夏のお休みはドゴログマで その1
スアが展開した特別製の魔法陣で生成された転移ドアをくぐり、僕達は神界の下部世界ドゴログマへと移動していきました。
このドゴログマを含めた神界世界には強固な魔法壁が展開されているためすさまじい魔力を持った魔法使いでもこれを突破することは出来ないそうなんです。
スアのお弟子さん達も誰一人としてこの魔法壁を突破することは出来ないんだとか。
以前神界のセルブアから聞いたことがあるのですが、この魔法壁を突破して神界に侵入することが出来た人は過去に数名しかいないそうでして、現在でもスアと、クライなんとかと言う世界のサファなんとかって人ぐらいしか突破出来たことが確認されていないんだそうです。
僕達が出現したのは、前回ドゴログマにやって来た際に作成していた簡易小屋のすぐ横でした。
スアが強固な結界を張ってくれていたおかげでこの小屋も無事に残っていました。
「……しかし、スアの結界ってホントすごいんだなぁ……」
僕は周囲を見回しながらしみじみとそう言いました。
いえね
前回ここに転移ドアでやってきたときってこの一帯を厄災のイモリっていう結構厄介な魔獣が自分達の拠点にしていたんですよね。
……で、僕が見回している結界の外にはですね……またしてもあの厄災のイモリ達がすごい数集結していたのです。
スアの結界の中に入ることが出来ないため、その外側に集結している厄災のイモリ達は、前回の倍近い数いるのではないでしょうか。
その巨大な厄災のイモリが結界の周囲をぐるりと取り囲んでいるもんですから、それを始めて見たアルカちゃんは、
「ひょ、ひょ、ひょ、ひょええええええええええええアルぅぅぅぅぅぅ!?」
思いっきり悲鳴を上げながらリョータに抱きついていきました。
その悲鳴があまりにも大きかったものですから、軒並みおとなしくしていた厄災のイモリ達がムクムクと首をもたげはじめまして、僕達の……と、いうか、大声をあげたアルカちゃんの方へと視線を向けてきました。
そんな厄災のイモリ達に睨まれた格好になってしまったアルカちゃんは
「う、う~~~~~~ん……」
眼を回して意識を失ってしまいました。
「あ、アルカちゃん、大丈夫!?」
倒れかけたアルカちゃんを、リョータが慌てて抱きかかえたおかげで、アルカちゃんは地面に倒れずに済んだのですが……確かに、予備知識なしにいきなりこの状況に追い込まれてしまったら、こうなっても仕方ないですよねぇ……
「しまったなぁ……アルカちゃんにも前回のことをしっかり説明しとくべきだったね」
僕は、リョータに抱きかかえられているアルカちゃんを見つめながら眉をひそめていました。
その時です。
背後で何か光ったような気がしました。
慌てて振り向くと……僕の視線の先には、手に持っている水晶樹の杖を天に向かってかざしているスアの姿がありました。
そしてそんなスアの先……結界の向こうではですね、アルカちゃんを睨み付けていた厄災のイモリ達がすべて黒焦げになっていたのです。
スアは、その光景をゆっくりと見回していくと
「……まったく、リョータの彼女になんてことをするのよ」
頬をプゥっと膨らませながら、ブツブツ言っていた次第です、はい。
で、このスアの一撃で、小屋の周囲に集結していた厄災のイモリ達は一匹残らず全て黒焦げになっていました。
とりあえず、気絶したままのアルカちゃんを家の中につれていきまして、スアが回復魔法をかけたところ、
「……あ、あれ?……あの魔獣はどこにいったアル?」
無事眼を覚ましたアルカちゃんが寝ぼけたような顔をしながら周囲を見回していたのですが、そんなアルカちゃんにリョータが
「アルカちゃん、無事でよかったです!」
そう言うと同時に抱きついていったもんですから、アルカちゃんは
「ふぇえ!? りょりょ、りょ、リョータ様!? な、何がどうなったアル!?」
顔を真っ赤にしながらしどろもどろになりながらも、しっかりとリョータの背に腕を回していた次第です。
で、まぁ、そんなわけでアルカちゃんの意識は戻ったものの、少し休ませてあげた方がいいだろうと思いまして、リョータや子供達みんなには、しばらくの間簡易小屋の中でアルカちゃんと一緒にいてもらうことにいたしまして、その間に僕とスアは黒焦げになっている厄災のイモリの死骸の回収作業を行っていきました。
まぁ、一緒に……と、言いましても、僕はスアの横に立って
「うわ、ほんとでかいな、このイモリ」
と、驚くことくらいしか出来ないんですけどね。
で、この厄災のイモリなんですが……
スアが前回の時にも言っていたのですが食用には適さないんですよね。
ですが、その肉や骨は魔法薬の材料として使えるといいますか、非常に希少かつ貴重な材料なんだそうでして、スアは黙々と厄災のイモリの死骸を魔法で解体しては魔法袋へ詰め込んでいました。
前回の時は嬉々として作業を行っていたスアなのですが、今回は終始頬をプゥっと膨らませたままで作業を行っていたスアでして……どうやら、この厄災のイモリのせいでアルカちゃんが怖い思いをしてしまったことをいまだに怒っているようです、はい。
どうやらスアも、アルカちゃんのことを家族のように思っているようですね。
ほどなくして、厄災のイモリの回収を終えた僕とスアは、簡易小屋の中へと戻りました。
すると、そこではすっかり元気を取り戻したアルカちゃんが、簡易キッチンで料理を作っているところでした。
「あ、あの……ご迷惑をかけたお詫びアル。ちょっとした物しか出来ないアルけど……」
そう言いながら、アルカちゃんは背負っていたリュックの中から取りだした食材を使って作った物を、魔石コンロで熱した鍋の中で揚げているようでした。
ほどなくして出来上がったのは、白玉団子の周囲にごまがまぶされていて、それを揚げてある……僕の世界で例えるなら『ごま団子』的な物でした。
それを大皿の上にどさっとよそったアルカちゃんは、
「う、うまく出来たと思うアルけど……」
少し恥ずかしそうにしながら、テーブルの上にその大皿を置いていきました。
早速、1つ頂いてみたところ……うん、これ、中に餡子が入っていませんね。
僕の世界の餡入りのごま団子のつもりで口に運んだ僕は、その中身がただの白玉団子だったことにちょっと面食らってしまいまして、どうも変な表情をしてしまったみたいです。
そんな僕の顔を見たアルカちゃんは
「ぱ、パパ上様……や、や、や、やっぱり美味しくないアルか!?」
そう言いながら、今にも泣きそうな顔をしてしまいました。
で、そんなアルカちゃんに僕は、
「あぁ、ごめんごめん、まずくはないんだ。うん、とっても良く出来ているよ」
慌ててそう言いました。
この言葉には嘘はありませんでした。
いえね、確かに餡子が入っていないせいで拍子抜けしてしまいましたけど、これを揚げ白玉団子として味わった場合、なかなかいい味に仕上がっていたんです。
餡子こそ入っていませんが、白玉の生地に果物の果汁をうまく混ぜ込んであるもんですから、いい風味に仕上がっているんですよ。
で、僕に続いてこれを口にしたリョータ達は
「パパ、アルカちゃん、とっても美味しいですよ、これ」
「パラナミオもそう思います」
「アルトもそう思いますわ」
「ムツキもにゃしぃ」
口々にそう言いながら、みんな一斉に僕を見つめてきた次第です。
そんなみんなの貌には「何で変な貌をしたんですか?」的な表情が浮かんでいました。
なんか、すっかり悪者扱いになってしまった僕は、そんなみんなの前で苦笑するしかありませんでした。
で、僕はですね、なんで最初に少し微妙な表情を浮かべたのかを説明するために調理場に立ちました。
実際に作って食べてもらった方がわかってもらえると思ったからなわけです。
幸い、アルカちゃんの使った材料が残っていましたので、それを使って僕の世界のごま団子を作っていきます。
アルカちゃんが持ってきていなかった餡子は、僕の魔法袋に入っていますので問題ありません。
何かあったときのために、と、あれこれ料理の材料や調理道具、調味料も持ってきていてよかったです。
で、それらを駆使して、中に餡子の入っているごま団子を作成した僕は、それをみんなに振る舞いました。
すると、それを口にしたアルカちゃんは
「んん!? すごいアル! 揚げ団子がすごく美味しくなったアル! 餡子がとっても合うアル」
そう言って眼を丸くしました。
アルカちゃんに続いて僕のごま団子を口にしたリョータ達も、
「ほんとだ! すごく美味しくなってる」
「ぱ、パラナミオもそう思います!」
「あ、アルトもですわ」
「む、ムツキもにゃしぃ」
と、みんなアルカちゃん同様に眼を丸くしながら互いに貌を見合わせていました。
どうやら、僕がなんで微妙な貌をしたのか、は、これでみんなにもわかってもらえたようです。
ここで僕はアルカちゃんに笑いかけました。
「アルカちゃんの揚げ団子はとても美味しかったんだけどさ、こうしてもっと美味しく出来ると思ったんだよ。あとで僕の作り方も教えてあげるね」
「は、はいアル! 是非お願いしたいアル、パパ上様!」
アルカちゃんはぱぁっと貌をほころばせながら僕に向かって笑いかけてくれました。
ちなみに、この後、
「……パパのも美味しかったですけど、僕は同じくらいアルカちゃんの揚げ団子も好きです」
リョータは、そう言いながらアルカちゃんの揚げ団子を美味しそうに口に運んでいました。
そんなリョータを、アルカちゃんは嬉しそうに見つめていた次第です。
なんかリョータってば、将来結構な女たらしに……い、いや、僕の子供ななし、そんなはずは……