失敗作
その日、ものすごく珍しい特別な能力に目覚めた者はいなかったらしい。
儀式は私を除いて滞りなく進んでいったそうだ。
その中で一人どんな精霊とも契約できなかった私は今年のハズレだと言われている。
自分でもそう思う。
自分でなければ、同情をしていたとさえ思った。
私以外の人間は皆精霊を呼び出して契約をしたそうだ。
リゼッタは風の精霊を呼び出したと聞いた。
恐らくその精霊には癒しの力があることも。
気品があって美しいリゼッタが聖女だと半ば公然と囁かれていることも聞いた。
全て、そう聞いただけだ。
あの日以降私は公の場に行けてはいない。
お茶会の誘いもぱったりとこなくなってしまっていた。
周りの皆が皆、私がハズレの令嬢だったと知っている。
悲しくないのか? と言われれば悲しい。けれど上手く感情があの日から動かせない。 それに、魔法が使えない事は明白だった。
この世界は魔法と共にできている。勿論魔法の力が無い子供も生活している訳で、魔法が無い人間も生きていけないという程の格差は無い。
けれど、様々なところで不便はどうしても生じる。
それを少なくするための訓練が、始まっていた。
お父様は私が精霊と契約できなかったと知ってすぐにそのための講師を手配してくださった。
お父様は、私を怒ったり嘆いたりはしなかった。少なくとも私の目の前では。
お母さまは私と一緒に泣いてくださった。家族は誰も私を責めなかったし、使用人たちの態度も何も変わらなかった。
それだけが救いだった。
何故、私がハズレでも家族たちは私を責めないのかを考えられるほど今の私には心の余裕が無い。
けれど、静かに流れる時間だけは救いだった。
そんな中リゼッタがこの国の王太子と婚約をするという話が伝わってきた。
やっぱり聖女はリゼッタなのだろう。
魔法使い達から正式なおふれは出ていないけれど皆がそう思っていた。
勿論私もそう思っている。
リゼッタは、聖女に選ばれても驕ったところはまるで無いのだという。
選ばれても毅然としている聖女様と、ハズレの自分。
比べてはいけないと分かっているけれどどうしても考えてしまう。
そんな心が多分いけないのだ。そんな私を選んでくれる精霊がいるはずもない。
分かっているのに、どうしても悲観してしまう。
気が付くといつも涙がこぼれ落ちてしまう。国を助ける聖女様の誕生は嬉しいことの筈なのに、今更になって羨ましいと思ってしまう自分が嫌だった。
せめて心くらいは美しくありたいと願うのに、それも難しかった。
改めて、私自身は何も持っていない事に気が付く。
私の持っているものは優しい家族だけだったのだと。