あーちーちーあーちー その5
コンビニおもてなしが発売を始めた氷嚢はすごい勢いで売れていきました。
販売初日に使用した皆さんが
「これ、すごいよ!」
「これ、タオルにくるんで頭の下に敷いて寝たら朝までぐっすりだったよ」
と、口々に宣伝してくださいまして、で、それを聞いた皆さんが「われも」「われも」とコンビニおもてなしに押し寄せてきている状態です。
この状態の一番のしわ寄せを食らっているのはルア工房なわけです。
何しろ、ようやく量産体制が整ったばかりのところに、いきなり10倍近い注文をしていますので……
誤解無きように補足しておきますと……
この10倍発注に関しては、こんなにお客さんが押し寄せてくる前、品物を受け取ってすぐの時に
「なぁ、ルア。この氷嚢だけど、フル回転したらどれぐらいつくれそうだい?」
「そうだなぁ、まぁ今回の10倍くらいなら明日にでも増産出来るようになるとは思うよ」
そんな会話をしていたもんですから、それを踏まえたわけです。
もちろん、先の会話をそのまま信じていただけではありませんので、ルアにもきちんと、
「ルア、10倍って言ってたあれ……マジでいける話かなぁ?」
そう、確認はしているんです。
で、それに対してルアは、
「あ、アタシも女だ! い、一度言った言葉に二言はないよ!」
そう言って笑ってくれたんですけど……その笑い、どこか引きつってたんですよねぇ……
と、いうわけで……一応発注は10倍にしてますけど、なるべくそれぐらいって意味合いでお願いしているわけです。
ルアが納品してくれたのは、その翌日が7倍でした。
でも、その翌日には12倍になりまして、以後はコンスタントに10倍以上の納品を続けてくれています。
で、今日も納品に来てくれたルアは
「はっはっは、だから言っただろ! このルア様に二言はないってな!」
ルアはそう言って元気に笑っていました。
ですが、その目の下にクマが出来ていたわけで……
僕は、そんなルアに、
「本当にありがとう、すごく助かるよ」
そう言って深々とお辞儀をしました。
するとルアは、
「よ、よせやい! て、店長とは長い付き合いじゃないか、これぐらいまかせろって」
そう言いながら照れ笑いをしていました。
ホント、僕がこの世界に飛ばされてきて、最初に声をかけてくれて以降の付き合いですもんね。
ルアにはホント頭があがらない思いです。
「だ、だからって店長、そんなにかしこまって頭を下げ続けるなよぉ、こっちが小っ恥ずかしくなっちまうじゃないか」
ルアはそう言いながら、困惑気味な表情をその顔に浮かべていました。
そんなルアに、僕は頭を下げ続けていました。
◇◇
このルア達ルア工房のみんなの頑張りのおかげで、ナカンコンベをはじめとする各地方都市にすごい勢いで氷嚢が行き渡り始めました。
そのおかげで、街中にも目に見えて活気が戻って来ています。
「少しでもお役に立てたかな……」
僕は、街道を元気に行き交っている人々を見つめながら少し笑顔を浮かべていました。
すると、そんな僕の元にやってきたおもてなし診療所のダマリナッセがですね
「いやぁ少しどころじゃないって」
そう言いながら、嬉しそうに笑っていました。
なんでも、ダマリナッセの話によりますと……
「ここ数日さぁ、暑さのせいでの不眠が原因の体調不良の患者さんがさ、ナカンコンベでもガタコンベでもすごい数、診療所に押し寄せてたんだけどさぁ、その患者さんの数が目に見えて減ってきてんだよ」
との事だったんですよ。
僕は気付いていなかったのですが、そんなところに影響を及ぼしていたんですね。
その事を聞いた僕は、氷嚢の確かな成果を聞くことが出来た喜びで思わず笑顔になっていました。
で、この氷嚢の噂はあっという間にナカンコンベ周辺の辺境都市などにも広がっていきました。
ドンタコスゥコがよく行っているバトコンベでも、やはり熱帯夜が続いているそうで
「店長さん、この氷嚢を大量に仕入れさせてもらいたいのですねぇ。ガタコンベのゲルター領主直々に注文を頂いたのですねぇ」
そう、ドンタコスゥコが言って来たほどなのです。
ただ、まだまだナカンコンベやガタコンベ内にも行き渡っていないだけに、すぐに準備することは無理なのですが、少しでも早く回せるように、後でルアともう一度打ち合わせをしてみようとは思っています。
こんな中、オトの街では不思議なことが起きていたんですよ。
オトの街でも熱帯夜は続いていたのですが……どういうわけか、オトの街の中では氷嚢がすでに出回っていたそうなんです。
まだ魔王ビナスさんのもとで料理を習いながら弁当作成作業の手伝いをしてくいれているラミアのラテスさんと、おもてなし酒場の店主をしてくれているネプラナさん達がそう教えてくれたんです。
「そうそう、ヨーコが大量に持ってきてくれたのよ氷嚢を」
「うん、あれはすごく助かったわ。私も愛用しているの」
そういうラテスさんが持っている、そのヨーコさんって人にもらった氷嚢を拝見したのですが……
「あれ? これって僕の世界の氷嚢じゃないか!?」
僕は、それを見て目を丸くしました。
そのヨーコさんが配布したという氷嚢は、どうみても僕が元いた世界で販売されているゴム製の氷嚢そのものなんですよ。
僕はそれを見つめながら首をひねってしまいました。
……オトの街の少し北に住んでいるヨーコさんって……一体何者なんだ???
と、しばらく考えてはみたものの……当然答えなんか出るわけがありません。
とりあえず、ヨーコさんにまた会う機会があれば、その時にさりげなく事情を聞いて見ようと思っています。
……とはいいましても、あのヨーコさんって、白い狐の容姿をなさっている人狐(ワーフォックス)さんですからね……まぁ、僕と同じ、僕が元いた世界からの転移者ではないとは思うのですが……
まぁ、そのことはとりあえず一度脇においておいてですね……
僕は好調な氷嚢販売と同時に販売しているバニラアイスやかき氷の販売状況を確認していきました。
こちらも、氷嚢と同じくらい……いえ、その何倍も売れていました。
ヤルメキスとケロリンが作ってくれているバニラアイスとシャーベットは、2人の丁寧な仕事のおかげで、とても丁寧かつ美しい出来上がりになっています。
僕が見てもすごく綺麗だな、と、つい見惚れてしまう程なんですよ。
このまま増産が軌道にのれば、今後コンビニおもてなしの定番メニューとして定着させることが出来るようになると思っています。
かき氷も同様でして、この数日ですっかりコンビニおもてなし前で販売している冷たいお菓子として超有名になっている次第です。
シロップも、新たに西瓜もどきや、夕張メロンもどきな果物から果汁を絞って使用しているのですが、これが非常にジューシーで美味しいと評判になっています。
特に、ナカンコンベでの人気が異常でして、いくらつくってもおっつかない感じです。
とはいえ、氷は十分に生産出来ていますし、各地のコンビニおもてなしのかき氷担当のみんなもとても頑張ってくれていますので、どうにか数は足りている感じです。
ここナカンコンベにある5号店のかき氷機前に出来ている長蛇の列を見ながら、僕は何度も頷いていきました。
このかき氷はテトテ集落やフク集落でも大人気になっていまして、テトテ集落では、新婚のお年寄りと魔法使いの方が互いに
「はい、あなた、あ~ん」
「うほ、ではワシからも、あ~ん」
そんな会話を交わしながら互いにかき氷を食べさせ合うという、すごいラブラブな光景を集落のあちこちで展開されまくっていた次第です、はい。
まだまだ暑さは続いていますが、徐々にその対策グッズや食べ物も出回っていますし、この調子のままうまくいってほしいものです。