17話
朝食含め、朝の支度を終えて、外へ出る。
花壇を作るのにいい場所はないかとタブレットを開いたところ、マップ上の動物小屋のマークが点滅していた。
「ん?なんだろ、これ…」
まぁ、変なことはないだろうとそれをタップする。
通常でも、動物小屋や菜園をタップすれば現状を確認することが出来るので、一日一回、手が空いたタイミングで確認はしていたが、これは初めて見る。
「…へぇ!?」
思わず変な声が出た。すぐそばで聞いていたニコがキョトンとした様子でこちらを見上げてくる。
「…ママ?」
「あ、ごめんね。ちょっと驚いて…」
驚いたのには当然理由がある。
だがその理由が、またすごいものだった。
「えーっと…メスって妊娠していたのを買ってきたんだっけ…?」
突然動物の数が増えていたら、驚くなというほうが無理がある。
確かに鶏以外は雄雌両方購入してあり、乳牛とヤギはスキルを使って交配できるようにしているにはしているが…。
とはいえ、もう生まれてきて問題ないわけがない!
「……」
混乱してきて何を考えているのか分からなくなったので、一度落ち着こうと深呼吸する。
少しずつ問題を整理することにした。
まず、動物リストを確認する。
最初に購入してきたのは鶏が5羽、牛が6頭(乳と肉それぞれ3頭ずつ)、豚、羊、ヤギが3頭ずつ。
鶏は全て雌鶏、他が雄を1頭ずつ。
そして今。
鶏は変わらない。そもそも、雄がいないから無精卵しか生まないのだけれど。
牛は3頭。乳牛が1頭、肉牛(と言っていいかはわからないが)が2頭増えている。
ヤギは2頭。1頭ずつなのか、どちらかが2頭産んだのかは分からない。
羊は3頭。1頭と2頭といったところか。
そして最後に豚。
これだけは他と大きく違い、合計数が二桁になっている。親の3頭を含めて25頭。
豚は多産で、1度に10頭出産することはもちろんおかしいことではない。
数はいいんだ、数は。問題なのは生まれてきたことだ。いや、いけないわけではないけれど。
全て揃って生まれてきたことも、まぁ、確認作業が楽になるからよしとしておく。
一番の問題点は、「購入して一か月で生まれてきた」ことである。
購入一か月で出産は、異例(もともと妊娠してたならともかく)どころではないが、スキルの能力だと無理やり納得することとした。そもそも、野菜だって季節関係なく全て順調に…どころか、こちらも高スピードで育っているのだから、動物にも同じことが起こるのも当然といえば当然だった。
「ん-…とりあえず見に行こうか」
当初の目的は、花壇を作る場所を探すことだったが、こうなってしまったのなら一度見に行く必要がある。
ニコをクッキーに乗せて動物小屋へ向かう。
「わぁーこれはまた…」
外に出てるのは数頭だった。それも殆どオス。牛とヤギはメスも1頭いるようだ。鶏は全部出てるが。
それを確認してから、中をのぞくと、あちこちから鳴き声が聞こえてきて賑やかだった。
一通り見て回る。授乳中だったり休んでいたり、中には生まれたばかりなのか立ち上がろうとしている子がいたりとさまざまだ。
どうやらどの赤ちゃんも健康に生まれてきたようで、一安心。どれも母親の状態がよかったのだろう。
育児の邪魔をしてはいけないから、動物小屋を後にする。
「いっぱいいた!」
「ホントだねぇ。あんなに一度に生まれるとは、思わなかったよ」
きゃいきゃいと嬉しそうなニコを、再びクッキーに乗せて家近くまで戻る。
花壇を置くにはどこがいいか、家の近くを見て考える。
家の周り、大体1mぐらいは草が生えないよう、通路と同様に石畳にしてある。
家の前の通路を挟んだ反対側には菜園、そして家の片隣には林と化している木の群生地。
裏側にも一部木が生えている。一度どこまでが敷地としてあるのか確認したが、同じ大きさの家があと3軒は立ちそうな広さはあった。
そして木とは反対の隣。こちらはまだ何もない。ただっぴろい場所に草が生えそろっているだけだ。
「うん、やっぱりここかな」
最初にマップを開いて、すぐ動物小屋に目が行ってしまったが、予めの目星はついていた。
家から離れずに済むし、最初は小さく作る花壇を、少しずつ広げていくこともできるからだ。
場所を決めて、手をつないでいるニコと目を合わせる為にしゃがむ。
「ニコ」
「なぁに?」
「お花、育ててみない?」
「おはな!?」
花と言えば、パァッと顔を輝かせる。そしてすぐ、キラキラとした目でこちらを見上げてきた。
「そう。ニコにはね、お花を上手に育てられる力があるみたいなの。お家の隣にお花畑、作ってみない?」
「やりたい!」
聞けばすぐにそう答える。
もちろん、全て1人でやらせることは出来ないので手は貸す。
野菜の作り方は叩き込まれている(…ここでは正直役立っていないが)。野菜と花の育て方にあまり違いはないので、問題ない。むしろ、時間を持て余し気味だったので、やれることが増えるのはありがたい。
「うん。じゃあ、一緒にやろっか。最初は少しずつね。慣れてきたら、ちょっとずつ大きくしていこう」
「はーい!」
そう返事をしながら、嬉しそうに抱き着いてくる。
「じゃあ、今日は種とか道具を買いに行こうか」
「いくー!」
「よし。それじゃあ準備してくるから、みんなと遊んで待ってて」
午後のおやつに、熱くなるだろうからゼリーを作る。
ゼラチン(と同様の物。名前は違う)を水でふやかして、リンゴジュースとオレンジジュース、ブドウジュースを鍋にいれて火にかける。
ふやかしたゼラチンをそれぞれの鍋に投入して焦げ付かないように混ぜる(1つはフウが手伝ってくれた)。
平らなパットにそれぞれ流して、粗熱をとる。
その間に、お弁当としてサンドイッチを作る。フルーツが余っているのでフルーツサンドだ。
粗熱が取れたゼリーを冷蔵庫に入れて、荷物を整えたら出かける準備は万端だ。
「お待たせ、ニコ。お出かけするよ」
「はーい」
妖精達とユキに見送られて、買い物に出かけた。