俺たちが呼ばれた場所、理由は?(優也視点)
聖也のために用意されたコップは小さく、聖也にピッタリのコップだった。また出された飲み物も、俺に出された紅茶のような香りのする飲み物ではなく、果物のジュースで。余程美味しかったのか、すぐにおかわりを頼むことになった。その様子を、ニコニコと優しい笑顔で見てくるアーネル王。
聖也が落ち着いたようで良かったが、一体何が起きているのか。俺達の家に現れたあの魔法陣のような物、そして通って来た道。気づけばあの大勢の人や、獣人とでも言うのだろうか、見たことのない人々が俺達を囲んでいて。また、あの最初に来た建物、あの作りも見たことがない物だった。
あの時俺が取り乱すことなく、何とか話をすることができたのは、聖也が居てくれたからだ。もし守るべき聖也が居なければ、今頃混乱し、暴れ。もしかしたらあそこに居た騎士達に何かされていたかもしれない。
俺は何とか自分を落ち着かせ、少しでも情報を集めようと、人々の声に耳を傾けた。またフリップと名乗ったあの人の話しも、少しも聞き逃さないように気を付けて。
そして確信し、そして分かった事といえば。まぁ、獣人や見た事のない生き物を見たことから、ここが地球ではない事。何かの理由で俺達がここへ呼ばれた事。しかし予想外の事が起きた事。予想外とは、おそらくここへ来たのが、聖也のような小さい子供や、小さな生き物がいた事だろうが。他にも、俺達が危険人物ではないと判断しかねている事などを知る事ができた。
分からないことの方が多いが。これだけ分かっただけでも良いだろう。ここは一体どこなのか。城や王、そして見た事のない物ばかりで。
これから話を聞くが、あまりいい話ではないだろう、という事だけが今1番分かっている事のような気がする。
そして聖也のジュース飲みが落ち着き、ようやく話が始まったのだが、やはり俺の考えは当たっていた。
まずここは、アンリオールという国だということ。この世界には大きく分けて8の国があるのだが、その中で1番大きな国という事だった。そして人と獣人、魔獣達、すべての生き物が平和に暮らしている国だと。どうも国によって違うらしい。
その後もまったく知らない土地の名を聞き、改めてここが地球ではないことを思い知らされた。
少しして俺は、おおざっぱだがここが何処なのか知る事ができたので、次は俺達がここへ来た理由を聞くことにした。
「それで、俺達がここへ来た理由は?」
「そうじゃのう、どれから話したものか。先ずは其方たちが最初に現れた、あの建物についてなのじゃが。あそこはとても神聖な場所で、我らの神が祭られている神殿だ」
そう、やはりこの話は、考えていた通り良くない物だった。俺にと言うよりも、聖也やポチ、にゃんにゃんにとってと言うのが正しいが。
この国、いや、他のいくつかの国が祭っている神。名はフーディークレイズと言うらしいが。その神を祀っているのが、あの建物だったらしい。
話は数日前にさかのぼる。俺にはその辺のことは良く分からないが、フーディークレイズ神は、この国、いやこの世界に何か良くない事が起きる時に、神託というものを人々に与えてくれるらしいのだが、その神託が数日前にあったと。
その内容は、何時という確実な事は分からないが、近々勇者が召喚されるというもので。昔100年以上前に、同じ事があったらしい。
勇者が召喚される。それは魔王が復活することを示していて、その魔王を倒すために、他の世界から勇者が召喚され、この世界を救ってくれる。それは、この世界のすべての国が共有している事実なのだそうだ。
俺はその話を聞いた瞬間、大きなため息をついてしまった。何だろう、この話の流れは。どこかの小説の中にでも迷い込んだか? それとも俺は今寝ていて、実はこれは夢の中の出来事とか?
勇者? 魔王? 止めてくれ。おい、俺。寝ているなら今すぐ起きろ! なんて自分に言いながら、その心のうちは、今起きていることが現実だと、ただただ認めたくないといった感じなのだ。
そんな俺の気持ちをよそに、聖也がジュースのおかわりと、元気な声で言ってきた。頼む、少し大人しくしていてくれ。あ、ジュースを飲ませておいた方が、大人しくしているのか? プチ混乱中の俺に、聖也は新しく入れてもらったジュースを飲みながら。ニコニコ笑いかけて来た。
「はぁ。話は分かりました。それで俺達は元の世界へ帰る事は出来るのですか?」
俺がそう言うと、すぐさま怒鳴りつけて来た男が1人。
「今の話を聞いていたのか!? 魔王が復活しようとしているのだぞ! お前は勇者として、フーディークレイズ様に呼ばれたのだ! これがどんなに光栄な事か! それを、すぐに帰る話をするとは!!」
…何だろう。何処の世界にも、こう自分の、いや、答えが複数あっても、自分の考えだけがさも正しいみたいに話す奴が居るもんなんだな。大体、俺達は勝手にここへ連れてこられたんだ。何の説明も受けず、勇者になるとも言っていないのに。
俺は男の態度に、思わずそう言ってしまった。
「何だと貴様!! 特別に呼ばれたからと、いい気になりおって!!」
いやいや、良い気も何も、別に俺の考えが普通だろうよ。と、また反論しようとしたとき。アーネル王が、今までの聖也を見ていた時の雰囲気は消え、男を睨みつけながら、
「お主に発言を求めたかの。今すぐ座るんじゃ」
そう男に言い放った。男が苦虫を嚙み潰したよう顔で、ドカッと椅子に座る。このアーネル王の迫力。ああ、王なんだなと納得してしまった。
「すまない。ユウヤ殿。セイヤも大きな声を出してすまなかった」
ハッと聖也を見る。セイヤはジュースを持ったまま、しかも片方にはぬいぐるみを持ったまま。俺の後ろに隠れるように、椅子すれすれに座っていた。