第8話
11月末、瑠宇が退院した。松葉杖を1本突いているけど自分の足で立って歩いている。瑠宇の回復のひとつひとつに涙がでる。最近、私は泣き虫だ。そんな私を見るたびに友人は
「だからさっさと告ってきなさいよ」
などとのたまう。それが出来ればこんな簡単な事はない。だから私は手元の参考書に目を落とし受験勉強に集中しているフリをする。それでも放課後にはやはり幼馴染のもとに走る。
「瑠宇帰ろう」
「祥子ねぇ、いつもありがとう」
一度帰宅してから近くの体育館で補助具を使って瑠宇のリハビリとトレーニングをサポートをするのが最近の日課だ。瑠宇は精力的にメニューをこなし、あっという間に松葉杖無しで歩くようになった。でも私は知っている、時に瑠宇の顔が痛みにゆがんでいる事を、瑠宇がそれを知られる事を嫌がることも。だから私は気付かないフリをして淡々とサポートをする。
その日体育館でのトレーニング終わりに瑠宇が
「祥子ねぇ今日ちょっと寄り道して帰らない」
と声を掛けてきた。自分の足だけで歩けるようになって嬉しいのだろう。だから
「うん、いいよ。久し振りに散歩しよう」
12月の道をふたりでゆっくり歩く。手をつないだら瑠宇はびっくりするかな?そんなことを考えていたら、瑠宇に手を握られた
「え」
「ここ、覚えてる」
聞かれて見るとそこは小さな公園でブランコや滑り台、土の山があるだけの幼い頃一緒に遊んだ思い出の公園。瑠宇に手を引かれて公園に足を向けベンチに並んで腰をおろした。
「懐かしい。ここでいっぱい遊んだね」
「遅くまで遊びすぎてお母さん達にしょっちゅう怒られてたっけね」
ふたりでクスクスと笑っていると、いつの間にか私の手に可愛らしいネコのデザインのラッピングをした小ぶりな箱が置かれていた。
「これは?」
「祥子ねぇ今日誕生日でしょ。誕生日といつもありがとうの気持ちを込めてプレゼント」
自分でも忘れていた誕生日にプレゼント。
「ありがとう、開けて良い」
「うん、気に言ってもらえるといいけど」
「これは、ネックピローと……ネックレス」
ネコ模様の小ぶりなネックピローとシルバーのチェインに淡いブルーグリーンの小さな石があしらわれたネックレス。
「どうかな」
「うん嬉しい。ね、こういうのってプレゼントするときにはどうするか知ってる」
「え」
戸惑う瑠宇が可愛い。
「女の子にネックレスをプレゼントする時にはね、自分の手で付けてくれるものよ」
「そ、そうなの」
戸惑いながらも肩に手を回してネックレスを付けてくれる瑠宇。つけおわって離れようとした瑠宇にそっと唇を合わせた。
「……」
言葉も無く固まる瑠宇の背中に腕を回して抱きつく
「瑠宇、スキ。ずっと前から幼馴染じゃなく、男の子として好きよ」