Memory1.レイリア・ウィッチ
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「レイリア、いつまで寝てる」
目を開けると、うちの住み込み使用人、ディディー・テアが僕の顔面にランプを向けていた。
なんだ、さっきのは夢か。
息苦しい夢だった。
「やめろ、眩しい」
僕は右手を目にかざし、左手で毛布を掴み寝返りをうとうとした。
すかさずディディーが毛布をひったくる。
ディディーの無神経な行動と朝の肌寒さにイライラした。
僕は人に起こされるのが嫌いだ。
そう言っても起こされない限りずっと寝ていることもあるが、僕のペースを狂わせるやつは嫌いなのだ。
僕はしばしばする目でディディーを睨みつけた。
「起こすな。僕は疲れている」
「朝食ができている、いらないなら自分で捨てろ」
くそ。
なんのための使用人だ。
仕方なく起き上がる。
寒さに少し震えながら、寝間着のまま食事の間へ向かった。
途中、ディディーが上着を僕の肩にかけたが、僕は何も言わずにはらいのけた。
ディディーが何を考えてそうしたのか知らないし、どうでも良かった。
そう、どうでも······。
「おはようレイリア。いい朝だねぇ」
食事の間につくと、もう一人の使用人であるフレディ・ルフォードがテーブル席について新聞紙を読んでいた。
僕を差し置いて先に座るなんて。
ふん、まあ、許してやる。
黒いテーブルクロスがかけられた、縦長いテーブルの両端の席に、サンドウィッチと青くつやめく果物がおいてある。
僕は朝食を無視してフレディの前の席に座り、新聞紙を指さした。
「かして?」
「ふふ、どうぞ」
「金書についてなにか書いてあった?」
「見てみればわかるよ」
「それもそうだね」
僕は金書を手に入れるために、色々な書物を読みあさった。
ムロア界の歴史や、ゼクロードについて調べあげ、金書の手がかりを探したのだ。
でもわかったのは、ゼクロードがムロア界最強の魔術師で、悪さしていた悪魔達をめった打ちにし本に閉じ込めたということくらいだ。
そんなこと、皆知ってる。
僕は金書のありかを知りたいんだ。
「ゼクロードという人物は謎が多すぎるんだよねぇ。まあ、そこも魅力なんだろうけどさ」
フレディは千年以上生きる吸血鬼だ。
そのフレディでさえ金書のことは何も知らないという。
いや、わからない。
「君も金書が欲しくて僕に情報をあげたくないのかもしれないね」
僕は目も合わせず無関心に言った。
もしそうだったとしても、僕は負けない。
でもフレディは、
「まさかぁ。もしそうだったら、僕はもっと君に協力的だよ。仲間にしてくださいっていうね。悪魔なんてそんな物騒なものには関わりたくないからこそ、君にも協力なんてしないのさ」
「物騒?人間の僕からすれば、君も十分物騒なんだけど」
「僕は、君にはかなわないよ」
「は?何いってんの。僕よりも君のほうが強いに決まってるだろう。面白いね、君は」
どうでもいい方向に話が進んでいることが不愉快に感じてきて、それを悟られないよう無造作に紙面を閉じ表紙を見ると、ある記事に目がとまり、僕はガタンと腰を浮かせた。
〘ナディア街で金書から悪魔逃げ出す!?〙
金書から?
本当なのか······?
読み進めると、まだ断定はしていないらしいがその悪魔は自分でそう言いながら人をさらったため大騒ぎになっているという。
「びっくりだよねぇ。ナディア街って隣町じゃない。怖いねぇ~」
「······隣町まで行ってくる。なにかわかるかもしれない」
僕は玄関に走ろうとしたけど、自分がまだ寝間着なことに気がついて、部屋に戻ろうとした······けど、いつの間にかディディーが僕の外着用の服を持って立っていた。
「ナイス、ディディー」
僕は寝間着を脱いで、首元にフリルがついたベージュ色のシャツと、黒いジャケットを着た。
さらにワインレッドの膝丈のズボンを履きながら朝食の青い林檎のようなフルーツを2、3個バッグに入れた。
「案外、ズボラなんだよね~。こういうところはまだ、13歳だね」
「リュカにあげるんだ」
僕は靴下を履きながら言った。
リュカとは、隣町に住んでいる僕の友達だ。
群れるのに丁度いい、友人。
リュカは一人暮らしで貧しいから、僕がたまに食べ物や服をプレゼントするんだ。
僕の友達をやってくれているのだから、これくらい当然のこと。
リュカもすごく喜んでくれるし、お互い万々歳だよね。
「じゃあ行ってくるけど、家のこと頼んだよ」
「俺も行く」
ディディーはついてこようとした。
ちっ。
なんだよさっきは気が利いたのに。
「リュカは大人が嫌いなんだよ。ついてこないで」
「大人としては子供が一人で危険な隣町に行くっていうのが心配なんだけどねぇ」
フレディはまた新聞を読み始めながら言った。
心配?
なんのための心配だ?
僕はヘマなんかしないのに。
「余計なことはするな。今日はリュカを家に泊めるから、豪華な料理を用意しておけ」
「は~い」
二人の返事を聞いてから食事の間の扉を閉めると、扉の向こうから大きなため息が聞こえた。
二人が仕えたいのは僕ではなく、僕の両親ということ。
そんなことは、とっくの昔にわかっているよ。