暗く輝く、ここはムロア界
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目線を上げると、深い赤紫の空が広がっている。
まだ昼間だというのにあたりは暗く、星が瞬く。
月は、見当たらない。
月や太陽というものはここ、ムロア界には存在しないのだ。
あたりは星の輝きと、至るところに立ち並ぶ街灯がほんのり明るく光をともしていた。
ここには色々な種族の生き物がいる。
フサフサな大きな耳の人狼、赤い目の吸血鬼、土からはいでてきたゾンビ······。
襲ってくることもある。
植物は意思をもち、肉食なものがほとんど。
太陽がなく、この世界の住人は心なく残酷。
基本むやみに人を殺したりはしないが、他人に対して冷淡で、無関心だ。
それなのによく何人かで楽しそうに談笑していたりする。
その会話の中には少しも思いやりはないのに。
僕の思い違いなのか?
どちらでも良い。
だって、僕も同じだから。
無邪気で残酷で無関心で、自分のことだけ考えていればいい。
僕自身、他人なんかどうだっていい。
自分のことだけを考え、自分のためになることだけをし、他人に振り回されない。
······そうしないと、ここでは生きていけなかった。
母さんと父さんが生きていた頃は、違った。
あの二人は他の奴らと違ったんだ。
優しくて、ずっと、僕を守ってくれていた。
二人が優しかったのはきっと、人間だったからだろう。
この世界ではとても珍しい種族だ。
奴らに比べると思いやりがあり、調和を好むらしい。
僕はそんな二人の息子だけど、駄目だったみたいだ。
二人が殺されてから、僕の心には星の光も街灯の光も届かない。
この不思議世界のどこかに、金書という悪魔達が閉じ込められていて、支配できる本があるらしい。
それがあれば、僕は奴らに復讐ができる。
それだけじゃない、世界を支配することだって······!
必ず手に入れる。
僕は容姿も美しいし知識もある。両親が残してくれた金だって。
僕こそが一番、僕こそが正しい。
僕が力を持たない人間だと馬鹿にしてきた奴ら全員支配してやる。
······冷酷な自分を自覚することは、あまり気分が良くない。
両親はいつだって優しく、僕にもそうなってほしいと願っていたのだろう。
優しさなんてこの世界じゃゴミみたいなものだけどね。
ぼーっとそんなことを考えていた。
というか何だここは、僕は何をしている?
「おい、起きろ」
は?
聞き慣れた声が聞こえ、その瞬間目の前が真っ白になった。