バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

「俺、朝ごはんなんて作ってもらったことない !」

 
挿絵

 新妻お披露目会の主役とは、いったい誰だろうか? 一人だけ頭に浮かべていただきたい。夫にはこんな簡単なクイズがわからないらしく、なぜか新妻の私をライバルだと思い込み、私を蹴落として自分が主役になろうとしたのである。
 用意されていた新妻お披露目会はかしこまった席ではなかったので、舅が簡単に「(まなぶ)と結婚した嫁の芙蓉(ふよう)です」と息子の新妻である私を紹介し、私が「学さんと結婚した芙蓉と申します。皆さん、よろしくお願い申し上げます」と簡単な挨拶をした。
 親戚の皆さんから「よろしくお願いします」とか「学クン、おめでとう」とか「芙蓉さんはおいくつ?」とか「どこで知り合ったの」とか声がかかり、一通りのやり取りが済むと、後は和やかな食事会となっていた。
 普段、誰からも注目されることのない夫は、久しぶりに会う親戚の皆さんから注目を浴びてすっかり有頂天。浮かれに浮かれて調子に乗った夫は、もっともっと注目を浴びようと虎視眈々とチャンスを狙っている。
 そして、ひょうきんキャラの伯父さんが愉快な笑い話をしてくれたとき、夫は「朝ごはん」という単語に食いついてしまった。夫はおかしな表情を作って、「朝ごはん !?」と素っ頓狂な声を上げたのだ。朝ごはんは話の主題ではないのに。
 そうやって伯父さんの話の接ぎ穂をさらって一同の注目を自分に集めると、会話の流れをまるで無視した頓珍漢発言をぶちかました。
『今すごく面白いコト言ってます。ここ、笑うトコですよ!』みたいなおかしな口調で、

「俺、朝ごはんなんて作ってもらったことない!」。

『昔から頓珍漢な事を言っては場をシラケさせていた甥っ子だけど、今日は彼の新妻お披露目会。相変わらずの頓珍漢だけど笑ってあげよう』というサービス精神だったのかもしれない。
 単に呑んで酔っ払っていたから正常な判断力がなくなって、さも面白い事を言っているかのような夫の猿芝居に騙されたのかもしれない。とにかく親戚一同、爆笑。
 夫、ウケたのが嬉しくてたまらなくて大興奮。そのため顔を真っ赤に上気させ、私がいかにダメ嫁で鬼嫁でだらしないかを機関銃のようにしゃべりまくった。事前に完璧な台本を作って、抜かりなく練習していたかのように淀みなくベラベラと。

しおり