7話 王都
「これが王都か、広いな」
俺とエルは、途中で遭遇した商人の馬車に同乗して、ここまできた。
この2頭の馬がひく荷物を護衛する条件でだ。
消滅したあの町では、次向かう場所の方角を聞きそびれてしまった。なのでこの仕事は、願ったり叶ったりなわけだ。
おかげで都合よく、王都にいく手段と道案内になった。
エルのあの姿のままでは、強烈な存在感にひれ伏す者がほとんどなので、今は羽を隠してもらっている。あの圧倒する力は、羽からも溢れでているほどだ。
馬車と俺たちは、何の問題もなく王都に潜り込めた。ここはかなりの広さをほこり、商人によると軽く数十万人は余裕でいるそうだ。この規模なら、あの召喚師のいずれかは現れるだろう。
恐らくは、欲望に抗えない。
理由は、それだけの数になる魂で、ここの辺りは満ち溢れるからだ。
ただし、警戒しているだろう相手をどうやって、仕留めるかだ。文献からも正直、名前しかわからない。
今言えることは、やれることはすべてやる、それだけしかなさそうだ。
王都にきてしまえば、俺たちと商人は互いに用済みなので別れた。謝礼として、いくばくかの金を貰い受ける。この金でこの王都全容を把握するまでは、宿に泊まるつもりだ。この広さだと数日はかかりそうな気がする。
俺が魔法界に来てから訪れるみっつ目の町でも種族は変わらず、人族が圧倒的多数を占めている。
この一帶は、人族至上主義なのかもしれない。俺の知る他の種族は、見受けられなかった。
エルと町を散策していると、奇妙な気配が迫る。
「妙だな……」
「妙ね……」
俺とエルは、人のいる場所に似つかわしくない気配を感じ取っていた。それが背後から、少しずつ近寄ってくる。このまま気が付かないフリをして、あつらえむきの裏路地に入った。
気配はこちらを追って入りこむ。
対面し目にした瞬間、それは魔剣だと気が付く。しかも俺が悪魔だったころにいた世界の匂いがする。対峙したその人物は、華奢な見た目によらず、背丈ほどの大剣を背負い、鎧を着込む美しい女性だった。鎧は銀色を基調にして、金色の文様をあしらう豪奢な物だ。ただし、飾りというわけでなくかなり使い込んでいる感じだ。
まずは確認すべくいう。
「用件を言ってくれないか?」
「え……?」
この女は、驚いいたまま動かない。まさかここできがつかれるとは、思ってもいなかったと見るべきかもしれない。なのでもう一度いう。
「用件を言ってくれないか?」
余計なことはいらない、シンプルにだ。
「手……。手合わせを願いたい……」
「なぜだ?」
間髪入れずに確認をした。急に声をかけてきた理由も知りたかった。もしかすると、悪魔の気配がだだ漏れだったかもしれない。
「ここでは見ない強者であると、私の直感がいっている。だからだ……」
すると突然、左側から一瞬だけ殺気を浴びた。
「グッゥゥゥ……」
認識阻害していた者の胸を手刀で貫く。同時に背後からと二名飛びかかってきたのを、エルの赤黒い魔剣により、二体とも水平に両断されて地面に臓物をぶちまける。
「何やら、行儀が悪いな」
「ええ、そうね……」
俺とエルはホコリを振り払うように、ことを成した。血を払い、あらためて確認をしてみる。
どうにもこの女は、自分以外のことが見えていない感じだ。
「一応聞く。お前の手の者か?」
「ああそうだ。私の護衛だ」
「次は無いと思ってくれ」
案外素直に引き下がったところを見ると、まだ素直なところはあるようだ。単に戦闘狂なら、あの場で飛びかかってきただろうし。それとも自制心で抑え込んだのか、それは知る由も無い。
俺たちはこんなところで道草をしているわけにもいかず、その場を立ち去る。
――数刻後
「レンさっきの人……」
「ああ」
「殺さず放置?」
「殺さず放置だ」
エルが気にしていることの方が意外だった。何か理由があるのかもしれないので聞いてみる。
「エルが気にするほどのヤツなのか?」
「あの剣を手に入れた経緯と経路が気になるのよね」
なるほどなと思う。あの剣から放たれる存在感は、ここでは異質すぎる。それにあれほどの物となると、入手経緯と経路が気になるのは、たしかにわかる。
「まさか、剣に乗っ取られるとかか?」
「ええ、そのまさかよ。この剣は屈服させたけど、あの剣は違う感じがする」
「違う感じか……」
俺たちが動く前に一波乱起きるのか、動いたあとに起きるのか。不確定要素がまたひとつ、増えた気がした。
今いえるのは、俺の力の制約上、エルの力を借りて大量殲滅を行い、召喚師を誘き寄せることだ。
俺たちが、この町や人たちに対して感情を移入する前に、殲滅した方がいい。
ありえないことではあるけど、念のためだ。
なので決行は今夜だ。
「今夜パーティーだな」
「今夜パーティーね。それで、服装は?」
「実戦用だ」