40章 食事の誘い
「ミライさん、一緒に食事に行こうよ。何かを食べると、元気になれるよ」
女性に必要なのは、食事に含まれる栄養素である。しっかりと食べることができれば、元気になれるはずだ。
「おかあさんも苦しい思いをしながら、必死に生きようとしています。私だけがついていくわけにはいきません」
ミライのえくぼがくぼむ。元気がないからか、穴が開いているかのようだった。
どのようにすれば食事に参加するのかなと考えていると、ミライの母親がこちらに入ってきた。
「ミライ、食事をしておいで」
「おかあさん」
「満足に食べさせてあげられなくてごめんね」
「ううん、私は生きているだけで充分だよ」
母親は顎が外れそうなくらいの、大きな欠伸をする。こちらも寝不足に陥っていると思われる。
「おかあさん、体調は問題ないの?」
「私は元気だよ」
母親として弱音を見せないようにしているのが、はっきりと伝わってきた。娘の前では元気な状態でいたいようだ。
「おかあさん、仕事で大きなミスをして、雇止めになったんだ。明日からは、店のことに専念することになりそう」
能力のないものは容赦なくクビにする。「セカンドライフの街」で生きるのは、想像以上に大変なのだと思わされた。
母は働きづくめだった、娘を責めるようなことはしなかった。
「ミライ、これまでおつかれさま。明日からは、一週間くらいゆっくりとしよう。3カ月くらいは休みなしだったから、身体が悲鳴を上げているんじゃない」
3カ月間、休みなしで働いていたのか。力のないものは、休むことを許されない世界なのかな。
「私も仕事したい。おかあさんの力になりたい」
無理をしようとしている女性に対して、アカネは声をかけた。
「ミライさん、身体を休めることも立派な仕事だよ」
アカネは過労によって、命を落とした。身体を休められていれば、展開は違っていたと思われる。
「そうなのかな」
「そうだよ。身体を休めないと、仕事でベストパフォーマンスを発揮できないよ」
「わかった。身体をしっかりと休める」
母親はベッドで横になっている女性に、温かい声をかける。
「スーパーで食材を買ってくるね。アカネさんにたくさんのお金をもらったので、明日からは栄養たっぷりの食事を作れるよ」
「ペットたちにも餌をあげられるね」
自分の身体よりもペットを優先するところを見ると、本気で動物好きなのかなと思った。
「うん。これからペットたちの餌も大量に買ってくるよ」
母親はゆっくりと部屋を出ていった。ミライは後ろ姿を、二つの瞳でしっかりと追っていた。