第7話 採取と不慮の事故
「はぁ...はぁ......む、無理しすぎた...」
1時間半ほどかけてようやく俺はフーリットの森に到着した。走ってここまで来たが道中は定期的に休みを取っていたのだが転生したこの体が思った以上に身体能力が向上していたのでとても嬉しくなってしまい多少の無茶をしてしまった。
でも普通2〜3時間かかるところを1時間半で来れたのは上々だろう。これでじっくりと採取にかける時間ができたわけだ。では早速レイナさんからもらったガイドペーパーを頼りに採取していきますか!
俺は初仕事にワクワクしながらも危険と隣り合わせだということを胸に森の中へと入っていった。
この森はガイドによると比較的に安全ではあるがたまにゴブリンやコボルドといった魔物も生息しているようだ。魔物以外にもウサギに似たラビーという生き物やイノシシに似たブルという生き物も生息しているらしい。
目的のものを探している間の時間で全知辞書さんにふと疑問に思った『魔物とそれ以外の生き物の違い』について聞いてみることにした。
──魔物というのは普通の生物の中でも魔晶核ましょうかくと呼ばれる器官を持つもののことらしい。それらは魔力を扱うことができ、普通の生物よりも特殊な進化を遂げる。それによって戦闘能力や知能の向上、あるいは純粋に戦闘能力のみの向上など様々な進化を遂げた結果だそうだ。
では「魔法が使える人も魔晶核を持ち、分類上は魔物ということになるか」と言われればそうではないらしい。
ヒト、ここでは人族と呼ぶらしいが、人族は魔晶核を持たない代わりに全身に魔脈まみゃくと呼ばれる魔力が循環している器官があるらしい。これは大昔に魔晶核が進化の過程で変化したものだそうだ。この魔脈を持つ種族は一般的に知能が高いとされており、人族以外にも主にエルフ族やドワーフ族、魔族などが該当するらしい。もちろん例外はあるようで魔晶核を持っていても知能が高い者もいれば、魔脈を持っていても知能が低い者もいる。魔脈にも魔晶核にもそれぞれの特徴があるようで...これを深堀りしていくと時間がいくら合っても足りなくなりそうだ
全知辞書さんからなかなか面白い情報を聞かせてもらった。たぶんこれだけで一学問として体系化されてるのではないかと思う。どこかのタイミングで学んでみるのもありかもしれないな。
そんなことを考えながら採取をしていると意外とポンポンと目的の植物が見つかった。レコベリ草は主に日の当たる開けた場所に多く生えており、コンデの実は幹が赤い広葉樹になっていた。
森に入ってからわずか2時間ほどで俺はレコベリ草を60本、コンデの実を40個手に入れることができた。もしかしてこれって運がいい方なのではないだろうか?依頼は10ずつなのだから、この量は合計で依頼を10回分達成したのと同じ量を手に入れたのだ。
しかもレコベリ草もコンデの実も森の環境に影響を与えないために群生地に生えていた分の2割は取らずに残しておいた。それでもこの採取量なのだから自分でもびっくりの成果である。何だか今日は運がいいな~!
それじゃあそろそろ町へと戻ることにしようかな。日が沈む前には町に着きたいし、何があるか分からないから余裕をもって行動しておきたい。採取したものは全てインベントリに収納しているので行き同様の軽装で帰ることが出来る。インベントリがなかったらと思うと少しぞっとする。
ということで俺は森から抜けるために現在位置から西の方へと足を進めた。迷うと危険なので採取中は森の浅いところで行動していたのと方角だけは把握していたので迷わずに森からは抜けられそうだ。マップもないこの状況で迷ったら確実に遭難するからな。スキルでマッピングみたいなスキルないのかな?あれば絶対に習得しておきたいところなんだけど。
そんなことを考えていると50mほど先に森の出口が見えてきていた。遭難しなくてよかった~と安堵していた次の瞬間、目の前の木陰から何かが急に飛び出してきた。突然のことだったのでびっくりした俺は少し飛び退き、腰に装備しているナイフに手をかけていた。
その飛び出してきたものは青くて楕円形をしており内部が透けて見えていた。その生物?の中心には赤い核のようなものが存在しており、見た目は完全にいろんなゲームで登場するあのモンスターによく似ている。
全知辞書さん、このモンスターってもしかして...スライム?
《これはスライムと呼ばれている生物です。主に草を食べる草食動物で基本的に襲い掛かることはありません。しかしごく稀に攻撃を行う個体も存在しますが非常に弱いです。中心の赤い核は魔核ではなく脳や心臓などの役割を果たしている生命活動を維持するものです。》
なるほど、じゃあこの世界ではスライムは魔物ではなくただの生物という区分になるのか。基本的には攻撃してこないらしいけど、ちょっと鑑定してみるか。
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種族:スライム Lv.1
HP:10 / 10
MP:0 / 0
攻撃力:1
防御力:1
俊敏性:1
知力:1
運:3
残りステータスポイント:0
称号:
なし
スキル:
なし
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いや、マジで弱すぎだろ。運以外のステータス1じゃん。
逆に運だけ3なのがすごいと思うレベルだなこれ。これ相手にするのって何か弱い者いじめみたいな感じで嫌だな。
敵対していない相手に攻撃するのも気が引けるし、たぶん経験値もあまり得られそうになかったので俺はそのスライムの横を素通りし森から出ることにした。
そのスライムの横を通って少し歩いたところで何か足に違和感を感じた。少し歩きずらいというか妙な感覚がするなと思い足元を見てみるとそこには右足にくっついている、というより右足を飲み込もうとしているスライムの姿があった。
「な、なにしてんの?!?!?」
俺は必死に足を振り、スライムを引き離そうとした。...完全に虫がついた時と同じ反応である。
すると次の瞬間、靴がすっぽりと俺の足から抜けてスライムとともに近くの木へと飛んで行った。木の幹と衝突した瞬間、運悪くスライムの核が幹にダイレクトアタックしてしまい盛大に砕けてしまった。その勢いのまま靴から剥がれ落ちたスライムは元の楕円形を保つことなく地面に体を四散させていた。
《経験値を獲得しました。レベルが1から2に上がりました》
あ......やっちまった。
申し訳ないスライムさん、倒すつもりはなかったんです!これは紛れもなく不幸な事故なんですよ!!......ごめんなさい!!!
俺は天国へと旅立ってしまったスライムに手を合わせて冥福を祈る。ごめんよ、名もなきスライムさん。あなたの犠牲は無駄にはしないから!!!前世でスライムが主人公のアニメをいろいろと見ていたこともありスライムには多少なりとも愛着があったのでちょっと悲しくなってしまった。
でもやってしまったことはしょうがない。とりあえず尊い犠牲のおかげで思いがけずレベルが上がったので良しとしよう。レベルアップに伴ってステータスも上がったみたいなので確認してみる。
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名前:ユウト Lv.2
種族:ヒューマン
HP:310 / 310
MP:460 / 460
攻撃力:132(+2)
防御力:127(+7)
俊敏性:105
知力:100
運:150
残りステータスポイント:40
称号:
女神の寵愛を受けし者 世界を渡りし者 研鑽を極めし者
スキル:
剣術Lv.5 体術Lv.5 料理Lv.4 気配遮断Lv.8 ストレス耐性Lv.7 精神攻撃耐性Lv.6 鑑定Lv.10 ステータス偽装 超理解 幸運 多言語理解 インベントリ 健康体 全知辞書
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めちゃステータス上がってる!!ほとんどのステータスが約2倍になっているのだが...称号によるステータス上昇値補正が思った以上にチート級だな。もはや俺がお願いしたスキルよりも称号の方がチートなのでは?
けれど知力と運はレベルアップしても数値が上がることはないのか。もう最初から最後までこの数値で固定値なのかそれとも何か他に方法があるのか...
そんな時は全知辞書さんに聞いてみる。地味だけどこのスキルもチートスキルだろう。縁の下の力持ち的な感じかな。今日一日だけでもかなりお世話になっている。ちなみに全知辞書さん曰く、知力と運はステータスポイントを振り分けるか装備やスキル、称号でのみ上昇するらしい。
全知辞書さんに言われて気づいたがステータスポイントというのも溜まっているようだ。すぐにでも割り振りたいという欲が湧きあがってくるが、今は我慢してあとでじっくりステータスの方針を考えてから割り振ることにしよう。ステータス方針は今後の人生にかなり影響が出るだろうから慎重に考えないといけない。
少し想定外のことが起こったが今はとりあえず町へ帰ろう。日が暮れる前に帰らないと町に入れなくなるらしいのと早めに帰って宿も探さないといけない。今思えば先に宿を探しておけばよかったかもしれないがお金に余裕がなかったので払えなかった可能性を考えると仕方がない。
レベルを上げることは目標の一つでもあるので嬉しい誤算だった。初めての依頼もかなり好感触だったし、レベルも上げれたし異世界生活はかなり順調なスタートが出来たなと少しウキウキしながら帰路へ着くのだった。