第53話 好意の始まり
ミューは照れて盛大に目を泳がせた。しばらくそうして目を泳がせた後、やや上目づかいに僕を見ながら。
「あ、あの3年ほど前にアーセルも含めて3人で狩りに行った時の事、覚えてる。あたし達子供3人だけでの初めての狩り」
「あ、ああ。僕はもう何度も狩りに出ていたから、2人を引率する感じで森の表層で狩りをしたんだったよね」
「その時にさ、はしゃいだあたしとアーセルがフェ、ファイの止めるのを聞かずに森の奥に向かって行って、まだ探知も十分に使えなかったあたしが、うっかりワイルドボアの群れを刺激しちゃってさ」
「ああ、あったね。2人して涙目で逃げてきたよね」
「その時にさ、ファイはあたし達を背中に庇って1歩も引かずに戦ってくれたでしょ」
「そりゃ、あの状況でそれ以外の選択肢無いって」
僕の返しに
「普通はそうじゃないのよ。あたしたちが勝手に暴走してピンチになってたんだから」
「いやさすがに幼馴染2人が魔獣に襲われてて、それを撃退できる力があったら守るよ。そう思うでしょ」
「今のファイの実力が当時あったら確かにそうかもしれない。でもさあたし知ってるの。あの時ファイがかなりのケガをしてたのを。アーセルが何度も聖女の癒しを使っていたのも見てたもの。アーセルの癒しもまだそんなに上手じゃなくて治しきれないうちに次のケガをしてたでしょ。それでも、ファイはずっと一番前に立ってあたしたちを守ってくれて」
「いや、その言い方じゃミューが何もしなかったみたいじゃない。ミューだって弓でちゃんと戦ってくれてたでしょ。3人で協力して切り抜けたはずだよ」
「でも、ファイだって本当は弓が一番得意で前衛じゃないはずだったのに、当時はまだ今みたいによけるのだって上手じゃなかったのに。いっぱいケガして、それでも全く引かないで……。そんな姿を見て、もうあたしは、ファイが大好きになってずっと隣に居たいってそう思うようになったの。たぶんアーセルもあの時に……」
「でも、そうかあの時か。思えばあの頃は僕たちも随分と弱っちかったね。あんな表層の魔獣相手に必死だったんだから」
クスリと笑ってミューを抱き寄せ髪に口づけた。