外の世界の現状
管理者も楽ではない。一般的な管理者ならば誰もがそれと似たようなことを考えたことがあるだろう。それぐらいに世界の管理業務というものは楽ではないのだ。特に気をつけねばならないのが、世界の破壊を企む者達だろうか。
被造物は創造主である管理者よりも格段に弱く創られている。それでも知恵を振り絞り、もしくは偶然に偶然が重なり世界を破壊しうる何かが生まれることもある。例えばそういった破壊が目的の兵器、あるいは能力だろうか。他にも、道具を組み合わせることでそこまで至ることだってある。
実例は極めて少ないが、それでも実際にそうやって至ったが為に世界が消滅した事例は確かに存在している。管理業務の中には、そういった不穏分子を早めに摘み取るのも含まれているが、それが早すぎると問題になる場合もあるのが面倒なところだが。
もっともそれは、一般的な管理者の話。れいの場合はハードゥスの護りが強固すぎるので、何が起ころうともそれが破られる可能性はまず存在しない。
その分管理業務の負担は減りはするが、それでも多少楽にはなっても暇にはならない。それに、ハードゥスはそこらの世界よりも大きいので、その分の負担は増えている。ただ、漂着物を集めた一角だけと限定すれば、一角もかなり広くなったとはいえ、一般的な世界と大差ない大きさなのだが。
「………………世界は増えすぎた、ということなのでしょうね」
管理者達の争い。それが毎日のように何処かで起こっている状況に、れいは小さく息を吐き出した。今し方など、わざわざ他の世界の住民を唆して、その世界を破壊可能な兵器を渡して使わせたという案件が発生していた。
そのことに世界の消滅直前に気づいたその世界の管理者がなりふり構わずに世界を護ったので、その世界は消滅までには至らなかった。その代り、世界を護るのに使用したリソースを捻出するために、世界の多くの部分が力に還元されてしまったが。
その結果、その世界はほぼ半壊と言えるまでになってしまったが、それでも消滅だけは避けられた。その後は消耗したリソースが回復するのを待って、世界の再建を始めることにしたらしい。
リソースはその世界で消費される分には循環して戻ってくるのだが、それでも今回の場合は時間が掛かりそうだった。そして、それを仕掛けた管理者がその空白を見逃すはずもない。
今後の展開としては、服従か消滅かといったところか。それでも防衛するとなると、他の管理者に手を借りるか、独力でなら世界を一旦リセットして、それにより捻出したリソースを全て護りにつぎ込むしかない。そうなると消滅とあまり変わらないが、全て失うよりもまだやり直せる分、そちらの方がマシだろう。
れいにとってはどんな結果でも構わないのだが、出来れば消滅は避けてほしかった。世界が消滅してしまうと、その際に外の世界に飛び出てしまった資源が流れ着く可能性があるのだから。
「………………困ったことに、最近は更に漂着物の量が増しましたからね。もう消費するとか考えるだけ無駄な量ですから……ペット区画にでも放出しましょうか? それなら全て放出可能ですが……いえ、やめておきましょう。それをするぐらいであれば、一角の広さを一気に拡げるか、倉庫の中身を力に還元して、ハードゥスのリソースを増やした方がいいですね。それはそれで迷惑ですが」
最後に苦笑気味にそう付け加えると、れいは漂着物について考える。
まず前提として、れいは漂着物を元の世界に戻すつもりはない。漂着物とは、言ってしまえばその世界が棄てたゴミのようなものなのだから返してもしょうがない。わざとではないにしても、対策ぐらいは最初から立てられただろうから。
「………………世界の穴については、最初の講習で教えるように組み込んでいましたからね」
れい以外では世界の穴を消すことは出来ない。ただし、被害をほぼ皆無にまで減らすことは可能であった。それを最初に教えるようにしていたので、それを怠った時点で棄てたと同義であろう。
もっとも、創造主の世代が変わった後に新しく創造された世界はその穴も存在しないのだが、その代わりに増えたのが管理者間の争いである。
「………………元は同じ存在だったので理解は出来ますが、それにしても……」
現在の創造主は、れいの元本体の分身体である。つまりは元々のれいと同じ存在。それ故に、ある程度は何を考えているのかが分かる。とはいえ、分身体は同じ存在ながらも個性があるので、完全に理解できるわけではないが。
「………………立ち位置的にしょうがないとはいえ、ここは後始末ばかりですね」
やれやれといった風にそう呟くと、れいは一角をもう少し拡張しようかと計画を練っていくのだった。