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魂の三本勝負~技の巻~

「……では、次の種目を発表する!」 

 大和が巻物を開き、次の種目名を高らかに叫んだ。

「第二の種目は……『技のめんこ』!」

「め、めんこ?」

「これもルールは至極明快だ! グラウンド上のコースでレースを行ってもらう! しかし、ただ単に速さだけを競うわけではない! コース上もしくはコース脇には様々な動く的や障害物がある! それらを見事射抜いたり、叩いたりすることが出来れば、命中点が与えられる! コースのクリアタイムと命中点の合計により順位が決まる! スピードだけでなく技術も問われるということだ!」

「め、明快かな~?」

 葵が首を傾げる。

「……めんこの要素は?」

 爽の冷静な問いに大和が答える。

「的や障害物は簡単には壊れないように出来ている! 例えば一度誰かが叩いたものでも、そこにより強い衝撃を加え、破壊することが出来れば、いわゆる命中点はその破壊したものに与えられる!」

「つまり速くゴールすることを優先するか、それとも命中点を稼ぐことを優先するか、の二択になるわけですね……」

「そうだ! ちなみにこのレース、他者への妨害もありだ!」

「え、そ、そうなの⁉」

「ああ! その方が色々盛り上がるからな!」

「い、良いのかな……」

「では、各チームスタートの準備をしてくれ!」

「……って、ええっ⁉」

 葵は驚きの声を上げた。何故なら車やバイク、又は自転車に乗っているチームがスタートラインに並んでいたからである。

「それでは位置について……」

「ちょ、ちょっと待って!」

「如何致しました、上様⁉」

「み、みんなで走るんじゃないの⁉ く、車とか反則でしょ⁉」

「レースの盛り上がりを考えて、車などを使うのもありとしています。勿論、公平に抽選を行って、車の使用チームなど決めています」

 大和の脇に立っていたクロエが補足する。

「そ、そんな……うちのチームは⁉」

「ローラースケートですね」

 爽が落ち着いて答える。

「だ、大丈夫かな?」

「ここは彼らを信じるしかありませんね」

「それでは位置について……スタート!」

 大和の号令とともに、各チームが一斉にスタートした。



 車でスタートする二年い組。

「殿、如何いたしましょうか?」

「折角、車を引き当てたのだ。最速でのゴールを優先しよう。運転は絹代に任せる。余が銃で的を狙い撃つ」

「殿……我々は?」

「介と覚、そなたらは車を降りて、他のチームを懲らしめてやれ」

「承知致しました!」

 光ノ丸の命を受けて、介次郎と覚之丞は車から飛び降り、絹代はアクセルを思い切り踏み込んだ。



 サイドカー一台とバイク二台でスタートする二年ろ組。

「い組はゴールを優先するようです!」

「ならばわたくしたちもトップを狙いましょう! 竹波君と呂科君は他チームの足止めをしつつ、命中点を稼いで頂戴!」

「分かりました!」

「お任せ下さい!」

「憂! 飛ばしなさい!」

「しっかり掴まっていて下さい!」

 憂はエンジン全開で先行するい組の車を追う。竹波と呂科は他チームの方に向かった。



 競技用の自転車に乗った飛虎は、は組のメンバーに指示を飛ばす。

「流石に車やバイクにはスピードでは叶わねえ! 出来る限り速くゴールすることを心掛けつつ、命中点を稼ぐぞ!」

「了解」

「相分かった」

「へへっ、思い出すな、飛虎、お前と一緒に峠を攻めたあの夜をよ!」

飛虎の隣にいる短髪の男が照れ臭そうに鼻の頭を擦った。この男の名前は神谷龍臣(かみやたつおみ)。は組の副クラス長で、飛虎とは古くからの悪友である。

「龍臣……生憎そんなことをした記憶は俺にはないが……とにかく頼むぜ!」

「任せとけ! 相棒」

 飛虎と龍臣は拳を軽く突き合わせ、スタートを切った。



「さて、どうしますかね……」

 光太が眼鏡を直しながら呟く。景元が手に持った弓を構えながら答える。

「トップでのゴールは無理です! 出来る限り固まって進み、命中点を稼ぐことに重点を置きましょう! 他のチームが狙いづらいであろう遠くの的は僕の弓で射抜きます!」

「貴方の腕前を信じるとしますか。では我々は大毛利君の護衛をしつつ進むということで……宜しいですか、お二人とも?」

「任せてくれ! 大体南武が全部何とかする!」

「ええっ⁉ 兄上、無茶を言わないで下さい!」

「……とにかく参りましょう」

 北斗に抗議する南武を無視して、将愉会もスタートした。



「……」

 白馬に跨った上杉山雪鷹が他チームが全てスタートするの黙って見ていた。

「まずは、固まって進むローラースケート組か、それとも派手に動き回っている自転車組か、どちらかを潰すか……」

 一瞬考えた雪鷹はすぐさま答えを出した。

「……後者だな!」

 そう言って、雪鷹は馬を走らせる。



「うわ⁉」

「ぐお⁉」

「どうした⁉ ‼」

 仲間の叫び声に振り向いた飛虎は驚いた。既に二人、雪鷹によって自転車を壊されてしまっていたからである。雪鷹は静かに呟く。

「残り二人……」

「ちっ!」

「ここは俺に任せて、ゴールを狙え、飛虎!」

「いや、ここで体育会を潰す!」

 飛虎の言葉に龍臣が笑う。

「へへっ、そうこなくっちゃな! よし! あの時の技で行くか!」

「どの時かさっぱり分かんねえが……行くぞ!」

 飛虎と龍臣が同時に飛び掛かる。

「……」

「⁉」

「な、何⁉」

 飛虎と龍臣の自転車が破壊された。

「す、すれ違いざまに、あの木刀でここまでの破壊力!」

「これで貴様らはレース続行不可能だ。ここでリタイアだな」

「くそっ!」

「速さはなかなかだったが、動きがバラバラだ。もう少し呼吸を合わせた方が良い……」

 雪鷹はそう言って、再び馬を走らせた。



「おいおい! 手を組むなんてズルくない⁉」

 竹刀を片手に北斗が叫ぶ。い組とろ組が将愉会を狙ってきたからである。

「ここで将愉会は消えてもらう!」

「悪く思うな!」

「悪く思うよ!」

「兄上! オウム返ししてもしょうがありませんよ!」

 南武も竹刀を構えつつ、北斗を落ち着かせる。

「大毛利君! 単独で厳しいとは思いますが、ゴールに向かって下さい! ここは我々三人でなんとか食い止めます!」

「! すみません!」

 光太の言葉に景元が頷き、ゴールへ向けて走り出した。

「4対3、数では不利ですが……」

 光太も竹刀を構える。

「ほお、勘定奉行と町奉行の御三方……」

「構えがなかなか様になっているな……」

 感心したような相手の言葉に北斗が噛み付く。

「なめんな! 剣術の心得くらいあるっつーの!」

「兄上、落ち着いて下さい!」

「冷静さを欠いては負けです……」

「俺は冷静だよ! ……上から目線が気に食わねえ! よし南武、飛べ!」

「はっ⁉」

「はっ⁉ じゃないよ! なんかいい感じの空中殺法とかないのかよ!」

「ありませんよ、そんなもの!」

「無いのですか⁉」

「何を驚いているのですか! 新緑先生!」

「双子なのに⁉」

「よく分からない双子への偏見止めて下さい!」

「お遊びはそこまでにしてもらおうか」

「⁉ 体育会の!」

「面倒だ、まとめて蹴りをつける」

「何⁉」

「上杉山流奥義……『凍土』」

「「「⁉」」」



「ええっ⁉」

 レースを見ていた葵は驚いた。雪鷹が木刀を軽く振るうと、戦っていた七人が一瞬にして凍りついてしまったからである。

「こ、凍った⁉」

「あれが上杉山副会長の奥義の一つ、『凍土』! 一帯を凍らせる技だ!」

「い、いや、技だ! って言われても!」

 大和の言葉をクロエが再び補足する。

「無論、手加減はしてあります。生死に関わるほどではありません」

「いやそういう問題じゃなくて……」

「しかし、いつ見ても見事な技だな!」

「……私の『風林火山・火の構え』ならば、あの程度の氷など、恐るるに足りません」

「はははっ! 切磋琢磨、実に結構!」

「サワっち……なんか、私頭痛くなってきた……」

「葵様、今はとにかくレースに集中しましょう」

「ええっ……」



「『技のめんこ』、第一位は……二年い組‼ 5ポイント獲得!」

「ふう……どうにか逃げきれましたね」

「絹代……何故に余を車から蹴り落とした?」

「少しでも車を軽くして速度を上げ、あの氷から逃れるための咄嗟の戦術的判断です。どうかご容赦下さい」

「ふん、まあ良いだろう……」

「第二位は将愉会‼ 4ポイント獲得!」

「な、何とかゴール出来たのが幸いしたか……」

「大毛利君、お見事です」

「俺らも凍った甲斐があったってもんだぜ!」

「もう二度と御免ですけどね……」

 南武の呟きに、光太も頷いた。

「第三位は体育会‼ 3ポイント獲得!」

「ち……捉え切れなかったか」

「上々、上々! ここは相手を誉めるべきだ! 最後に勝てば良い!」

 大和は雪鷹に優しく声をかける。

「第四位は二年ろ組‼ 2ポイント獲得!」

「くっ、あんな氷なんて反則ですわ……」

「バイクのタイヤを凍らされてリタイア扱いになってしまいましたね……」

「まあ、命中点を少しでも稼いだことによってなんとか最下位は免れることが出来ましたわ。次に向けて気持ちを切り替えましょう」

 落胆する憂を八千代が励ます。

「そして、第五位は二年は組‼ 1ポイント獲得!」

「くそ、なんてこった……」

「飛虎、まだ終わっちゃいねえ、あの夏の試合を思い出せ! きっと逆転出来る!」

「どの夏の日か分からねえが……確かに諦めるのはまだ早いな!」

 龍臣の檄を受け、飛虎は顔を上げる。

「というか南武さ~あそこは素直に飛ぼうよ、ノリ悪いって」

「いや、ノリが良い悪いの問題ですか⁉ 空中殺法なんて初耳ですよ!」

「なんかその場の勢いでさ~、パパッと飛べたっしょ~?」

「……正直ガッカリしましたね」

「新緑先生まで⁉ 何を言うのですか⁉」

「期待が大きかっただけに残念です」

「だから何の期待ですか⁉」

「ま、まあ、南武君少し冷静になって……大丈夫! あとは任せて! 最後の勝負、絶対に勝ってみせるよ!」

 葵は拳を握りしめて高らかに宣言した。

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