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第11話 スキル習得の実証、そして初戦闘。

サウスプリングの町を出発し約1時間、俺は再びフーリットの森へと到着した。





昨日と違うところを探索する予定だが、何も目印もない森の中で昨日の俺がどこを探索してどこは探索していないというのは覚えていない。むしろ覚えている方がおかしいというものだ。





そこで今回試したいことがある。

それは...ずばり『地図化マッピング』だ!





宿屋で朝食を食べているときにも考えていたが探知系の魔法やスキルがあれば便利だということで、先ほど全知辞書さんにそういうスキルや魔法があるかと尋ねたのだ。すると無属性魔法で『探知サーチ』という魔法が存在しているのと、スキルで『地図化マッピング』というのが存在しているらしい。





魔法の方は使い方が分かっているのだが、スキルの方は取得条件が分からないため手探りでやっていくしかない。おおよその検討はついているが確実に取得できる保証はない。





とりあえず確実にできる魔法からやってみることにする。





方法はいたって簡単!魔力操作で魔力を自身の周囲に薄く波紋のように広げていくイメージをするだけである。百聞は一見に如かずということで早速やってみる。ちなみに身体強化と同じく無属性魔法は基本的に詠唱はないとのこと。だからこそ他の魔法よりもイメージだけで構築しないといけないので無属性魔法は難しいのだという。





「探知サーチ」





すると俺の魔力が自分を中心に波のように広がっていく感覚が伝わってくる。そして半径10mほどの周囲の状況がまるでレーダーのように脳内イメージとして返ってくる。障害物、生物などの位置が手に取るように分かった。





《熟練度が一定に達しました。スキル『探知魔法』を習得しました》





やはり今回も簡単に魔法を習得することが出来た。この調子で地図化マッピングのスキルも手に入れることが出来たらいいのにな~と期待を抱きつつ、取得条件を満たすために試行錯誤を開始する。





地図化というスキルは文字通り、行ったことのある場所の地理情報を地図として表示するスキルのことである。全知辞書さんの説明からなんとなくレアなスキルだと予想している。そのため他の魔法やスキルに比べて取得難易度は高いだろう。ただし手に入れることが出来れば非常に便利になることは間違いない。





取得条件が分からないので俺の完全なる予想だが、スキルの効果からおそらく取得するにはまず自分の周囲の地理情報を得る手段を手に入れる必要があると考えた。そのため先に探知魔法を取得しておいたのだ。そしてその地理情報を正確に脳内で地図として記憶する、つまりは疑似的にスキルを自分の脳内で再現するということだ。





以前からスキルを獲得する際にシステムの音声が「熟練度が一定に達しました」と言っていた。つまりはスキルを獲得する以前にスキルと同じ内容のことをスキルを用いずに行うことがトリガーになていると考えられるのだ。これは単なる仮説にすぎないのだが、あながち間違っていないような気がしている。





俺はもう一度探知魔法を発動させ、今度は周囲の地理情報を頭の中に正確に再現をする。スキル『超理解』のおかげで知力が高いおかげか、かなり意識を集中させないといけないが半径10mの地理情報に関しては脳内で再現することが出来た。



今度はこれを維持したまま少し森の中を進んで新たな地理情報を既存きぞんの地図に追加していく。これは想像よりも遥かに根気が必要な作業で、5m進むのに10分も要してしまった。





その後、1時間ほど経過して最初の地点から約30mほど進んだところまでの地図を脳内で描くことに成功した。こんなに長時間も意識を集中させていられるのは高い知力と高いストレス耐性のおかげだろう。しかしもうそろそろ諦めよう、限界だ。そんな時だった。





《熟練度が一定に達しました。Exスキル『地図化マッピング』を取得しました》

《熟練度が一定に達しました。スキル『ストレス耐性』がレベルアップしました》





やった~!!!ついにゲットできた!!!



俺の仮説はやはり正しかったようだ。これで新しいスキルをゲットできたことに加えてスキルの取得方法についても実証することが出来た、いわゆる一石二鳥の成果という訳だ。それについでとばかりにストレス耐性のレベルが上がった。おう、なんてこったい。





もちろんスキルレベルが上がったからと言って今までの疲れが癒えることはなく、スキル習得のアナウンスが聞こえてすぐに溜まりに溜まった精神的疲労がドッと押し寄せてきた。俺は力が抜けたように近くの木にもたれかかり、しばらくの間休むことにした。まあまだお昼になるかならないかぐらいの時間だし、採取は休憩してからでも十分時間がとれるだろう。









約30分ほど経過しただろうか、完全回復の8割ほどまで気力が戻ってきた気がするのでそろそろ休憩を終わりにする。俺はゆっくりと立ち上がり、自分の頬を両手でパチンッっと軽く叩くことで気合を入れ直す。これからがこの森に来た本来の目的なのだ。もうひと頑張りしますか。気を引き締めて再び森の中を歩きだす。





今回は先ほど苦労して手に入れたExスキルの地図化を使用しながら歩き回る。このスキルはインベントリなどと同じようにゲーム画面の如く目の前にウィンドウが開き、そこに周辺地図が表示されるというものだった。本当にこの世界ってゲームっぽいよな、一体どうなっているんだか。





しかし一度訪れた場所以外は黒塗りで全く分からない。現在はフーリットの森の一部しか表示されていない。スキルを取得する前に訪れた場所は表示されていなかった。







おそらく2~3時間ほど歩き回っただろうか、今回も収穫は上々だった。もちろん前回と同様に群生地のすべてを取り切るのではなく、今回は4割ほどは残して採取をしていった。それにもかかわらず今回もレコベリ草40本、そしてコンデの実30個を手に入れることが出来た。





ところで何でそんな綺麗に10の倍数ずつ手に入れているのかと疑問の方もいるだろう。それは簡単な話だ、俺が意識してぴったり採取しているからだ。何か中途半端な数字が気になっちゃう質なので端数が出ないように採る量を調整しているのだ。ただの変なこだわりなので気にしないで欲しい。





まだ日が落ちるまで時間があるので少し休息を取った後に再度採取を再開する。ここまで地図化を使用しながら採取をしていたためにフーリットの森の浅い部分に関しては地図が半分ほど表示されていた。そのためどこがまだ探索していない部分なのかが一目瞭然で分かるのがすごく助かる。





そして俺はまだ探索していなかった部分へと向かった。残りおよそ1時間ほどで今日は切り上げようと思っているのであまりにも奥深くまで行くつもりはないが、少しだけなら間に合いそうなのでちょっと奥地へと足を踏み入れる。





探索を再開してから約10分後、かなり大きめのレコベリ草の群生地を見つけた。俺は慎重に根を傷つけないように採取していく。これはもうランクアップできるのではないかというくらい今日は大量だった。





その場所に生えていた総数の約4割、およそ40本ほど採取したところで俺は異変に気が付いた。すぐに採取の手を止めて気配遮断を最大限使用して近くの木陰に隠れた。定期的に発動していた探知魔法に何者かの反応があったのだ。





しばらく観察していると先ほどまで採取していた地点のさらに奥に10mほど進んだところから2匹のゴブリンが出てきた。尖った耳に緑色の皮膚、そして二匹とも手には石製の斧を握っていた。ゲームやアニメでもよく見る『ゴブリン』そのままの見た目だった。





「ギギィ!ゴギギィグガギ!!!」



「ゴギギィガ、ガッガァギィ」





その二匹のゴブリンは何やら会話?のようなものをしながら目の前にあるレコベリ草を強引に採り出した。それは俺の採取の仕方とは全くの逆で繊細さの欠片もない、それにそこに生えているものすべてを採りつくさんという勢いでゴブリンたちは採取している。





(あいつら...あんな採り方してたらこの森からレコベリ草がなくなるぞ!!)





俺はゴブリンたちに少し腹が立った。もうちょっと考えて行動しろよと思うがそこまでの知能がないのだろうか?それにもしかしたら戦闘になるかもしれないので気づかれていないうちにゴブリンの鑑定をしておくことにした。







=========================







種族:ゴブリン Lv.3



HP:35 / 35

MP:20 / 20



攻撃力:30

防御力:25

俊敏性:30

知力:5

運:10



残りステータスポイント:0



称号:



スキル:

斧術Lv.2 



~~~~~~~~~~~~~~~









種族:ゴブリン Lv.4



HP:50 / 50

MP:25 / 25



攻撃力:37

防御力:27

俊敏性:38

知力:6

運:5



残りステータスポイント:0



称号:



スキル:

斧術Lv.3







=========================







なるほどね、レベルに関しては完全にあちらの方が上だ。しかしステータスに関しては圧倒的にこちらの方が上である。万が一、戦闘になってもおそらく勝てる相手だろう。てか知力5とか6って...マジで馬鹿だったか。





しかしどんなにステータスで勝っているとはいえ相手は2体、それに俺はまともな戦闘経験は一切ない。出来ることなら最初は一匹を相手にしたいところだ。どうせレベルを上げるなら安全に確実に、だ。ならば今は戦わずに単体行動をしているものを最初は探すべきだろうな。





俺は今は戦闘を避けるという方針を決め、ゴブリンたちに見つからないように気配遮断を発動し続け息をひそめる。その間も二匹は目の前のレコベリ草を一心不乱に採り続けている。





(や、やめて...)





それは突然の出来事だった。俺と目の前のゴブリン以外には近くに誰もいないはずだったのにも関わらずどこからか声が聞こえてきたのだった。辺りを見渡しても探知魔法を駆使してもその声の主は発見できなかった。ゴブリンたちは何も聞こえていないのか止まることなく作業を続けている。気のせい...なのか?





(こ、これ以上...森を.......傷つけないで...)





いや、気のせいなんかじゃない!「森を傷つけないで」と確かに聞こえた。



おそらく目の前のゴブリンたちのことを言っているのだろう。あれを他のところでも行っているのであればレコベリ草はおろか一部の植物はこの森からなくなってしまうだろう。ゴブリンは群れるって全知辞書さんから聞いたからな。それに俺みたいな冒険者も採取しているのだから尚更なおさらである。俺も当事者のような気がしてきて何だか急に罪悪感が芽生えてきた。





さてどうしようか。あんな悲痛な声を聞いたらこのまま何もしないで静観せいかんしているのは芽生えた罪悪感をさらに大きくしてしまうだろう。ここは罪滅ぼしと言えば自己満足のようにもなるが、あいつらを倒した方がいいのだろうな。そうなるとどうやって二匹を相手にしたものか...幸いにも今は気付かれていないが二匹を同時に相手するのは少し不安だ。





ん...気づかれていない?





俺は良いことを思いついた。前世でもゲームの中だがこのような状況はあったのだ。対人ゲームにおいて一対多の戦いではどうするべきなのか。





俺は静かに深呼吸をし、息をひそめ心を落ち着かせる。

余計なことを思考から排除してこれから行う手順だけに集中する。



気配遮断を使用しながら木陰から飛び出す。ゴブリンが採取に夢中になっている隙に奴らの死角から距離を詰めていく。気配遮断のスキルレベルが高いおかげで攻撃が届く範囲に辿り着いても気づかれることはなかった。俺はナイフを構え、まずはレベルの低い方のゴブリンから狙う。



息をひそめ、その無防備な首元きゅうしょへ向けてナイフを振りぬく。





「!?」





一匹のゴブリンは声も上げることなく自身の首を跳ね飛ばされた。突然の仲間の異常事態にもう一匹のゴブリンはフリーズしている。しかしすぐに仲間の死を理解したのか背後の俺からバックステップで距離を取り、斧を構えて戦闘態勢に入った。





《経験値が一定に達しました。レベルが2から4へと上がりました》





レベル的には格上の相手だったのと称号による補正もあってか俺は一気にレベルが2も上がる結果となった。おかげでステータスはかなり上昇し、もう一匹のゴブリンと同じレベルとなったがステータスの差が圧倒的なものとなってしまった。





「ゴグギィ!ギギィ!!!」





ゴブリンは大声で何かを喚き散らす。おそらく仲間が殺されて怒り狂っているのだろうか。それとも採取の邪魔をされたことに怒っているのだろうか。言葉?が分からないので理解はできない。





《スキル『多言語理解』によりゴブリンの音声言語を習得しました》





......え?それも理解できるんですか?

もしかしてこれで相手の言っていることが流暢に理解出来たらちょっとやりにくいかも...





「オマエ、シネ!!!シネ!!!」





あっ、そういえば知能6でしたね。てかこいつ「オマエ」と「シネ」しか言ってないんだけど。言葉を理解する必要全然なかったじゃん。もし「恋人の仇かたき!!」とか「よくも弟を!」とか言っていたらめちゃくちゃやりづらかったんだけど、それは杞憂きゆうにすぎなかったようだ。





「シネ!!!!!!!!」





ゴブリンは雄たけびを上げながら持っている斧を振りかぶって攻撃を仕掛けてきた。単純な上段からの振り下ろし攻撃、戦闘経験が少ない俺にとっても避けるのは容易たやすいことだった。



それにレベルが上がったおかげで先ほどまでよりも体が軽く感じ、ゴブリンが飛び掛かっている間に俺は簡単に背後を取ることが出来た。そのまま先ほどと同じようにゴブリンの首元を狙いナイフを振り抜く...









俺の初めての戦闘は1分も経過することなく終了した。

危なげもなく、初戦にしては非常に上々だと評価できるのではないだろうか。





今回の戦闘で俺はレベルが2から6まで上がり、大幅にステータスを上昇することが出来た。それに先ほどの戦闘で急所を狙い続けていたことが原因だと思うが、スキル『急所特攻』と称号『一撃にて屠るほふる者』を手に入れた。





『急所特攻』は相手の弱点部位に攻撃をした場合に威力が跳ね上がるスキルのようで先ほどのように敵を一撃にて仕留めやすくなるだろう。称号の方は攻撃力が一定割合上昇する効果があるらしく、これもまた一撃で敵を倒すことをさらに容易にさせてくれるものだ。





そういえば先ほどの声は一体誰の声だったのだろう?



結局のところ姿を見ることはできなかったし、戦闘が始まってからはその声が聞こえることもなくなった。敵意は感じなかったし、言っていた内容からも森に関係する者であることは推測できる。ただそれ以上は現段階では分からない。とりあえずは保留だ。





しかしこれどうしようか...



俺は頭と胴体がバラバラになった二匹のゴブリンの死体をどうするか悩んでいた。おそらくゴブリン討伐もギルドの依頼としてあるから討伐の証みたいなものを取っておくべきなのだけれど、何がそれに該当するのかをきいていないのだ。



仕方ないのでとりあえずインベントリの中に死体をそのまま保管しておくことにした。ひとまずインベントリへ、こういうことが出来るのが非常にありがたい。インベントリ内では時間も停止しているので腐ることも朽ちることもない。本当に便利なスキルである。





それにゴブリンたちがむしり取っていたレコベリ草ももったいないのでインベントリに保管しておくことにした。かなり質は悪いのでギルドに納品して良いレベルか怪しいものだが、納品しないにしても何か使い道があるだろうとし、それに自然の恵みを無駄にしたくない。先ほどの声を聞いてからその思いがより一層強くなった。





予定外のことが起こったがそれ以外は概ね予定通りに依頼もこなせたのでそろそろ町へと変えることにした。もう余裕で体力を残しながらも1時間かからず町へと戻ることが出来るようになってきた。レベルアップの恩恵って素晴らしい!!





そしてギルドへと向かい、レイナさんに依頼の納品報告を行う。そのついでにゴブリンのことを話したが、謎の声のことはあえて伏せておいた。そのことを聞くや否やレイナさんは少し不安げな表情になった。





「大丈夫でしたか?お怪我などはありませんか?」



「はい、大丈夫ですよ。全くの無傷です!」





そういうとレイナさんはホッと安堵したかのようにため息をついた。我が身のことのように心配してくれるなんてすごく優しい人なんだな。レイナさんの優しい一面を見ることができて何だか少し役得な感じがした。





「でも、気を付けてくださいね。初心者冒険者にとってはゴブリンでも危険な魔物なんですから」



「ありがとうございます、気をつけます」





俺も明らかに危険を伴うことに勝算もなく無謀に突っ込むようなことはしないだろう。そこまでの勇気を持ち合わせてはいないからだ。でもいつか勝算がなくとも挑まなくてはいけないような状況が来ることがあるかもしれない。その時、俺はどうするのだろうか。





「それにしてもゴブリンが石製の武器を持っていたなんて、少し不思議...」





レイナさんが小さな声で独り言を呟いた。



言われてみれば確かに知力があんなに低いにもかかわらず、武器を装備しているのは不思議だ。人から奪ったものという線は石製ということからもないだろう。おそらくゴブリンたちが作ったものでまず間違いない。



しかし武器なんてもちろんのことだが知恵がなければ作ることはできない。俺が対峙したゴブリンには絶対にできない芸当だろう。もしかするとほかに頭の回る個体が存在する可能性があるのかもしれないな。





「僕が相手したゴブリンたちには武器を作る知能があったとは思えません。もしかしたら、知能の高い個体がどこかにいるのかもしれませんね」



「そうですね...」





レイナさんはそういうと少し考え込んでいた。何か気になる事でもあるのだろうか?





「...レイナさん、どうしました?」



「あっ、大丈夫です。特に問題はありません!」





ん~、まあいいか。俺も気になることはあるし、少し調べてみることにしますか。



無事にギルドでの納品を済ませ(もちろん採取した一部しか納品していない)、俺はすずねこ亭へと戻った。ついでにレイナさんからゴブリンの討伐証明についても聞いておいた。ゴブリンの魔晶核を納品すればいいらしい。基本的に魔晶核が討伐証明の基本となるようだ。また後日、インベントリの死体から魔晶核を取っておこう。





すずねこ亭に戻った俺はすぐに夕食を頂き、早めに寝ることにした。

楽勝だったとはいえ初めての戦闘で知らず知らずのうちに疲れがたまっている可能性がある。なので万全を期すために睡眠はしっかりと取っておきたいという訳だ。





異世界生活も二日目、今のところは順調に進んでいる。

これからも気を引きしてめて頑張っていこう。



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