34章 癒しの場
アカネは餌の種類を確認する。一番安いものは「食パンの耳100グラム」で、100ゴールドだった。
次に安いのは「食パン」。こちらは120ゴールドとなっていた。
ほとんどの餌は、同じくらいの値段設定だった。多くの人が利用しやすいよう、リーズナブルな値段となっている。
メニュー表にある「セカンド牛」を発見。こちらは100グラムで、1500ゴールドとなっていた。肉だけあって、値段は高めに設定されている。
「なごみや」の餌やりはガチャゲームとどことなく似ている。最初は安いお金で心を煽っておいて、エサ代で儲けようというシステムだ。
どれにしようかなと思っていると、女性店員が声をかけてきた。透き通ったような声は、お姫様を連想させる。
「パンとチーズは大好評です。多くのお客様は、こちらをエサとしてあげています」
アカネは大金をもらったばかりで、懐が潤っている。自分の癒しのために、エサに課金することにした。
「セカンド牛を200グラム、パン10枚、チーズ150グラムをお願いします」
「ありがとうございます。5000ゴールドとなります」
ダンジョン、水探索で大金を得たからか、安く感じられる。大金を得たことで、金銭感覚がマヒしている。
お金を支払うと、パンとチーズを渡される。肉はどうしたのかなと思っていると、女性から説明があった。
「セカンド牛はしっかりと加熱させていただきますので、しばらくお待ちください」
犬に生肉を与えたときにとっても喜んでいた。できることなら、生肉を食べさせてあげたい。
「生肉はダメなんですか」
女性店員の眉間に皺が寄ることとなった。
「生肉を食べられないタイプもいますので、加熱をするようにしています。申し訳ございません」
「なごみや」を利用する人は、餌をあげる対象を決めていない。生肉を食べられないタイプに、食べさせるリスクは残る。
「なごみや」の店主が苦笑いを浮かべる。
「『セカンド牛+++++』なら、生で食べさせることもできますよ。値段が高すぎて、エサとしては難しいですけど・・・・・・」
味がいいだけでなく、生で食べられるようになっているのか。一度でいいから、あの肉を生で食べてみようかな。火を通したものとは、別の味わいを感じられるかもしれない。
「住民の年収の3年分に匹敵しますので、私は口にすることはできないですね。大富豪のみに許された食べ物となっています」
超一流の肉であるものの、値段があまりにも高すぎる。99パーセント以上の人間は、食べることなく死んでいく。
「アカネさんは、『セカンド牛+++++』を食べたことはありますか」
「はい、ありますよ」
「どんな味がするんですか」
「肉の中にフルーツの果汁を詰め込んだかのようです。肉でありながらも、フルーツさながらのみずみずしさがあります」
「すごいですね・・・・・・肉とは思えないです」
「値段は高いけど、満足する味でした」
アカネの脳内では、「セカンド牛+++++」を食べさせろと命令を送ってくる。完全に虜になってしまっている。
たわいのない話が続くのかなと思っていると、50くらいの女性が現れた。
「ミライ、仕事を変わる時間だよ」
「おかあさん、アルバイトに行ってくるね」
「なごみや」の店員をした後に、アルバイトをするのか。アカネほどではないものの、長時間労働をしているのかなと思った。