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夏祭り×夏祭り その3

「アルカちゃんは何か料理を作って売るのかい?」
「そうアル、ちょっとしたもんアルよ」
 僕の質問に、アルカちゃんは胸をドンと叩きました。
「お弁当のお礼に分けてあげるアル、食べてほしいアル」
 そう言うと、アルカちゃんは何やら準備を始めました。
 ただ、ちょっと気になったのが……なぜか魔石コンロを奥に置いたままにしているんですよね。
「アルカちゃん、魔石コンロは使わないのかい?」
「あ、あはは……」
 僕の言葉に、アルカちゃんは苦笑しました。
「あ、あの……火属性魔石が切れてるアル、他の物が売れたら火属性魔石を買って使うつもりアル」
 そう言うと、アルカちゃんは奥に置いてあった木箱の中から大きな容器を取り出しました。
 少し重たいらしく、
「ふぬぬ……アル~」
 必死に力を込めているアルカちゃん。
 すると、即座にリョータが駆け寄っていきまして、
「アルカちゃん、手伝うよ」
 そう言いながら、その容器を軽々と持ち上げました。
 そんなリョータの姿を見ていたアルカちゃんは、
「さ、さすがリョータ様アル、すごいアル、素敵アル、最高アル」
 その顔をぽややんとさせながら、リョータの背後でぴょんぴょん飛び跳ねていました。

 で、アルカちゃんがその容器を開けると、その中には水の入った容器が入っていまして、その中に密閉されている容器が浮かんでいました。
 どうやら、密閉されてい容器をこの中の水で冷やしていたようですね。
 で、密閉されてい容器をアルカちゃんが開けると、その中には小さなカップに入った白い物体がたくさん詰まっていました。
「さぁ、食べてほしいアル、アルカスイーツ、アル」
 そう言いながら、アルカちゃんは僕達にその容器と、木製のスプーンを手渡してくれました。
 それを見てみると……なんといいますか、プリンのような感じですね。
 で、早速それを口に運んでみました。
「うん……美味しいね、これ」
 僕は、思わず感嘆の声をあげました。
 例えるなら、杏仁豆腐に近い食感です。
 果物も何も入っていないため見た目はすごくシンプルですが、味はなかなかのものです。
 パラナミオやリョータ達も、それを口に運びながら、
「うん、美味しいです!」
「ほんとですね、美味しいですね」
 と、みんな感嘆の声をあげていました。
「そうアルか、美味しいアルか」
 そんな僕達の様子を見ていたアルカちゃんは、嬉しそうに微笑んでいました。
 
 もし、このアルカスイーツが杏仁豆腐と同じような製法だとしたら、一度加熱する必要があるはずですが、おそらく街の外でたき火で火をおこして使用したのでしょう。
 街中では魔石コンロを使用するか、石造りの竈を設置していないと火を使うことは禁止ですからね。

 アルカちゃんは、満足そうな笑顔を浮かべながら、
「これで、あとはコンビニおもなんとかというお店の人に食べてもらって、雇ってもらえたら万々歳アル」
 そう言いました。
「はい?」
 その言葉に、僕は思わず目を丸くしました。
「コンビニおもなんとかって……ひょっとして、コンビニおもてなしのことかい?」
「そうアル! さすがはリョータ様のお父上アル、ご存じアルか!」
 アルカちゃんは、顔を輝かせながら僕の前に移動してきました。
「私は、この料理の腕で、コンビニおもてなしで雇ってもらって料理を作りたいアル。スイーツや、ちょっとした料理は得意アルよ。パパの店を手伝ってたアルから」
 そう言うと、アルカちゃんは改めて僕にアルカスイーツを差し出して来ました。
「リョータ様のお父上様、どうか私をコンビニおもてなしの店長さんに紹介してもらえないアルか? 私にはリョータ様とリョータ様のお父上様しか頼れる方がいないアルよ」
 そう言うと、アルカちゃんは深々と頭を下げてきました。
「そうは言っても……アルカちゃんのご両親にも話を聞かないことには……」
「……もういないアル」
「え?」
 僕の言葉に、アルカちゃんは少し悲しそうな表情を浮かべました。
「……私達の住んでいた集落……魔獣に襲われたアル……パパとママがやってた食堂も壊されて……パパもママも……」
 そこまで言うと、アルカちゃんは首を左右に振りました。
 必死に笑顔を浮かべていきました。
「でね、前から聞いてたアル、ガタコンベにあるコンビニおもてなしってお店は美味しいお弁当を販売していたみんなに喜ばれているアルって、しかもそのコンビニおもてなしは、料理の腕があれば身寄りの無い人でも雇ってくれるって聞いたアル……だから、アルカは最後のお金をかき集めて料理を作ってきたアル。このお祭りで話題になれば、きっとコンビニおもてなしの人にも気が付いてもらえるアルって。気が付いてもらえなかったら、コンビニおもてなしを知っている人を見つけて、紹介してもらうつもりだったアル」
 そこまで言うと、アルカちゃんは僕ににじり寄ってきました。
「リョータ様のお父上様、どうかアルカをコンビニおもてなしの店長さんを紹介して頂けないアルか? 紹介頂けたら、あとは私が自分の力で……」
「そうだね……紹介するも何も……僕がそのコンビニおもてなしの店長なんだけど……」
「へ?」
 僕の言葉を聞いたアルカちゃんは、目をおもいっきり見開いたまま、その場で固まってしまいまいた。

◇◇

 しばらく後。
 僕達はアルカちゃんを連れてコンビニおもてなし本店の厨房へ移動していました。
 アルカちゃんは、目を丸くしたまま立ち尽くしています。
 そんなアルカちゃんの前には、ヤルメキスとケロリンが立っています。
「……と、いうわけでさ、ヤルメキス。このアルカちゃんにヤルメキススイーツの手伝いをさせてあげてほしいんだ。アルカちゃんは自分でも料理を作れるみたいだから、その料理を見てあげてさ、可能ならヤルメキススイーツのラインナップに加えてほしいんだけど」
 僕の言葉を聞きながら、ヤルメキスとケロリンはアルカスイーツを食べていました。
「こ、こ、こ、これはなかなか美味しいでごじゃりますね」
「ほ、ほ、ほ、ホントに、これはなかなかいけますわぁ」
 ヤルメキスとケロリンは顔を見合わせながら頷きあっています。
 そんな2人の前で、アルカちゃんはガチガチになっていました。
「や、や、や、ヤルメキス様アルね……た、た、た、たまにおじさんがヤルメキス様のスイーツをお土産に買って来てくれていたアル、私、大ファンアルよ……」
 そう言いながら固まっているアルカちゃんなのですが、その横にリョータがやってきました。
「ヤルメキスさん、ケロリンさん、僕からもよろしくお願いします。アルカちゃんは大切なお友達なんです」
 そう言って頭を下げました。
 そんなリョータの姿に、アルカちゃんは思わず涙ぐんでいました。
「リョータ様……わ、わ、わ、私なんかのために……」
 で、そんなアルカちゃんとリョータを交互に見つめていたヤルメキスとケロリンは、
「だ、だ、だ、大丈夫ですよリョータくん。こんなに美味しいスイーツを作れるのでごじゃりまする」
「ぜ、ぜ、ぜ、せひともお手伝いをしてほしいですわぁ」
 そう言いながら、アルカちゃんに向かって土下座していきました。
「ど、ど、ど、どうかよろしくお願いするでごじゃりまする」
「わ、わ、わ、私もお願いいたしますわぁ」
 そう言う2人を前にして、アルカちゃんは
「わ、わ、わ、私の方こそ、よ、よ、よ、よろしくお願するアル」
 そう言って、その場で土下座していきました。
 そんなアルカちゃんの横で、リョータまで土下座していました。
 
 と、まぁ、こうして、ヤルメキススイーツ制作部門に、新たにアルカちゃんが加わることになりました。

◇◇

 夏祭り会場の視察に来ていた辺境駐屯地のゴルアにアルカちゃんのことを尋ねてみたところ、
「……おそらく、ナカンコンベに向かう街道沿いにある集落の子供でしょう……我々も、あの一帯の魔獣討伐をすすめてはいるのですが、いくつかの集落が被害にあっておりますので……」
 そう言って、表情を曇らせました。
 
 アルカちゃんは、かろうじて無事だった調理器具を荷車に乗せて、このガタコンベまで数日かけてやってきたそうです。
 まだ幼いだけに、大変だったはずです。

 そんな状態のため、アルカちゃんは住むあてもないそうです。
 リョータにいきなり求婚したのも、ひょっとしたら寂しさが募ったあまりの行動だったのかもしれません。

 そんなわけで、アルカちゃんには当面我が家で暮らしてもらうことにしました。
「い、い、い、いきなり同居アルか!?」
 アルカちゃんは最初真っ赤になってぶっ倒れそうになっていたのですが、
「ふ、ふ、ふ、ふつつか者ですが、以後、末永くよろしくお願いするアル」
 そう言いながら、僕達の前で土下座していきました。
 気のせいか、ヤルメキススイーツの関係者ってみんな土下座がスタンダードになっていく気がするんですよね……

 すぐに、夏祭り用のスイーツを作成しているヤルメキス達の手伝いに行こうとしたアルカちゃんですけど、おそらく疲れているだろうと思いまして、お風呂に入ってもらってから少しベッドで横にならせてあげたんですけど……あっという間にベッドの上で寝息を立て始めました。
「……色々大変だったんだろうなぁ」
 僕は、そう言いながらアルカちゃんの頭を優しく撫でました。
 すると、アルカちゃんは、
「パパ……ママ……」
 寝言を言いながら、僕の手をギュッと握ってきました。
 スアも、その手に自らの手を添えました。
 そして、そこにリョータ、パラナミオ、アルト、ムツキも手を添えていきました。
 
 アルカちゃんが、少し微笑んだような気がしました。

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