第3話 足止めの警備兵
「すげぇ...でっかい壁だな」
目の前には町を囲うようにそびえ立つ大きな壁。おそらく町を守るための市壁と呼ばれるものだろう。高さはおよそ10mほどだろうか、それにその周りには水路が掘られている。これは難攻不落の要塞って感じだな。もしかしてこの辺りって危険なのかな?
初めてみる異世界の町の様子に圧倒されながらも町へ入るために門へと向かう。水路を渡るために懸けられた橋を渡りきると目の前に大きな門とその両サイドで警備をしている兵士が見えた。するともうちょっとで町に入れそうなところでその警備兵、すごく強面なTHE・戦士と言わんばかりの男と目が合った。
「$&'`@-#?\;+`\|」
ん、なんだ?明らかに俺に話しかけているのは分かるが全く聞き取れなかった。何か意味不明な呪文のようなものを唱えていたけど...気のせいか?いや、そんなはずないよな。
《スキル『多言語理解』によって、アルクス語を習得しました》
び、びっくりした~!急に頭の中に声が鳴り響いた。これってあれかな全知辞書さんが教えてくれたのか?でもどちらかというとゲームのアナウンスに近いし、それに全知辞書さんは俺の質問に回答をするスキルだからこれはまた違うよな。ん~謎が新たに出てきたな。
《先ほどの音声はスキル『全知辞書』の音声ではなく世界を構成しているシステムの音声です》
有能スキルさんじゃん、全知辞書さん。僕の疑問を即座に解消してくれた。前世でも君がいてくれたらよかったのにな~。...てかシステム?なんか急にゲームっぽくなったな。もしかしてこの世界って都市伝説とかでもよくある電脳世界のシミュレーションの中、なんてことじゃないよね。ん~、気になる...
「おい、そこのお前!」
「は、はいっ!な、なんでしょう...?」
考え事をしているときに急に威圧感のある大きな声で呼びかけられたもんだからびっくりして変な声が出てしまった。いや、これに関しては俺がさっきから無視してる形だったな...それにアルクス語を習得したおかげで何を言っているかがようやく理解できた。何だか不思議な感覚だな、これ。
「お前さん、見ねぇ顔だがこの町は初めてか?」
「えっ、はい。初めてです」
「そうか、とりあえずこっちに来てくれるか?」
「わ、分かりました」
突然呼び止められたかと思ったら今度は市壁の中にある一室へと連れていかれた。まさか何か変なことしちゃったのかな...異世界での新しい人生に期待を膨らませていたのにいきなり詰みですか。そうですか、そうですか、俺は結局幸せな人生なんて送れないんだな...
「すまねぇがこれに手をかざしてくれるか?」
「はい、これでいいですか」
先ほどの兵士の人が円状の土台の上に水晶が浮かんでいる器具を運んできた。これに手をかざしてほしいという。断れる雰囲気ではないのは明らかなのでいろんなことを考えて不安な気持ちでいっぱいだがとりあえず言われたとおりにしてみる。
水晶に手をかざした瞬間、その水晶が白い光を放つ。もしかしてこれって何かを判別する器具?いや、この世界には魔法も存在するのでおそらく魔道具と呼ばれるものなのかな。これで何が分かるんだろう...?めちゃくちゃ怖いんですけど!!!
「...白か。問題なしだな。悪いな兄ちゃん、呼び止めちまって」
「え、大丈夫ですけど...これって何をしていたんですか?」
「ああ、これは犯罪歴を調べるための魔道具でな。盗賊とかの犯罪者を町に入れるわけにはいかないからよ。あんたは白だったから問題なしってことだ!」
「なるほど...です。突然連れていかれたので何かやらかしてしまったと思ってビクビクしてました。」
「ハハハッ!それはすまねぇ!!」
なるほどね、俺が犯罪者かどうかを調べるために連れてこられたわけね。いや~、マジでびっくりした。いきなり牢屋にでも入れられるんじゃないかってヒヤヒヤしたわ。何はともあれこれでようやく町に入れるかな。
「では、失礼しますね。」
「おう!すまなかったな兄ちゃん。俺はこの町の警備兵団に所属してるガイルってんだ。何かあったらいつでも頼ってきな!」
この強面のおじさん、もとい警備兵のガイルさんは見かけによらずすごくフレンドリーで熱血系の人か。あまりこういうタイプの人は得意ではないが嫌いではない。むしろいざという時には一番頼りになる素晴らしい人だろう。初めて出会った人が良い人そうでよかった。ちょっと暑苦しいけど...
「ありがとうございます。僕はくr...」
いや、ちょっと待てよ。そういえばこの世界って文明レベルが中世くらいって話だったよな。てことは家名があるとどこかの貴族かなにかと勘違いされる可能性があるかも。ガイルさんも名前しか名乗ってないし貴族以外には家名はないのかもしれない。ここはこっそりと鑑定させてもらいますか。
俺は心の中で鑑定と唱えて目の前にいるガイルさんのステータスを見せてもらうことにした。プライバシーに関しては申し訳ありません!絶対に他言しませんから!!
=========================
名前:ガイル Lv.31
種族:ヒューマン
HP:2065 / 2065
MP:100 / 100
攻撃力:435
防御力:655
俊敏性:195
知力:80
運:50
称号:
統率をとる者
スキル:
剣術Lv.5 槍術Lv.7 物理攻撃耐性Lv.5 魔法攻撃耐性Lv.3
体術Lv.5
=========================
ふむ、やはりこの世界では普通は家名がないようだ。もしかしたらガイルさんが特別なのかもしれないので他の兵士さんも後で見ておくか。それにしてもガイルさんのステータス超高くない?!レベル43ってもしかして警備兵団のトップなのかな、称号に『統率をとる者』ってあるし。そして完全に戦士タイプ、しかも防御に特化してるな。全くこの世界の一般値を知りたいのに絶対にこれ強い部類の人間だろ...
「...ん?兄ちゃん、どうかしたか?」
あっ、ステータスとか名前のこととか気になりすぎてぼーっとしてしまった。これ、鑑定したことも気づかれちゃったかな...
「あ、ごめんなさい!僕の名前はユウトと言います。よろしくお願いします」
「ユウトか!もちろんいつでも頼ってくれていいぞ!!」
たぶんバレてなかった...これからは気をつけよう。
「そういや、ユウトは何しにこの町へ来たんだ?」
実は僕、転生者でして...って言えるはずもなく必要最低限の情報だけで何とかしよう。たぶんこの先も身の上話は聞かれること多そうだから今からちゃんと答えられるようにしておかないと。
「実は諸事情があって旅をしておりまして、もうそろそろお金が尽きてしまいそうなのでこの町で冒険者登録をしようかと...」
「旅...って手ぶらでか?」
あっ、そうだよな。旅してるのに何も持ってなさそうなのはおかしいよな。それにたぶんインベントリのことはあまり言わない方が良いと思うし。せっかくついさっき疑念が晴れたばかりなのにガイルさんがまた疑いの目で見てる...やばい何とか誤魔化さないと。
「えーと...お恥ずかしい話なのですが、道中でモンスターに襲われそうになった時に荷物を囮にして逃げてきたんですよ。」
「なるほどな、それは災難だったな。しかしそれは何も恥ずかしいことじゃねぇぞ!命を守るためにした立派な行動だ。それが出来るってことは冒険者に向いてるってことだからな、頑張れよ!!ただ無理だけするんじゃねーぞ。」
「ありがとうございます!気をつけます!」
せっかく身を案じてくれたのに何だか騙したみたいで罪悪感が胸を締め付けてくる...せめてガイルさんのアドバイスは心に刻もう。
そして俺は軽く談笑したのちに固い握手(というより痛い握手)を交わし、その後は門まで見送りに来てくれたガイルさんに別れを告げて俺はようやく町の中に入ることが出来た。ちょっと予想外のことが起きてしまったがいい出会いもあったので良しとしよう。
門を抜けるとそこはアニメや漫画で見ていた通りの中世ヨーロッパ風の世界が広がっていた。レンガ造りの建物や道路、そして行きかう馬車に多くの人々。ここは門前の大きな一本道なのでこの町のメインストリートというべきところだろう。すごく活気があふれている。前世の都会ほどの人の量ではないにしろ、多くの人でにぎわっていた。
......つまり俺の苦手な場所でもある。とにかくここからはすぐに離れよう。
人通りの多いところを抜けるとようやく人がまばらになりゆったりとした雰囲気が周囲を包んでいた。この程度であればもう安心だ。とりあえずまずは冒険者ギルドへと向かおう。場所は先ほどガイルさんに聞いておいたので迷わず着きそうだ。
ちなみに道中で町の人とか兵士さんにこっそり鑑定を使ってみたが、みんな家名はなかった。おそらく貴族や王族しか家名はないのだろう。変な誤解が生まれないようにあとでステータス偽装を使って名前を「ユウト」に変えておくか。
あと僕のステータスだがそこまでおかしなところはなさそうだ。つまりは序盤から僕はチート無双できるわけではないということだ。まあレベル相応ってことで目をつけられないっていうのは良いことだろう。ただスキルや称号に関しては明らかにバレるとヤバそうなのでこちらもステータス偽装で調整しておこう。まあ数値も多少の調整はするけれど大幅な調整はレベルが上がってからでいいと思う。
=========================
名前:ユウト Lv.1
種族:ヒューマン
HP:50 / 50
MP:100 / 100
攻撃力:50
防御力:50
俊敏性:80
知力:100
運:80
残りステータスポイント:0
称号:
研鑽を極めし者
スキル:
剣術Lv.2 体術Lv.2 気配遮断Lv.5 ストレス耐性Lv.7 精神攻撃耐性Lv.6 鑑定Lv.2
=========================
とりあえず今のところはこんな感じで調整しておいた。耐性系はレベル高くてもたぶん問題ないと思うのでそのままにしてある。たぶんこれで今のところは問題ないと思いたい。
そんなことを考えているうちにこの町の冒険者ギルドに到着した。...そういえば冒険者登録するときに変な輩に絡まれるのがお約束なお話が多い気がするんだけど、まさかね。そうなってしまったら絶対に良い意味でも悪い意味でも目をつけられるに決まってるし、何事もなく登録できますように...!