5号店開店 その2
コンビニおもてなし本店では、現在トルソナが接客を、トレイナとトラーナの2人がパン作りの修行を行っています。
本店では、ウルムナギ又のルービアスも接客が出来るようになり始めていますので、良い感じです。
さて、そんなコンビニおもてなしですが、5号店開店に向けて若干人事異動を行うことになりました。
今までで最大規模の辺境都市に出店することになりますので、店長は僕が務めることにしました。
本店は、店長補佐として勤務してくれているブリリアンを店長に昇格……と、思ったのですが、
「私の本業はあくまでもスア様の弟子です! 店長職は断じてお断りします!」
そうはっきりと断言されてしまったため、ブリリアンには名目上は店長補佐ですが、実質的な店長として頑張ってもらおうと思っています。
で、5号店の店長補佐には、現在2号店の店長を務めているシャルンエッセンスに回ってもらうことにしました。2号店は、元貴族のシャルンエッセンスのメイド達が大挙して勤務していますので、やや人員が多いんですよね。なので、新店長を現在店長補佐を務めているシルメールに任せることにした次第です。
これは、シャルンエッセンス本人の強い意向でもありました。
最初、支店の誰かを補佐に、と考えていたんですけど、それを聞きつけたシャルンエッセンスが
「お兄様!私、出来ることならこの私がお兄様のお手伝いをさせていただきたいですわ!」
そう、僕ににじり寄ってきたわけです、はい。
2号店をしっかり切り盛りしてくれているシャルンエッセンスですし、シルメールも
「シャルンエッセンスお嬢様のご意向だし、私も賛同するよ」
笑顔でそう言ってくれましたので、その方向で調整することにした次第です。
これで、5号店は現在のところ、
店長・僕
店長補佐・シャルンエッセンス
店員・トルソナ~接客
店員・トレイナとトラーナ~パン制作
店員・テンテンコウ♂~パン制作責任者
こんな感じになっています。
パン工房を5号店に移動させるので、それに伴って本店の厨房も改造し、ヤルメキスのスイーツ作成場所と、僕と魔王ビナスさんの調理作業スペースを拡大する方向で改築することになっています。
このパン工房に関してですが、スペースは店の地下なのですが、そのパン製造の様子を店のガラス戸の1つに投影させる予定にしています。こうしておけば、パンを作っている様子を宣伝に使えるかな、と思ったわけなんですよね。
スアに相談したところ、
「……うん、簡単、よ」
そう言ってくれたので、ガラス戸設置の際にその作業もお願いすることにしてあります。
店には、現在ティーケー海岸に本店を構えているおもてなし商会も入り、ここを新たな本店にする予定にしています。それに合わせてファラさんも移動します。
この人事異動に伴い、ティーケー海岸店は、ティーケー海岸支店になるわけですが、その人員をファラさんが自分の知り合いに任せたいと言っていたのですが、
「あぁ、店長、ちょっといいかな」
この日の営業後、そのファラさんが1人の女性を連れて本店に顔を出しました。
ファラさんも結構長身ですが、その女性はそんなファラさんの1.5倍はありそうです。
「この子、私の遠縁にあたる子でね、ファニーっていうのよ。洞窟にこもって書物ばっか読みふけってる子でね、そろそろ働かせてやらないとねぇ、と思ってたの」
そう言うファラさんの横で、なんかもさっとした服装のファニーはどこか面倒くさそうな表情を浮かべています。
「……ふぅ……ファラおばさん、アタシ別に働く気なんてない……財宝守りながら本読んでればそれで……それに、なんで人間ごときの元で……」
ブツブツそんなことを言ってるファニーなんですが、次の瞬間、そのファニーの首をファラさんがむんずと掴みました。
自らの体を巨大化させ、ファニーと同じ背格好になったファラさんは、ファニーの首を本気で締め上げています……って、ちょ、ちょっと!?
僕が慌てて止めようとする前で、ファラさんは一度僕に向かってにっこり微笑むと、
「大丈夫ですよ店長さん。ちょっと言い聞かせてきますので」
そう言うと、ファラさんの頭上に魔法陣が展開し始めまして、ファニーの首を掴んでいるファラさんは、その背にドラゴンの羽を出現させると、そのままその中へと消えていきました。
待つこと10分
「……ふぅ……さっきはホントにすいませんでした……」
戻ってくるなりファニーは僕に向かって深々と頭を下げました。
……で、その格好なんですが……着ていた衣服はほとんど焼け落ちていまして、ほぼ全裸。しかもその体のあちこちがひどい火傷になっています……って、これ、大丈夫なの?
僕が、目を丸くしていると、
「この子も龍人ですので、これぐらい一晩寝れば治りますわ」
ファラさんはそう言いながら僕に向かってにっこり微笑みました。
ちなみに、ファラさんはほぼ無傷です。
ファラさん曰く、このファニーは
「算術は得意な子なんですよ。昔から本が好きすぎて引きこもりでしてね」
とのことでして、当面はファラさんがマンツーマンで指導してくれるそうです。
まぁ、5号店に開設するおもてなし商会本店とティーケー海岸支店は転移ドアでつなげる予定にしていますし、ファラさんがファニーの様子もしっかり監視してくれるでしょうから大丈夫でしょう……多分……
こうして、5号店開店に向けて人員も整備出来てきました。
あとは、営業を行う人員と、おもてなし商会の荷物運搬要員を確保出来れば、といったところでしょうか。不足人員に関してはナカンコンベ商店街組合のレトレに斡旋をお願いしていますので、近日中に紹介してもらえるかな、と思っています。
◇◇◇
翌日。
本店で接客をしていると、5号店の改築作業をしているルアが転移ドアをくぐって僕を呼びに来ました。
「なんか、お客さんだぜ」
そう言われて5号店へ移動してみますと、ナカンコンベ商店街組合のレトレがいました。
「店長さん、お忙しい中恐縮ですです」
そう言いながら一礼したレトレは、挨拶もそこそこにポルテントチップ商会の査察の結果を教えてくれました。
「ナカンコンベにやってきて間もないポルテントチップ商会なのですですが、王都時代の出納関係書類から悪質な賃金ピンハネ及び未払い、下請けへの悪質な未払い、代金の踏み倒し案件などなど続々と明るみになっているですです。目下、王都の商店街組合の蟻人を呼び寄せて更なる査察を行う予定ですです」
レトレの話を聞いて、僕は苦笑するしかありませんでした。
こんな酷いことをやってる店が普通に存在してることに、若干呆れたわけです、はい。
すると、レトレはそんな僕を見ながら困惑したような表情を浮かべました。
「お恥ずかしい話ですですが……大なり小なりどこのお店もそういうことをしちゃっているんですですよねぇ……私達も一生懸命指導しているですですけど、なかなか上手くいかないんですです」
そう言うと、レトレは僕を見てにっこり微笑みました。
「ガタコンベの商店街組合からの紹介状によりますと、店長さんはこ支店をこんなに展開されておきながらそういった不正を一切行っていらっしゃらないとか。本当に尊敬いたしますですですわ」
「いやぁ、僕は当たり前のことをしているだけだしさ」
「その当たり前を出来ない人がなんと多いことか、なのですです」
なんかもう、何を言ってもそんな感じで褒められるもんですから、最後には僕の方がなんか気恥ずかしくなってしまった次第です。
この査察で、トルソナにも未払い賃金などが先日借金と相殺した以外にも相当額返金される可能性が高いそうで、同時に妹さん達のために借金して支払った100万円/僕が元いた世界換算も返ってくる可能性があるそうです。
トルソナの妹を診療した王都の診療所に、ポルテントチップ商会が商品を卸売りしていたそうで僕が予想していたように、やはりズブズブの関係だったようなんですよね。その線から診療所にも捜索がはいることになったそうで、その結果次第では治療費が返ってくるかもしれないとのことでした。
これは、王都の蟻人達と一緒にやっていくことになるためもうしばらく時間がかかるとのことですが、まぁ、朗報には違いありません。
早速このことをトルソナ達に伝えると、
「ほ、本当ですか……」
トルソナ達はうれし涙をこぼしながら何度も何度も僕に向かって頭を下げました。
「このご恩に報いるためにも、私達末永く頑張らせていただきます!」
そう言って、最後にもう一度深々と頭を下げた3人なんですが、その際、何やらスアの射るような視線が背後から突き刺さってきた気がしないでもないのですが……