もしもし? その1
コンビニおもてなし美容室・マクローコのお店は、開店と同時に結構な数のお客さん達が押し寄せてくださいました。
その大半は風俗街で働いているお姉さん達です。
「マクローコちゃん、再開おめでとう」
皆さん口々にお祝いを言いながら店に入っていってます。
マクローコはそんな皆さん一人一人に対して丁寧にお礼を言っているのですが、
「や~んありがっちゅう。マクローコってばギガント嬉しいみたいなぁ」
なんて言葉を口にしながら舌出しダブル横ピースをしているもんですから、どこか残念な感じがしないでもないのですが、まぁこれがマクローコのいつもの口調なわけですしお客さん達もそのあたりはよくわかってくださっているみたいでして、店の中はとってもあったかな雰囲気に包まれていました。
で
その雰囲気は、序盤だけでした。
最初の数人のセットが終わると、その雰囲気が一変したのです。
「え? 何これ? 超すごい!」
セットの終わった皆さんが、もれなく驚き混じりの歓喜の声をあげました。
一番の理由は、クキミ化粧品の新製品でもあります『ヘアカラー』です。
爺ちゃん時代の在庫としてコンビニおもてなし本店の倉庫の奥に残っていたヘアカラースプレーをスアが分析・研究して、パルマ世界で採取出来る材料でそれを再現することに成功したんです。
で、そのレシピに従ってクローコ・マクローコ・キョルン・ミュカンさんが総力を結集して完成にこぎつけたんですよ。
僕が元いた世界のヘアカラースプレーのように、ワンタッチでプシューっとは出てくるタイプではなく、容器の中にヘアカラーがクリーム状になって入っているタイプになっています。
で、そのクリームを塗れば、髪の毛の色を好きな色に変えることが出来るわけです。
異世界ってこともありますので、茶色系統だけでなく赤や青、紫や金色など多種多様なカラーのヘアカラーを準備しています。
で、マクローコがセットする際に
「お好きな色に染めれる、みたいな」
と、一声かけるわけです。
で、お試しで染めてみた皆さんがもれなく先ほどのように歓喜の声をあげていったわけです、はい。
マクローコのお店では、メイクも行っています。
で、その際にもクキミ化粧品を使用しているのですが
「うわぁ、前の化粧品より段違いにいいね、これ!」
と、こちらも大絶賛されていたんです。
そんなわけで、お客さん達はみんな感動しまくっていたんです。
裏通りにある小さな美容室ですからお客さんが殺到してもその数はたかがしれていたのですが、閉店後のマクローコ達は
「店長ちゃん、マクローコのお店始まって以来最高のお客さんが、キタ――――――――! しかもみんなギガント喜んでくれた、みたいなぁ!」
そう言いながら、手を取り合ってマイムマイムに似た踊りを踊り始める始末でした。
で、美容室も大人気だったわけですが、同時にコンビニおもてなし3号店の方も大人気になっていました。
「え? この扉の向こうにコンビニおもてなしがあるの?」
と、最初は半信半疑だったお客さん達も、その扉を開けるとそこにコンビニおもてなしの空間が広がっているもんですから、揃って目を丸くしていました。
そりゃそうですよね。何しろその扉が付いている壁の向こうは隣の店の壁ですから、そんなスペースがあるはずがないわけです。
そんなわけで、お客さんの多くが待ち時間にコンビニおもてなしで買い物をして、その後髪のセットをすませてから風俗街へ出勤していかれていました。
◇◇
と、まぁ、初日はそんな感じでみんな笑顔だったマクローコのお店だったのですが……
「て、て、て、店長ちゃん、た、た、た、助けてほしい、みたいな!!!」
大慌てしながらマクローコが転移ドアをくぐってガタコンベにある僕の巨木の家に駆け込んできたのは翌日の夜のことでした。
ちょうど夜の営みをいたそうとしかけていた僕とスアは大慌てで服を着て、マクローコを出迎えたのですが、
「ど、どうしたんだい、マクローコ」
「そ、そ、それが、お店がマジ、やばいっていうか、ぱないっていうか」
と、完全にパニクっていてお話にならない状態です。
で、僕はすぐにマクローコと一緒にナカンコンベのマクローコのお店へ駆けつけたのですが、そこで僕は目を丸くしました。
店の前に行列が出来ています。
その長さが、ちょっと尋常ではありません。
下手したらこれ、1km近くあるんじゃないの? ってぐらいの長さになっているんです。
これ、昨日マクローコの店を利用したお客さん達から口コミで噂を聞いた人達が駆けつけてきた結果だったんです。
「っていうか、なんで僕のとこに来たの!? これならまずクローコさんとこに行かないと!」
「あ、そっか!」
僕に言われて、少し我に返ったマクローコは、一緒に付いてきてくれていたスアが作ってくれた臨時の転移ドアをくぐってララコンベにあるクローコの部屋へ駆け込んでいきました。
で、事情を聞くなりクローコさんは、
「事情はだいたいわかったっぽい! 通りすがりのクローコお姉ちゃんにお任せ、みたいな!」
気合い満々に両手を振り回しながら店に入っていきました。
しかし、クローコさんが加わったぐらいでは、この大行列には太刀打ち出来そうにありません。
皆さんもお店がありますしね……待たされまくっている後方のお客さん達が苛立ち始めています。
「とはいえ……僕じゃあ髪のセットなんか出来ないし……誰かいないか……」
腕組みしながら僕が考え込んでいると、
「あら、店長さんこんばんわ」
「あら、店長さんこんばんわ」
と、露出過多なドレスに身を包んだ2人組の女性が僕に声を……って、
「キョルンさんとミュカンさん!? なんでこんな時間にこんなところに?」
「えぇ、知り合いのパーティに呼ばれていましたの。ねぇ、ミュカンさん」
「えぇ、そうですわ、キョルンお姉様」
そう言いながら、2人はいつものようにポーズを決めていました。
「魔導船のおかげですぐにこれるようになってとても助かっていますわ、ねぇミュカンさん」
「えぇ、そうですわ、キョルンお姉様」
にこやかに微笑みながら僕に語りかけてくれる2人。
で、そんな2人に僕は早速事情を説明したのですが、
「そういうことでしたら、私もお手伝いいたしますわ、ねぇミュカンさん」
「えぇ、それがいいと思いますわキョルンお姉様」
再度ポージングをきめてから店の中へと入っていってくれました。
この結果、4人体制になったマクローコのお店は驚異的な速さでお客さんをさばいていきました。
それはもう、見事というしかありません。
ちなみに、マクローコの手伝いをしているゴブリン2匹とゴーレム達は、手がでっかい上に細かい作業が苦手なもんですから洗髪や道具の準備とかしか出来ないんですよね。
と、まぁ、こんな感じでどうにかこの日を乗り切ることが出来たマクローコのお店だったわけです。
◇◇
とはいえ、さすがにこの状態が続くとまずいわけです。
お客さんが来てくださるのはありがたいのですが、そもそも店そのものが小さいですし、今回のように都合良くバイト……じゃなかった、ゴージャスサポートメンバーのキョルンさんとミュカンさんが通りがかってくれるとは限りませんからね。
そこで僕はマクローコのお店に予約制を導入することを考えました。
僕が元いた世界でも美容室は予約制が当たり前だったはずです……男の僕にはいまいちわかりかねるんですけどね。
ただ、この予約制を導入するには大きな問題があります。
どうやって予約を受け付けるか、なんですよね……何しろこの世界には電話なんて物はありませんから
一度来店してもらって予約をしてもらってから再度来てもらうっていうのでは手間がかかりますし……
そんな事を考えているとスアが
「……電話?」
不思議そうな顔をしながら近寄ってきました。
「あぁ、そっか、スアは電話って知らないよね。僕が元いた世界にあった機械なんだけど遠くに離れた相手同士でお話出来る機械のことなんだ」
僕が身振り手振りで説明していると、スアはしばらく腕組みして考えこんでいたのですが
「……こんなの?」
そう言いながら、右手の人差し指をついっと振りました。