コンビニおもてなしの新人事
ガタコンベに戻った僕は、まずは会議室に残っていた蟻人達に謝罪しました。
何しろ、会議が正式に終わらないうちに、僕・ゴルア・メルアの3人がいきなりいなくなってしまったわけですからね。
実務的な話し合いはすべて蟻人達がしてくれているとはいえ、役職の上では僕達3人が最高責任者なわけですし。実際、アレア達蟻人は全員僕達の帰りを待っていてくれました。
で、僕は
「かくかくしかじかでゴルアとメルアは捕らえた犯罪者達の収監手続きなどで、今日はもう帰ってこれないと思うから……」
そう、皆に伝えました。
それを聞いた蟻人達は
「そういうことでしたら、今日はここで解散ですですね」
そう言うと
「今日はお疲れ様ですです」
「お祭り頑張るですです」
「ではまたですです」
と、お互いに挨拶を交わし合って解散していきました。
◇◇
コンビニおもてなしはここまで5店舗展開しいます。
この世界にやってきてまだ2年も経っていない中、これは結構すごいことだと自分なりに思っています。
これが僕が元いた世界であれば、コンビニが乱立していますし出店競争も熾烈ですからもっとすごいことになっているとは思います。
ですが、こちらの世界でコンビニを展開しているのはコンビニおもてなしだけです。
なんのツテもコネも商品もない、ゼロの中から立ち上げたんですからね。
まぁ、コンビニとは言っていますけど日本式の24時間営業ではなく、コンビニ発祥の地アメリカでかつて行われていた朝7時開店夜11時閉店風な店舗展開を行っているわけですし、今は各都市に展開している各店舗をしっかりと地域に根付かせることを念頭におきながら頑張っていこうと思っています。
ですが……そんなコンビニおもてなしに出店してほしいとの要望は結構あちこちから頂いています。
テトテ集落を筆頭に、ティーケー海岸、ルシクコンベ、オトの街、神界のマルンの店などなど……
特に、現在夏祭りに出店を出店しているティーケー海岸のアルリズドグさんからは相当熱心に誘われています。
ただ、コンビニおもてなしは爺ちゃんの代に、こういった声に安易に応じて店舗を拡大し過ぎた結果、あっという間にじり貧になっていった経緯があります。
それだけに、僕としましてもこれ以上店舗を増やしていくことには慎重になっている次第です。
とはいえ、せっかく声をかけていただいているのですから、その声を無視するわけにもいきません。
そこで、僕はコンビニおもてなしの中に店舗検討部門を設けることにしました。
その部門に、新店舗の設置を予定している地域の状況調査や住民の皆さんのニーズなどを調査してもらい、店舗を開店すべきかどうか、開店するのであればどのようなスタイルで営業するのがいいか、などを検討してもらう事を考えています。
また、この部署には既存店の調査・てこ入れも同時に行ってもらうことを考えています。
今までは、まず出店してみて、その売り上げ状況を見ながら取扱商品を調整していましたけど、そのあたりをもっと細かく分析して、既存店の売り上げ増にもつなげたいな、と思っている次第です。
と、いいますのも……ここまで順調な売り上げを続けているコンビニおもてなしですが、売り上げ額の伸びが停滞している店舗が出始めています。
魔法使いの皆さん相手に魔女魔法出版の本を販売するのが主目的という特殊な存在の3号店はともかく、ブラコンベ辺境都市連合の中で最大の都市であるブラコンベに出店している2号店の売り上げが横ばいになっていたりします。結構な黒字状態ではあるのですが……
2号店は立地的に恵まれていないというハンデを持ってはいますけれども、都市民数を考えるともう少しどうにか出来るんじゃないかと思ったりしているんですよね。
この日行われた店長会議で、僕はそのことをみんなに提案しました。
あ、もちろん2号店の件は伏せていますよ。2号店の店長を務めているシルメールが一生懸命頑張っているのはよく知っていますしね。
で、僕が提案したこの案は、満場一致で認めてもらえました。
それを踏まえて、新たな人事を検討したのですが……
僕が提案したのは、
まず僕が5号店から本店に戻ります。
これは、5号店の営業が軌道にのり、シャルンエッセンスに店長を任せても大丈夫と判断したからです。
僕の代わりに、バイトを新たに雇い入れる計画にしています。
そして、僕が戻った本店で店長代理を務めてくれていたブリリアンに店舗検討部門のリーダーになってもらおうと考えています。
ブリリアンは経験年数が長く、僕に次いでこのコンビニおもてなしのことをよく知っています。
店員としての経験年数だけで言えばイエロの方が長いのですが、イエロはもっぱら肉仕入れ要員として連日狩りに勤しんでいるため店舗のことはほとんどわかっていませんからね。
「どうかなブリリアン?」
僕がそう尋ねると、ブリリアンはしばらく考えこんだ後に言いました。
「……ほ、補佐として、メイデンをつけてくれるのでしたら……」
と……
メイデンと言えば……あれこれやらかした結果逮捕されてしまい、現在は執行猶予期間かつ社会貢献活動期間としてコンビニおもてなしで働いています。
その身柄の管理をブリリアンがしてくれています。
メイデンは、ブリリアンの小屋で一緒に寝泊まりをしながら日中は定期魔道船の操舵手としての仕事をしています。
……ただ、気のせいか最近の2人は妙に仲がいいといいますか、良すぎるといいますか……ちょっと越えてはいけない一線を……あ、いえいえ、あの厳格なブリリアンですものね、そんなはずは……
以前でしたら、他に定期魔導船を操舵出来る人材がいなかったこともありましてこの案は却下せざるを得なかったのですが……今はあてが出来ていますので問題ありません。
そのあてと言いますのが、テレコです。
テレコは、3号店にあります魔法少女戦隊キュアキュア5ランドを切り盛りしている魔法使いにして魔法使い戦隊キュアキュア5の原作者なんですけど、最近は定期魔道船にのってキュアキュア5ランドのPR活動も頑張っていたんです。
その際に、定期魔道船の操舵に興味を持ってメイデンにあれこれ教わりながら操舵の練習をしていたところ、予想以上に素質があったらしくあっという間に操舵をマスターしてしまったんだそうです。
ブリリアンもその話をメイデンから聞いていたからこそ、この話を切り出したのでしょう。
ちなみに、テレコからも
「もし可能でしたら定期魔道船の操舵をやってみたいです」
との申し出も受けているんですよね。
その際に、キュアキュア5の衣装を着て操舵すればいいPRにもなるとのことで。
そんなわけで、みんなとも相談した結果……
コンビニおもてなしの新人事といたしまして、店舗検討部門を新設し、そこのリーダーに本店の店長補佐ブリリアン。その補佐として定期魔道船の操舵手メイデンを配置換えすることになりました。
同時に、僕は5号店の店長から本店の店長に配置換え。
それに伴って5号店の店長補佐だったシャルンエッセンスを店長に昇格させて、ジナバレアを店長補佐に昇格させることにしました。
さらに、テレコをコンビニおもてなしの店員として正式採用し、定期魔道船の操舵手をしてもらうことになりました。
ブリリアンには、早速、ティーケー海岸への出店について検討してもらうことにしています。
メイデンに関しては、しばらくの間はテレコに実地指導してもらうことにしたのですが、
その話を聞いたブリリアンが、会議の後、彼女の小屋の前でメイデンと
「……そ、その、信じてはいるけど……う、浮気は許さないからな」
「ば、馬鹿なことを言わないでほしい、このメイデンが愛するブリリアンを裏切るようなことをするわけがないだろう!」
と、まぁ、そんな会話を交わしていたような気がしないでもないのですが……うん、あんまりみんなのプライベートに突っ込むのもあれですしね……
◇◇
そんなわけで、コンビニおもてなしの新人事始動にともないまして、僕は今日から久々に本店勤務に戻ることになりました。
ヘルプ要請があれば5号店に出向くことにもなるでしょうけど、
「リョウイチお兄様にまかされたのですもの、このシャルンエッセンス目一杯がんばりますわ!」
と、シャルンエッセンスが気合い満々な様子でしたし、心配する事は無いか、と思っている次第です。
ちょうどこの夏は、本店のあるガタコンベでブラコンベ辺境都市連合主催の夏祭りもあることですし、あれこれ忙しくなりそうです。
僕は、隣で寝息をたてているスアの寝顔を見つめながら、改めて気合いを入れた次第です。