(3)
二人は違う高校の制服を着ていたが、同級生という雰囲気だった。想像するに、中学まで一緒だったが進学先が違った友人同士、といったところだろうか。
客層として女子高生はあまり古民家カフェには合わないような気がしたが、そこそこ需要があるようだ。レトロな内装が受けているのか、あるいは単なる通り路なのか。近所にカフェと呼べる店があまりないのも影響しているだろう。
「カフェラテと、ミルクティー。二つともホットで。あ……あと、今日のケーキって、なんですか?」
セミロングの少女が珠雨にオーダーを入れる。他意はないのだろうが、じっと見つめられると吸い込まれそうになる瞳だと思った。
高校の夏服は梅雨には少し寒そうだったが、可愛らしい制服で人気がある近所の高校のものだ。よく見かけるタータンチェックのスカートは、実際にはそんなに短い丈に作られていないだろうに、太ももが露わになるくらい短い。
「ザッハトルテかレアチーズケーキになります」
「えっと、じゃああたしはザッハトルテ……沙也夏《さやか》ちゃんは?」
「いや私は……。環奈《かんな》だけ食べればいいよ」
沙也夏と呼ばれたのはショートカットの少女で、ケーキにはあまり興味がないようだった。
沙也夏の着ている濃紺の制服は、あまりこの辺では見かけない。こちらもスカートが短いが、どうしてこうも短くしたがるのだろうか。しかしじろじろ見るわけにもいかず、珠雨は視線を意識的に外す。
環奈はつまらなそうに唇を尖らせたが、「じゃあ、あたしもいらない」と言い出した。
「食いたいんだろ。食えば」
「沙也夏ちゃんがいらないなら、あたしもいらない」
「そういうの……自主性がなくて嫌いなんだけど」
なんだかつまらないことで口論となっている。自主性がないなどと言われた環奈は少なからず傷ついたような表情をした。珠雨は少し困り、ちらりと禅一に視線を送る。
さっきまで開かれていた本は閉じており、テーブルの隅に置かれている。禅一が座っていた椅子は既に空席で、カフェラテとミルクティーの用意に入っていたが、珠雨の視線と妙な口論に気づき、こちらに歩いてきた。
「お嬢さん方、喧嘩はおよしなさい」
「喧嘩じゃねえし」
口が悪い沙也夏に、禅一はちょっと眉をハの字にして笑顔を見せる。
「もしケーキがお嫌いなら無理強いはしませんが、ザッハトルテもレアチーズケーキもどちらも美味しいから、一つずつ頼んで半分こにするって手もありますよ。ケーキセットにすると単品で頼むよりお得ですし、どうでしょう」
言われて、沙也夏が少し止まる。考えるように禅一を一度見てから、環奈に視線を移す。
「環奈、半分こしたいの?」
「したい!」
「……しゃあないなー。じゃあ私は……レアチーズの方。こいつのザッハトルテもお願い」
「はい、ご注文承りました。少々お待ちを」
まるでどこかの執事のようなお辞儀をして、禅一が奥に消えていった。
結構商売上手だ。