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いけにえ選び



 王宮から来た書状には綺麗な封蝋が押されていた。
 私が王家から手紙を受け取るのはこれが初めてだった。

 美しく漉かれた紙に花の紋章の封蝋は気品があってとても美しい。
 デビュタントの招待状で初めてこの美しさを知る人生がよかった。

 けれど私の元へ書状が届いてしまったのは事実で、恐らくこれは生贄になれという王命を下すためのものだ。

 地の国に赴かなければならない人間の条件は国民には知らされていない。
 貴族の子女という条件があるのだろうか、それとも魔法の力が弱い事が条件なのだろうか。それはまだ分からない。
 けれど、条件に合う人間の中で一番国にとって要らない人間を選ぶはずだ。

 私は精霊とも契約が出来なかった所謂出来損ないだ。だから、その要らない人間に選ばれてしまっても当たり前なのかもしれない。
 父が怒っていたのはそれが原因なのかもしれないと思い至る。

 地の国に赴く、と言っても預言の内容は、地の国に嫁げでもなければ、特使としてでも無い。事実、私の様な儀式を終え名目ばかりの成人を迎えた人間が国交も無い国に行ったとしても何ができるものか。
 実質的な生贄だ。
 片道切符を渡されて地の国に放置されるなんて、まさに生贄そのものだ。
 辻馬車だって、基本的には往復で走っているのに、帰りの方法が無い。

 そんな預言だ。けれど、王家からの呼び出しを断ることはできない。
 王命として言われれば従わなくてはならない。

 せめて、私一人で地の国へ赴ければと思った。
 誰かを随伴してその人を巻き込みたく無かった。

 けれど、預言の詳細が分からない。何故、私が選ばれることになるのかなんて精霊と契約が出来なかったことしか思い当たらない。

 そもそも地の国がどんな国なのかを知っている人間がいないのだ。
 いくら本を調べても地の国については何も書かれていない。

 海を挟んだ大陸の話はいくらでも見つかるのに、隣り合っている筈のその国の情報はどこにも書かれていない。
 唯一私が見つけられたのは、昔のおとぎ話のかけらの様な文章だけだった。

 この地の下には、あれが埋まっているんですよ。
 あれ、の部分はかすれてしまって読み取れなかった。

 何が埋まっているのだろう。地の国と関係ない様な気がするけれど妙に気になってしまった。
 それ以外にめぼしいものは何も見つからなかった。

 王都にある大きな書庫を確認してもそれは変わらなかった。

 父は激昂していた。何かを知っているからこそ怒ったのかもしれないと思った。父は、なのか貴族の一部がなのかは分からないけれど、どう行ったらたどり着けるかもわからない隣国の事を知っているのかもしれない。

 けれど、父に聞いていいのだろうか。聞いたら地の国について教えてくれるのだろうか。

 父は必要な事はいつもきちんと丁寧に説明してくれた。
 その父が私に話さないのだ。何か事情があるのかもしれない。

 それなのに、これから私が生贄として行かねばならぬ国はどのようなところですか? と聞いていいのだろうか。
 それすらも、もう私には分からなかった。

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