39章 回復
回復魔法をかけたあとも、ミライはゆっくりと眠っていた。起こすのはよくないので、目を覚ますまで待つことにした。
「アカネさん、すみません」
母親は後片付けに追われているため、ミライの面倒を見る余裕がない。仕事が終了するまで、アカネが一緒にいることになりそうだ。
ミライの髪の毛をじっくりと観察する。先ほどは理想に近いと思っていたけど、どことなく元気がないように感じられた。水分が足りていないのではなかろうか。
瞼を閉じていた女性の瞳がゆっくりと開いた。
「ミライさん、身体はどうかな」
ミライは元気のない声を出した。
「アカネさん・・・・・・」
「回復魔法をかけておいたよ」
「ありがとうございます」
室内の蛍光灯がチカチカする。室内の電気も節約しているのかなと思った。
「ミライさんは働きすぎだよ。自分の身体を大切にしよう」
ミライは頭を抑えていた。働きすぎたために、頭痛がするのかもしれない。アカネの回復魔法は身体には効果があっても、メンタルを完全回復させることはできない。
「うちにはお金がありません。ペットショップを経営していくためには、出稼ぎが必要なんです」
「ミライさんに何かがあったら、おかあさんはとっても悲しむよ」
「顔面を火傷してからというもの、母に迷惑をかけてばかりでした。その分を取り戻したいんです」
恩返しをしたいのだろうけど、死んでしまっては元も子もない。健康な体で生きていることが、母親にとっては何よりも恩返しになりうる。
「お店に寄付金を渡したんだ。当分はそれでいけるんじゃないかな」
「寄付金はありがたいですけど、それだけではやっていけません。私は命がある限り、働き続けるつもりです。母親に対する、唯一の恩返しだと思っています」
生前の自分を見ているかのような気分になった。自分もお金を稼ぐために、命をなげうって仕事していた。
「出稼ぎをしなくていいくらいの、金額を渡したんだ。当分は働かなくてもいいよ」
寄付金の額を伝えると、ミライの目の玉が飛び出しそうになった。
「アカネさんはこの街に来て、2ヵ月くらいのはずです。どのような仕事をすれば、それだけの金額を稼ぐことができるんですか。1日働いたとしても、2万ゴールドがやっとですよ」
ダンジョン探索、水中の生態調査などでお金を生み出した。力のあるものは、一瞬にしてお金をもらうことができる。
「水の中の探索をしたんだ。報酬額が高めに設定されていたので、一気に大金持ちになったんだよ」
裏世界の探索はさらに報酬が多くなっている。アカネはお金に困ることはないのである。
「記念展の写真は、アカネさんがとったものだったんですね」
生物のすぐ近くで、写真を撮っているので、鮮明に映し出されていた。潜水艦に乗っていたら、あの写真はあり得なかった。
「水の記念展は人口の90パーセントが駆け付けたといわれています。とっても繁盛していましたよ」
記念展は既に終わっているのか。アカネは1ヵ月後くらいに、開催するものと思っていた。
「人間は水の中で生きられないはずなのに、目の前で取ったかのように奇麗でした。そこについては、おおいに疑問を感じました」
「私は空気がなくても生きられるスキルを所持しているの。水の中であったとしても、息苦しさは感じなかったよ。他は年中無休で24時間働ける、能力もあるんだ。1ヵ月、2ヵ月寝なかったと
しても、ピンピンとしていられる」
「そうなんですね。うわさでは聞いていたものの、本当とは思っていませんでした」
「超能力があるから、超高額なオファーになるんだ」
「お金があるのは羨ましいですね」
お金は大事だけど、それだけでは満たされないこともあるんだよ。現実世界、「セカンドライフの街」で嫌になるほどわからされた。
「いいことばかりじゃないよ。今度はどこの誰ともわからない人に、命を狙われる可能性のある仕事だからね。私は超能力があるから平気だけど、他の人ならすぐに殺されるかもね」
ミライの顔はおおいにひきずっていた。怖い話は得意ではないのかもしれない。
「怖い仕事ですね。私にはできません」
他の仕事も狂っているものが多い。一瞬で死に至らしめる猛毒を飲んで味をリポート、一酸化炭素だらけの部屋で生活、1000000キロ耐久マラソン、20000メートルのセカンドエベレストの登山といった、人間とは思えないような依頼がきている。通常の人間であったなら、一瞬で命を失いかねない仕事が多数を占める。超能力を持っていることを考慮しても、人権は完全に無視されている。現実世界なら、虐待どころではすまされない。