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植物の楽園の新種

 植物の楽園の大陸を創ってから結構な年月が経過した。
 そろそろ周囲の囲いを無くしてもいいかとれいが考えながら森の中を歩いていると、見慣れない生き物と遭遇する。
「………………これはここで誕生した新種でしょうか? こんなものをここに配置した覚えはありませんから」
 それは根っこを脚とした植物だが、何故か頭の部分だけ獣の顔をしていた。しかも溶けかけの獣の顔なので、あまり見ていて気分のいいものではないだろう。
 その新種の手は葉っぱが二枚合わさったような感じだが、その内側には牙のような鋭く長い棘がびっしりと生えている。
 その見た目に、そこで捕食しているのかと思うも、動物で言う喉のような部分は見当たらない。かなり太い茎の先に葉っぱが二枚、実のように膨らんでくっ付いているだけだった。
 その構造に、茎と葉の繋がっている辺りから養分でも吸っているのだろうかと思ったが、どうやらその手の部分で倒した獲物に脚としても機能している根っこを突き刺して養分を吸っているらしい。ゆっくり養分を吸えない時は獲物に根を絡ませて内部に取り込み、移動しながら養分を吸い取るようだ。
「………………知能はそれほど高くはないようですが」
 新種はれいに遭遇するまでその存在に気づかなかったらしい。しかし、れいに遭遇した瞬間に逃げたので、彼我の差ぐらいは理解出来るようだ。
 ただ、逃げた先に獲物を見つけたようで、れいからそれほど距離が離れていないというのに、そちらの方に意識が向いてしまっていた。
 れいは立ち止まってしばらく観察してみると、新種は獲物を斃して食事を始めたのだった。その姿は、完全にれいの存在を忘れているように見える。
 これでよく生きていけるなと思うが、この大陸にはまだ天敵が少ないか居ないのだろう。そういう場所になるようにと、れいが最初に整えたのだから。
「………………これは外から何かがやってきても生きていけるのでしょうか?」
 そんな姿に、れいは漠然とした不安を抱く。どう考えても、将来的に別の大陸から渡って来た者達によって絶滅しそうだった。良くて見世物か研究を目的とした捕獲だろうか。何にせよ、このままでは新種の将来は明るくない。
「………………大陸の解放の前に、何か脅威となる存在でも放ってみた方がいいかもしれませんね」
 しばらく考えたれいは、そう結論を出す。
 この大陸は植物を優先させるあまり、植物に優しすぎたのかもしれない。競争相手が同じ植物というのはそれだけでも結構大変だと考えての処置だったが、住み分けが決まった後はそれほど忙しなくはでもないようだった。
 むしろ住み分けが済んだ後に相手の住処まで貪欲に手に入れようと躍起になる人や魔物の方がおかしいのかもしれないが。
「………………まぁ、植物の場合は時の尺度が違いますからね」
 そんなことを思いながらも、れいは天敵になりそうな存在を選んでは放っていく。数は多くないが、直に増えるだろう。一応自然が循環出来るように考えつつも、一強にはしないように工夫しておく。
 そういった準備が終わった後、れいはもう少し時間を置いてから、大陸を開放するかどうかを決めることにしたのだった。

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