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異種交配

「………………さて、どうしましょうか」
 絶海の孤島に建つ巨大建造物。その最上階で、荘厳さを感じさせる大きな椅子にちょこんと腰掛けたれいは、誰も居ない室内で思案げにそう呟いた。
「………………現状では異種交配は全てにおいて許可していませんが、交流がかなり拡大した影響で様々な種族が交わることが増えましたからね。中には双方合意の上で人と魔物という組み合わせも在りますし。ですが、組み合わせが多すぎて、あまり無闇に許可するわけにもいきませんか」
 どうしたものかとれいは思案する。
 現在のハードゥスでは、種族が異なる者同士では子が出来ないようになっている。れいが許可すれば、そう世界が変わって異種族間にも子供が産まれるようになるのだが、そうなると新しい種族とも言えるハーフが産まれるようになる。それだけではなく、能力的にも新しい存在となる可能性があった。
「………………諍いの種にもなりかねませんし、継承の辺りも制限を考えないといけません。なんでしたら、産まれる種族を父方か母方で固定して、ハーフが産まれないようにするという方法もありますが……それだと少し世界の調整が必要になってきますね。それに、ハーフが子を成した時はどうするか、というのも問題になってきますし。それならいっそ、異種族間では発情しないようにした方が楽ですね……ふむ。困りました。出来るだけ法則を弄りたくないので、現状のままというのでもいいのですが」
 どうしたものかと、しばらくそうして考えたれいは、幾つも浮かぶ案を次々と検証しては悩む。そうして出した結論は、
「………………変に法則を変えてしまうよりも、現状維持でいいですね。それでも検証は必要なので、一つの大陸のみで幾つかの方法を適用してみましょうか」
 そういうことになった。一気に世界全てを変更するよりも、一部地域のみの方が管理が楽というのもあるが、問題点の修正もそちらの方が迅速に行えるというのもあった。これが上手くいけば、ハードゥス全域に適用してもいいかもしれない。
「………………後はこの変更についての告知方法ですが、これについては管理補佐達を使えばいいでしょう。元々教会の方で子を願う者が多かったのですし……いえ、それよりも願った者を対象にして変更すれば? その方が産まれてくる子の為にもなる可能性があるかもしれませんし」
 れいは再度考え込む。変更に伴い他の世界の情報も参考にするが、幾つか現地でのサンプルも欲しかった。それには、れいが異種交配について考えるきっかけとなった、それを願った者達をサンプルにすればいいだろう。そう考えれば、まずはそこから小規模に実施していくというのも方法だった。
「………………世界の調整も楽ではないですからね。失敗も許されませんし」
 シミュレーションでは問題なく適用出来そうではあるが、実数ではそれとは結果が異なるということは珍しくはない。でなければ、机上の空論などという言葉は生まれないだろう。
 途中での変更というのもあるので、まずは小規模で確認をした方が安全だろう。妙な部分と干渉しあうという可能性だってあるのだから。
「………………そうですね。ますは大陸規模でと考えましたが、もっと小規模で最初に確認した方がいいでしょう。ではどの願いを選ぶかですが、これは小規模ですし、周辺の環境も考慮してみるとしますか」
 そうして選定していった結果、れいを主神と崇める宗教の信者が多めになってしまったのは偶然でしかない。もしかしたら、れいは教えなどほとんどしていないのだが、何故だかそれが寛容性の表れみたいに解釈された影響なのかもしれない。
 ついでに言えば、れい宛ての願いだけに、れいがそれを拾いやすかった、というのもあるのだろう。

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