない者たちばかりだ」
俺たちはこの場所というよりは、残骸ばかりに目がいってしまった。比較すると異形の方が多いのもあるだろう。何かここで行われていたのは間違いなく、攻撃の後がありありと残る。
何が起きたかより、もっと大事なことはいつ起きたのかだ。
ざっとみた推測であるなら、一日以内で古い物は数ヶ月だろう。白骨化している物もあるからだ。
周囲を観察しているうちにこの広場の出入り口は、いつの間にか消えていた。
「リリー。どうやらここが最終地点かもしれない」
「そうだな! 全力で行くぞ!」
何かの兆候なのか、反対側の出入り口にはただよらぬ気迫が舞い上がる。俺たちは、深淵の闇から何を見出すのだろうか、二人で出入り口を見つめていた。