電気自動車おもてなし2号ただいま出動! その4
ナカンコンベで出会った少女、ピラミがみなしごのみんなと一緒に暮らしているフク集落まで、電気自動車コンビニおもてなし2号で荷物を運んであげた僕とスアなのですが、
「ピラミ、君はここから移住する気はないのかい?」
そう聞いてみました。
するとピラミは
「あの……みんなあれコン……ひょっとしたらパパやママが戻ってくるかもしれないって思ってるコン……だから、出来るだけナカンコンベの近くに住んでいたいコン」
そう言いました。
「でも、実際のところ商店街組合からもらえるお金だけじゃ生活が苦しいんじゃない?」
「……そうコン……あ、でも、もう少しコン」
「もう少し?」
「はいコン。もう少ししたら私、風俗街で働ける年齢になるコン、そうしたら……」
「はいそこまで」
「コン?」
僕は、ピラミの言葉を遮りました。
うん。
そういうところで働いている皆さんを否定するつもりはありません。
ですが、こんな年端もいかないといいますか、パラナミオと比べても年齢に差がないと思われる子供が生活のために……というのは、ちょっとあれです、僕的には見過ごせないといいますか……
「ピラミ、ウチの店で働く気はないかい?」
「こ、コン!? タクラさんのお店って、あ、あのコンビニおもてなしコン!?」
そう言うと、ピラミは飛び上がりました。
「そ、そ、そ、そんな大企業に私のような田舎者の何にも出来ない小娘なんかが雇って頂けてもなんにも出来ないコン」
ピラミは大慌てしながら首を左右に振っています。
そんなピラミに、僕は
「そんな大企業じゃないから、身構えなくても大丈夫だよ。出来ることをしてくれたらいいからさ。ピラミはあれだけの荷物を運んでいたんだし、おもてなし商会の方で荷物の運搬の仕事をしてくれてもいいし、他の子供達にも出来ることがあったらバイトとして仕事を回してあげられるかもしれないし」
僕がそういうと、ピラミは
「あ……あの、ホントに雇ってもらえるコン?……私、身寄りがないからって、どこにも雇ってもらえなかったコン……」
ピラミはそう言いながら目から涙を流していきました。
そんなピラミを、僕はそっと抱き寄せると、
「心配しなくていいから……今までよくがんばったね」
そう言いながら、ピラミの肩をポンポンと優しく叩いていきました。
ピラミは、堰を切ったように僕の胸で泣き始めました。
今まで、ここの子供達の中の最年長として一生懸命頑張っていたんでしょう。
自分が泣きたいときも我慢して、ずっと頑張っていたんだと思います。
それが、僕に優しい言葉をかけてもらえて、崩壊した感じなんでしょうね。
僕は、そんなピラミを優しく抱き続けました。
◇◇
そんなわけで、とりあえずピラミにはおもてなし商会のファラさんの元で働いてもらうことにしました。
そこで商会の荷物を運ぶ仕事についてもらうわけです。
この仕事は、若干きついですけど、賃金がかなりいいのです。
「よ、よろしくお願いしますコン」
「事情は聞いたけど、しっかり働かなかったらお給金容赦なく削るからそのつもりでね」
「は、はいですコン!」
初日からピラミは気合い満々の様子でファラさんに返事をしていました。
ファラさんの指導で荷物運びを行ったピラミですが、やはり毎週あの重たいリヤカーを引っ張っていただけありまして、結構戦力になっているようです。
ファラさんも、
「なかなか根性あるわよ。仕込み甲斐があるわ」
と喜んでいました。
さて、フク集落の方ですが……
ここに数人のお年寄り達が引っ越してきました。
テトテ集落で農業を担当している方々です。
「子供達、事情はタクラ店長から聞いたぞ。わしらがきたからにはもう安心じゃ」
「ここの畑からわんさか野菜が取れるように指導してやるわい」
「さぁ、お前達も手伝っておくれ」
テトテ集落の皆さんは、張り切った様子で子供達にそう語りかけました。
それを受けまして、子供達も元気な笑顔とともに
「「「はい!よろしくお願いします!」」」
と返事を返していきました。
この農業の件ですけど、ピラミ達がここを離れたくないのであれば、あの貧相な畑をどうにかしないと……と思いまして、コンビニおもてなしが野菜を仕入れていますテトテ集落の長のネンドロさんに相談したところ、
「では、元気なのを2,3人指導員として派遣いたしますニャあ」
そう言ってくださったんです。
で、来てくださった3人の皆さんも、子供達と一緒に農業が出来るとあって張り切りまくっておられるわけです。
その日の夕方に様子を見にいってみましたところ、わずか1日で畑の広さが10倍近くになっていて、僕も目を丸くした次第です、はい。
次に僕は、森に点在して住んでおられる皆さんに声をかけて回りました。
移住を希望される方にはテトテ集落を紹介し、この周辺から離れたくないとお考えの方にはフク集落に集まって暮らすことを提案して回ったのです。
すると、半分近い方々がテトテ集落への移住を希望されまして、残りの半分の方々がフク集落への移住を希望されました。
フク集落への移住を希望された皆さんは、すべて
「あのピラミ達を見捨ててはいけないと思いましてなぁ」
そうおっしゃってくださったんですよね。
テトテ集落への移住希望者の皆さんは、準備が出来次第僕が電気自動車コンビニおもてなし2号でコンビニおもてなし5号店まで荷物ごとお運びして、そこから転移ドアをくぐってテトテ集落へ移動してもらうことにしました。
次に、フク集落へ移住なさる皆様のために住居を作成しないといけません。
何しろ、今のフク集落には子供達がぎゅうぎゅう詰めで暮らしている家が一軒しかありませんからね。
そこで僕はルア工房のルアにこのことを相談しました。
ルアは、子供達の話を僕から聞くと同時に
「そんな可愛そうな子供達がこの近くにいるってのかい。よしわかった! その集落の住居はウチの工房にまかせな!」
そう言うや否や、人員を募ってフク集落へ駆けつけてくれました。
その際の荷物や人の運搬を行う際にも電気自動車コンビニおもてなし2号が活躍してくれています。
この住居作り作業は、最初はルアが無償でやってくれると言っていたのですが、この話を聞きつけた商店街組合がですね
「ぜひとも補助金をださせていただきますですです」
そう申し出てくださったものですから、結果的に儲けはありませんが損もない、そんな算段で出来ることになった次第です、はい。
この集落の周囲には、夜な夜な魔獣が出没することがあるそうです。
その対策としまして、5号店の店員でもあります鬼人のグリアーナに、しばらくフク集落で寝泊まりしてもらいながら警備に当たってもらうことにしました。
グリアーナなのですが、先日しばらくの間このナカンコンベを拠点にして狩りをしていたイエロとセーテンを前にして、
「あのデラマウントボアを2人で狩れるわけがないでござろう、どれ、拙者が手助けを……」
そう言って2人と一緒に狩りに行ったことがあったのですが……
イエロは言いました。
「あぁ……あやつ、まったく駄目でござる、修行が足らぬでござるよ」
そんな言葉を発しているイエロの後方で、自信喪失状態で真っ白な灰になっているグリアーナの姿があったわけでして……
「し、修行のためにもこの役目、ぜひとも拙者にお任せを!」
そう申し出てきたグリアーナのやる気をかって、この仕事を任せた次第です。
幸いなことにフク集落の周囲には、デラマウントボアが出没することはなく、グリアーナでも問題なく対処できる魔獣ばかりが出没しています。
グリアーナはそれを狩っては解体し、集落のみんなの食料にしてくれています。
特に子供達が、肉を食べられることに大喜びしていた次第です。
◇◇
まだ1週間しか経っていませんけど、フク集落は見違えたように活気に満ちあふれています。
うっそうと茂っていた木々は、スアが魔法でいい案配にカットしてくれたおかげで、畑に十分な陽光が差し込んでいます。
その畑では、テトテ集落の指導員のおじいさん達と、幼い子供達が笑顔で農作業を行っています。
ルア工房のみんなが住居だけでなく、木製の砦も構築してくれてますので集落の安全性も格段にアップしています。
僕は、コンビニおもてなし5号店の営業が終わると、仕事を終えたピラミを電気自動車コンビニおもてなし2号でフク集落まで送っていくのが日課になっています。
ファラさんが特別にピラミのお給金を日給で支払ってくれているもんですから、毎日コンビニおもてなしで食べ物を買って帰れるようになったもんですから、ピラミが買い込んだ品を一緒に積み込んで送り届けているわけです。
時折ファラさんが
「これ、仕入れミスしたのよ。無駄になっちゃったから持って行きなさい」
と言って、食べ物の詰まった木箱をピラミにあげているのですが……あのファラさんが仕入れミスするはずがありませんよね。
そんなみんなの思いをのせた電気自動車コンビニおもてなし2号は、今日も山道を通ってフク集落へと到着しました。
そんな2号に向かって、子供達が笑顔で駆け寄ってきています。
なんかいいですね、こういうの。