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相談の結果

「さ、先程と同じ方ですか?」

「ええ、左様でございます」

「さっきはどう見ても女の人だと思ったのに……」

 獅源は手で口元を抑えながら小さく笑った。

「ふふっ、それがアタシの生業でございますからね」

「獅源は女形(おんながた)の役者だからな」

「女形……」

「歌舞伎ってのは女も男が演じるんだよ」

「そ、それ位は勿論知っていたけど、まさかここまでとは……」

「まあ、勘違いしても無理は無えわな。なんてたって当代きっての女形だからな」

 弾七の言葉に獅源が静かに微笑みを浮かべる。

「橙谷先生、それはちょいとばかり言い過ぎです」

「そうか?」

「ええ? アタシの芝居なんかお兄さんたちに比べればまだまだひよっこ同然。そうですね……精々若手随一といったところでございましょう」

「全然謙遜になってねえぞ、それ」

 弾七と獅源は声を出して笑った。爽が口を挟む。

「成程……そういえば橙谷さんは、いくつか涼紫さんの役者絵をお描きになられていましたね。それがきっかけで親しくなられたのですね」

 弾七が頷く。

「ああ、何点か描いた内の一点が特に評判を呼んでな……俺様の出世作であり、代表作の一つになった。大天才浮世絵師、橙谷弾七にとっては足を向けて寝られねえ、数少ない存在の一人だぜ」

「それはまた嬉しいことをおっしゃって下さる……お陰さまでこちらも随分と名が売れました。駆け出し同然の役者にとっては本当にありがたいことで……まったく先生にはいくら感謝してもしきれません」

「よせやい、心にもないことを」

「それはお互い様でございます」

「って、おいおい!」

 弾七と獅源は再び声を出して笑った。葵がおずおずと話し掛ける。

「あの~弾七さん?」

「ん?」

「二人が以前からのお知り合いだということはよく分かったんだけど……よくよく考えてみると、学外の人の助けを借りるというのもちょっと違うような……あくまで学園内の選挙活動なわけだから……」

「ああ、そんなことか。それなら心配要らねえよ」

「え?」

「だって、コイツも大江戸城学園の生徒だぜ。アンタらの一年先輩になるか?」

「ええっ⁉」

 葵は爽の方に振り返る。爽が若干申し訳なさそうに頷く。

「申し訳ありません、葵様。口を差し挟む暇が無かったもので……ご紹介が遅れました。涼紫獅源さん、三年と組の生徒で、現役の学生さんでもあります」

「そ、そうだったんだ……」

「はい」

「ただ、ダブりだけどな、今年19になるんだっけ?」

「あ、そうなんですか……」

「お恥ずかしいことですが、昨年度は公演で忙しく、出席日数不足の為……今年度は学校側とも相談した上、何とか卒業出来るようにスケジュールをやり繰りしております」

「そ、それは大変ですね……」

「それじゃあ俺様と一緒に卒業出来そうだな!」

「先生はそもそも成績面で落とされるんじゃないかしら?」

「縁起でもないことを言うなよ!」

「おほほほ……」

 獅源はまた口を抑えて笑った。

「まあいいや、時間も無いんだろ? 本題に入るぜ」

「ええ、どうぞ」

「『将軍と愉快な仲間たちが学園生活を大いに盛り上げる会』、通称『将愉会』ってのを知っているかい?」

「ああ、小耳には挟みました。なかなか愉快な面々が顔を揃えているとか」

「実は俺様も名を連らねているんだ」

「へえ……先生も?」

「ああ、じゃあ、『誰が真の将軍にふさわしいか』を決める学内選挙が六月の末に行われるのは知っているかい?」

「ああ、それも何となくですが……」

「これが本日発表された候補者たちの支持率です」

 爽が近づいて端末の画面を見せる。

「! ふむ……」

 候補者たちの名前の欄を見て、獅源は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに平静さを取り戻し、葵たちに向き直った。

「それで、アタシに何を頼みたいのですか?」

 爽が眼鏡を触りながら答える。

「葵様はまだまだ世間への訴求性がまだまだ弱いというご意見が橙谷さんからもありまして……世間の知名度向上、イメージアップの為に、是非とも涼紫さんのお力添えをいただきたいのです!」

「それはそれは、なかなか難しいことをおっしゃいますこと……」

「葵様にはきっかけ一つで世間の人気を得るだけの十分なポテンシャルが備わっているとわたくしは確信しております!」

「お写真などは拝見しておりましたが、実際こうしてお目に掛かると……成程、整ったお顔立ちをなさっていますね、お化粧映えしそうでございます」

 獅源はまじまじと葵の顔を見て呟く。

「日々のメイクから見直せ、ということですか?」

 爽の問いに、獅源は軽く手を振る。

「それも大事ですが……選挙まで日があるようで無いのでしょう?」

「それはそうですね……」

「でしたらそんな悠長なことをせず、いっそ大胆なことを致しましょう?」

「大胆なこと?」

 葵が首を傾げる。

「実は十日後に、一日限りですが、アタシが座長で特別興行を打つことになっているのでございます。どうでしょう、上様はじめ、えっと……将愉会でしたかしら? 皆さん舞台に出演なさっては如何でしょうか? 現役の将軍様が舞台にお上がりになるなんて、きっと盛り上がること間違いなしでございます」

「「「え、えええっ⁉」」」

 獅源の突拍子もない提案に葵たちは驚いた。

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