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8、知らない人と初めてのお話し

「ようこそ、我が国へ。私の名はフリップ。私の言葉は分かるだろうか」

「…」

 男の人は優也お兄ちゃんを見ながらそう言ったんだけど、優也お兄ちゃんじっと男の人を見たまま、何も言いませんでした。今、男の人フリップって言ったよね。タマ先生と男の人を睨んだまま話をします。
 
 この男の人の名前はフリップって言って、今のところ攻撃してくるような感じはしないってタマ先生が。僕もそう思うけど。でも今会ったばかり。いつ攻撃態勢に変わるか分からないから、気を付けましょうって。

 それからフリップは、言葉が分かるか聞いて来たよね。僕はフリップの言葉分かったんだけど。タマ先生も分かったみたいです。
 人間は色々な言葉を話すって、僕タマ先生に前に教えてもらってました。僕は聞いた事なかったんだけど、タマ先生は魚屋さんで聞いた事があって、英語って言う言葉だって。他にもあるみたいだけど。きっと僕は日本語しか分かりません。日本語って言うのは、優也お兄ちゃんや聖也が話してる言葉ね。他の言葉は覚えるの大変みたい。

 あと、僕達動物もそれぞれ言葉は違うんだけど、動物同士でお話するのは関係ないみたい。人間には『わんわん』とか『にゃあにゃあ』とか。色々聞こえるみたいで、僕達が何て言ってるか、分かってくれないんだ。お兄ちゃん達も僕達みたいだったら良かったのにね。

 それでね、今フリップは、お兄ちゃんに言葉が分かるかって聞いたでしょう? でも優也お兄ちゃんは何にも答えないで黙ったまんま。だからフリップの話してる言葉は、日本語じゃないのかも。タマ先生も同じ事考えてたみたいです。

『私は普通に分かるから、てっきり日本語だと思ったのだけれど。でも何も言わないものね』

 タマ先生とそんなお話してたら、またフリップが話してきました。

「どうかな? 私の言葉は分かるだろうか?」

 またまた何も優也お兄ちゃんは言いません。やっぱり分かんないんだ。あっ、もしかして、僕の言葉だったら分かったりして。見た事のない人達だからもしかしたら。

「…この世界に来れば、自動的に話せるようになっていると聞いていたが。陛下、どうも我々の言葉が分からないようです」

 フリップが、王様に似てるおじいさんの方を向いてそう言いました。待って! 僕もタマ先生も分かるよ! 僕はフリップに向かって、大きな声で吠えました。そしたら優也お兄ちゃんがビクッてして、慌ててフリップに話しかけます。

「わ、分かる。言葉分かります!!」

 優也お兄ちゃんの言葉にフリップがまたこっちを見て来て、それからさっきよりももっと優しく、ニコッて笑いました。

「そうか、それは良かった。突然の事で驚いただろう。今どういう状況か説明したく、場所を移動したいのだが良いだろうか」

 優也お兄ちゃんが体を固くさせます。だっていつもお兄ちゃんは、聖也や僕に言ってるもんね。知らない人に付いて行っちゃ行けませんって。知らない人に付いて行くと、何処か知らない場所に連れて行かれて、お兄ちゃんと会えなくなっちゃうかもしれないの。

「心配なのは分かる。急にこのような場所に来たのだから。だが、ここがどういう場所で、なぜ君たちがここに呼ばれたか知るためにも。どうか私に付いて来てくれないだろうか」

 優也お兄ちゃんが聖也を見て、僕とタマ先生を見て、他の人に聞こえないくらいとっても小さな声で。

「逃げられるとか、そう言う感じでもないな。ここは付いて行くしかないか」

 そう言いました。それからじっとフリップを見つめて付いて行くって。フリップはそれを聞いて、何かちょっとホッとしてる顔に。そしたら横の方に居た騎士さん達が、僕達の方に来ようとしました。体を固くしてた優也お兄ちゃんが、もっと体を固くして、僕達を守るように騎士さんから僕達を隠します。

 それを見たフリップが騎士さん達に止まるように言いました。それから僕達のことはフリップが、これから行く場所に連れて行くって。
 その言葉を聞いた途端、ずっとフリップの近く、えっと後ろに居た若い男の人が居たんだけど、その人がフリップの事を止めたんだ。

「フリップ様! まだ決まったわけではないのですよ! それに昔のような者達だったらどうするのですか!」

「ノウル、小さい子供がいるんだ。そんなに大きな声を出すんじゃない。子供を見てみろ。今にも泣き出しそうではないか。先程から不安なのだろう。ぬいぐるみの耳を咥えて震えている。これ以上怖がらせるようなことはいけない」

「ですが…」

「いきなりここへ飛ばされてきたんだ。少しでも彼らの不安は取り除かなければ。騎士を警戒するならそれもだ。私の方が良いだろう」

「…分かりました」

 ノウルって言われた人が、静かにまたちょっと後ろに下がります。フリップは僕達を見て、また優しいニッコリ。優也お兄ちゃんに自分が案内するけどそれで良いか聞きました。お兄ちゃんは少し考えたあと小さく頷いて、フリップが騎士さんを後ろに下がらせます。

 その後すぐに部屋に居た人達が、ぞろぞろ建物から出始めて。僕達は最後にこの建物から出るんだって、フリップに教えてもらいました。でもみんなが外に出るまでには、まだまだ時間がかかりそう。
 
 みんなが出始めてすぐでした。王様に似てるおじいさんが僕達の所に来ようとしたんだ。それを見て慌てる人達が。それでその人達が王様に似てるお爺さんに何か言ったら、お爺さんはちょっと残念そうな顔して、別の所から出て行きました。あのね、お爺さんも優しいお顔でニコニコしてたよ。

 フリップが洋服のポケットをごそごそします。それから何かを取り出してお兄ちゃんに聞きました。

「これは私がいつも持ち歩いているお菓子なのだが。その小さなお客に渡しても大丈夫だろうか?」

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