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第93話 また強くなったのかな

 アースドラゴンが先に置いてある上位魔獣のそばまで来た。来たけれどすぐには食いつかない。首を立て周囲を警戒しているようだ。強靭そうな後ろ脚と尻尾を軽く曲げ、すぐにでも突進できるようにしているのが分かる。まだ僕もミーアも気配を消している。この感じだと攻撃を仕掛けない限り見つかることは無さそう。

 さらにしばらくアースドラゴンは警戒していたけれど。どうやら食事にするようだ。一口食べて、バッと顔を上げた。見つかったかと一瞬ひやりとしたけれど、そうでは無かったようだ。食事を始めた瞬間を狙う魔獣を警戒したのだろう。それからもしばらく少し食べては周囲を警戒することを繰り返していたため、中々攻撃のタイミングがつかめない。それでも数十回程度の警戒行動の後アースドラゴンは本格的に食事を始めた。それでもと一応少し様子を見たうえで僕はミーアとアイコンタクトをしハンドサインで攻撃の意思を伝えた。

 アースドラゴンが本格的に食事を始めてから僕もミーアも少し場所を移動して射線の通る位置にいる。そこから弓でアースドラゴンを狙う。狙いはアースドラゴンの目。目さえつぶしてしまえば最悪逃げるのも難しくはない。僕とミーアは呼吸を合わせてそれぞれの持つ弓から矢を放った。僕たちの手もとを離れた矢は小さく金色の燐光を放ちながら狙いたがわずアースドラゴンの目に突き刺さった。これがミーアが準備した「ないしょ」の装備だった。上位魔獣との戦いばかりになり僕たちの本来の武器の弓が使える場面が限定されすぎてきたから、どうにかならないかと考えた結果だと言っていた。弓自体は、既にドラゴン系であったり巨人系であったりの素材を使っている強力な弓のため強化自体難しい。そこで矢をいじって威力を上げようという発想だったらしい。そこで矢じりをオリハルコン製にするということになったそうだ。強力な弓を使っても鉄の矢じりでは貫けない上位魔獣の体もオリハルコンの矢じりなら通用するだろうと思ったそうだ。そして今その成果としてアースドラゴンの両目を潰すことに成功した。
「ギュォォォ……」
アースドラゴンの痛みと怒りの声が響く。

 僕とミーアはアースドラゴンのもとに走る。大きく動く頭は危険だ。かといって尻尾も速く重い攻撃をしてくる。それでも、目が見えないため、その攻撃は狙ってのモノではなくなっている。僕は、まずは左後ろ脚を狙う。足音をひそめ、出来る限り気配を消してオリハルコンの両手持ちの大剣を振るう。反対側ではミーアが両手に持つオリハルコン製の片手剣を交互に振るっている。アースドラゴンが闇雲に身体をよじり尻尾が暴れる。僕もミーアも一度アースドラゴンから距離をとる。僕はアースドラゴンの尻尾の動きを観察し、タイミングをはかる。こちら側に振り切り戻すその瞬間に飛び込みオリハルコンの大剣を打ち込んだ。1撃放ってすぐに尻尾の有効距離から離れる。向こう側ではやはりミーアも同じことをしている。それにしても、やはり最下位とは竜種だけあってタフだ。通常の上位魔獣程度であればこれだけ僕たちの攻撃を受けていれば10体は倒れている。そもそも、アースドラゴンの足でさえ両手持ちの大剣の一太刀で断ち切れなかった。そしてアースドラゴンは身体の向きをグルグルと変え尻尾を振り回して攻撃してくることで足を集中攻撃させてくれない。

 そんな攻防を続ける事しばし、”ズバン”、何度切りつけた事か、ようやく僕はアースドラゴンの左後ろ脚を切り飛ばすことに成功した。そうすると当然アースドラゴンの動きが悪くなり拮抗していた攻防の天秤が僕たちに傾く。ミーアがアースドラゴンの右後ろ脚を切り飛ばす。アースドラゴンの動きが更に鈍ったところで僕たちは尻尾を狙う。アースドラゴンも必死に向きを変え僕たちに向き合おうとしているけれど、両後ろ脚を失った状態では既に僕たちの動きについてくることが出来ない。ここまでくれば僕たちの勝利は揺るがない。それでも油断することなく攻撃を加える。既に一方的な展開となったこの戦いはアースドラゴンのその首を断ち切ることで結末を迎えた。そして首を切り落とした時、僕は手にしていた両手剣に何か違和感を感じた。切り落とす瞬間、剣から何かが伝わってきて急に僕の中の力が強くなったような不思議な感覚があった。

 それともうひとつ。王種とはまた別の魔獣の頂点”竜種”その中では下位に位置するとはいえ、二人でしかも無傷で打ち破れた。それもこんな短時間で。
「ミーア、僕たち、また強くなったのかな」

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