第5話 真冬の怪奇?(6)
それもさ?
「うっ、うう、うぅ……」
〈ズルズル〉
「あっ、ああ、ああ、ああ……。うう……」
〈ガリガリ〉と。
地の底。冥府の底から聞こえ、響く。響いてくるような声音、台詞、唸り、嘆きも付け加えて鈍い音。金属音の擦れる、重なり合う音。金属を地面。アスファルトに当て引きずるような音と共に僕へと迫ってくるから。
今度、今後僕の口から漏れる言葉と台詞は、これしかない。これしかないからね。
『南無……』だよ。
僕は恐怖の余り、御経まで唱え、祈り始める。
頼むから僕の許へとこないで! こないでくれ物の怪! 幽霊! お化け! と。
僕は己の脳裏、心の奥底から何度も唱え嘆願。祈りを捧げる。捧げたのだ。
多分? 鎧武者の幽霊、妖怪だと思われる者、というか?
声音からすると女性だと思われる悪しき者に対してね。
でもさ? ダメだ! ダメだったよ。
「うっ、うう、うぅ……」
〈ズルズル〉
「あっ、ああ、ああ、ああ……。うう……」
〈ガリガリ〉
「た、助けて、助けて……。」
〈ガシャン、ガシャン〉
「ううう、ううう、ううう……」
物の怪の彼女、女性は、僕の心からの願い。嘆願を聞き入れ、方向転換する訳でもなく。
僕の背へと徐々にだが、己の重たい足を引きずりながら向かって、迫ってきているからダメだ。
僕はどうやら諦めるしかなさそうだ。
◇◇◇◇◇