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 ずきっと、グレイスの胸が痛んだ。
 樹にのぼることも、走ることもできない。なんと窮屈なことか。
 こんな行動、ちっとも自分らしくない。その実感に。
 グレイスの様子をどう思ったのか。ダージルが目を細めた。もう一度、手が伸ばされる。
 グレイスの頬に、やわらかなものが触れた。今日は手袋をしていない、ダージルの手。
 その感触に、何故か。グレイスの体はぞくりとしてしまったのだった。
「まるでウエディングヴェールだね」
 ヴェール。
 すぐにはわからなかった。知らないはずではないのに、すぐ連想ができなかったのだ。
「とても綺麗だよ」
 ぼうっと聞くしかなかったグレイスだったが、その頬が軽く撫でられた。それはちっとも乱暴なんてものではなく、むしろ優しすぎるもので。
 なのにグレイスが感じたのはぞくぞくする感覚、だった。
 これは、まさか、そういうことが。
 不安がどんどん濃くなっていく。そしてグレイスの予想した通りになった。
「その日が楽しみだ」
 撫でられた頬。包み込まれて、そっと顔が近付けられる。
 ぐぅっと近付いた顔同士。
 目を閉じようと思った。けれど閉じる前。ちらりと見えてしまったもの。
 ……青の瞳。
 どくんっとグレイスの胸が高鳴った。一瞬で体に悪寒が走る。
 これは、ちがう。
 本能の部分でかそう感じ、グレイスは無礼などとも考えることができず、身をよじっていた。
「……っ!」
 なんとか声を出すのは堪えた。けれど振り払う手は止めることができなくて。
 ぱしっと。
 ダージルの手に触れ、触れていた手が離される。

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