第122話 2振りの剣
それからは集中を切らすことなくスタンピードの魔獣を討伐していった。さすがに真竜こそ混ざらなかったけれど、亜竜をはじめとする上位魔獣のさらに上位の魔獣を大量に討伐した。そしてそれは現れた。
僕のオリハルコンの両手剣が弾かれた。ミーアの魔法が受けきられた。そこに現れたのはファイアーデビル。火属性の中位王種。魔獣の形をした悪夢。しかも今はスタンピードの真っ最中。僕たちがかかりきりになるわけにはいかない。勇者パーティーが支え切れるだろうか。それでも一瞬の逡巡の後僕は風魔法に声をのせて叫んだ。
「勇者様。王種です」
勇者パーティーが来るまでの僅かな時間僕とミーアはダメージを与えることが出来ない事は分かっていながらファイアーデビルに攻撃を続けた。僕が範囲を絞り込んだ魔法を放つ、ミーアが両手に持つオリハルコンの剣をファイアーデビルの首に叩きこむ、続けて僕がオリハルコンの両手剣を頭に叩きつける。どれもファイアーデビルから敵意を向けさせる以上の効果は無い。それでもここに固定することに意味がある。そう考えて攻撃を続ける。合間には横を抜けていこうとする魔獣に魔法を放つ。余計な魔獣を人の領域に通さない。そして何度も何度も両手剣をファイアーデビルに打ち込む。当然ファイアーデビルも僕たちにむかって攻撃をしてくる。10メルドはあるかと思われる人型の巨体から腕が打ち下ろされる。祝福で強化された身体ではあるけれど、これを受け止められる自信は無い。横っ飛びに躱す。わずか50セルチ横に拳型の深いへこみが出来た。これは力が分散していない証拠で恐ろしい。背中を見えない虫が這いまわるような恐怖。汗が冷たい。反対側ではミーアが魔法を打ち込むのと同時に剣を振るう。ん、ミーアが何か微妙な表情をしている。そこの僅かなスキにファイアーデビルの敵意がミーアに向いた。それに合わせて僕は両手剣を振り切る。”ゴリ”何か以前王種と対峙した時と手ごたえが違う。それでも当然のことだけれど見る限りファイアーデビルには当然傷などついていない。違和感に一瞬集中力がそがれ、そのスキを狙ったかのようにファイアーデビルの前に魔法陣が展開される。展開も発動も以前見たキュプロクスアンデッドの魔法より早い。かろうじて両手剣を差し出し盾にウィンドドラゴンの魔法に耐えた自分の魔法耐性を信じてこの身に魔法を受ける。
魔法が僕に着弾する寸前、目の前に差し出された2振りの剣。それが僕に着弾する魔法の威力を抑えてくれた。
そんなことを出来るのは……
「ミーア」
魔法の直撃を受け、余波が収まらないうちに僕はミーアを探す。いた、表面が溶けガラス化した地面に横たわる小さな影。