あれこれあれこれ その3
翌日。
今日もガタコンベにありますコンビニおもてなし本店は大勢のお客様で賑わっています。
特に開店直後とお昼前後の混雑ぶりはかなりです。
とはいえ、その混雑ぶりにもすでに慣れっこになっている僕達本店スタッフは苦も無くこの時間帯の業務をこなせるようになっていますので、問題はないんですけどね。
お昼の混雑する時間帯を乗り切ると、
「じゃあブリリアン、すまないけど後は頼むね」
「はい、おまかせください!」
本店の営業を店長補佐のブリリアンに任せて、僕はナカンコンベへ移動していきました。
◇◇◇
一番新しく出来た転移ドアをくぐると、そこがナカンコンベにありますコンビニおもてなし5号店の開店予定の建物の中です。
僕がやってくると、建物の中では朝からやってきていたルア率いるルア工房のみんなが忙しそうにあれこれ作業を行っている最中でした。
「あぁ、店長お疲れさん」
僕に気付いたルアは、そう声をかけながら僕の元に歩み寄ってきました。
ルアは、すでにこの建物の改築用の設計図を描き上げていました。
で、僕はそれを見ながら、ルアと一緒にあれこれ相談していきます。
ルアの図面によりますと、この建物は地上3階・地下2階。建物の裏には荷馬車の係留所や馬屋並びに大きな倉庫も併設されているようです。
ルアは、この倉庫の中におもてなし商会の事務所を作る予定なんだとか。
また、店舗の入り口部分を本店と同じように総ガラス張りにするそうです。
ガラスに関してはルアが直接スアに製造を依頼するそうで、枠組が出来上がったらそこにスアが魔法でガラス壁を埋め込む話になっているんだとか。
「細かな部分に関しては今詰めてっから、また相談させてくれ」
ルアはそう言ってニカッと笑いました。
なんとも頼もしい笑顔です。
ちなみに……
いつもであれば、僕は新しい街で新しく店舗を開店する際にはその都市の業者に改築をお願いすることを常としていました。その方が地元業者にも好感をもってもらえるだろうって思惑があったからなんですけどね。
ただ、このナカンコンベではそれをしないことにしました。
あえてルア工房に全てやってもらって、ルア工房の技術の高さをナカンコンベの皆さんに誇示しようという思惑なわけです、はい。
実は、ルアの工房もガタコンベの街の建物ではそろそろ手狭になってきているそうで、コンビニおもてなしと一緒にナカンコンベ進出を検討しているそうなんですよ。
この件はすでにドンタコスゥコにも相談しているのですが、
「工房用に使用出来る建物ならですねぇ、少し郊外にいけば割と簡単に手にはいりますねぇ」
そう教えてもらっていますので、ルアはコンビニおもてなし5号店の作業を行いながら、同時にルア工房ナカンコンベ店の準備も行っていたりします。
ルアは、僕がこの世界にやってきて最初に友人になってくれたこの世界の住人ですからね。ルアがいなかったら、僕もここまでコンビニおもてなしを大きく出来なかったかもしれないわけです。その恩返しの思いもあって、僕もできる限りの応援をさせてもらおうと思っているわけです。
ルアとの相談を終えた僕は、建物を出てナカンコンベ商店街組合へと出向きました。
先日の債権者会議で建物受領の手続きは全て終えていますが、ナカンコンベで商売をするための申請がまだだったので、その手続きをしに来たのです。
「あぁ、店長さんご苦労様ですです」
僕を出迎えてくれたのはレトレでした。
先日の債権者会議を仕切っていた蟻人さんです。
……しかし、ナカンコンベ商店街組合の建物はすごいです。
ガタコンベの商店街組合は木造二階建てなのですが、このナカンコンベの商店街組合の建物は石造りの5階建てです。この分だと、おそらく地下もあるんだろうなと推測出来ます。
建物の中では、組合の職員らしい蟻人達が忙しそうに動き回っているのですが、その数も当然ガタコンベの商店街組合の比ではありません。
そんなことに感心ながら、僕はレトレとあれこれ打ち合わせを行っていきました。
僕が今回レトレに申請したのは4つ。
・コンビニおもてなし5号店の開店
・おもてなし診療所の開所
・おもてなし商会ナカンコンベ支店の開店
・魔道船の就航許可
ガタコンベ商店街組合のエレエに書いてもらった紹介状もレトレへ提出しました。
「ガタコンベ商店街組合の推薦があるのでしたら問題ないですです。ではこちらの書類に記入をお願いしますですです」
僕は、レトレが手渡してきた書類にあれこれ記入していきました。
ナカンコンベで商売をするためにはナカンコンベ商店街組合に加入する必要があるとのことですので、その申請も一緒に行いました。
で、5号店の開店・診療所の開所・おもてなし商会の開店は、エレエの紹介状に加えてドンタコスゥコも推薦状を別に提出してくれていたらしく、そのおかげもあってすんなりと認められまして、僕が書類を提出すると同時に許可証を渡してもらえました。
ただ、残念ながら魔道船の就航許可はすぐには下りませんでした。
「魔道船は前例がないですです。少し検討する時間をくださいですです」
レトレは申し訳なさそうにそう言いました。
ただ、これは前例がないため、ルール作りといいますか、全てをゼロからしないといけないため法整備などを合わせて行うのに若干時間がかかるという意味だそうでして、申請が不受理になる可能性はほぼないそうです。
「魔道船には、我々も期待しているのですです」
「そうですか。ご期待に添えるように頑張りますね」
レトレに、僕は笑顔でそう言葉を返していきました。
申請書類を書き終えた僕は、改めてレトレへ視線を向けました。
「そう言えば、新しくオープンする店の店員募集をしたいんだけど、どうやったらいいのかな?」
僕がそう言うと、レトレは
「それでしたら、方法は2種類あるですです」
そう言って、2種類の用紙を僕に手渡してくれました。
レトレの説明によると、その2種類というのは「斡旋雇用」と「一般雇用」なんだそうです。
斡旋雇用というのは、ナカンコンベ商店街組合に職探しの登録をしている人の中から最適と思われる人材を紹介する方法。で、「一般雇用」は組合に加盟している各店に求人の紙を貼りだしてもらい、それを見て就職を希望する人に直接コンビニおもてなしまで来てもらう方法です。
斡旋だと、身元保証がつくので安心ですが斡旋手数料を支払う必要があるとのことです。
額としては、就職した人の給与1ヶ月分だとか。
一般の場合、その手数料が不要ですが、身元保証がつきません。
まだこのナカンコンベになれていない僕ですし、右も左もわからないこの街でいきなり身元保証のない人を雇うのはちょっとあれかな、と思った僕は
「じゃあ斡旋でお願いを……」
そう言いかけたのですが、
「あ、あの……」
そんな僕に、後ろから声をかけてきた人がいました。
僕が振り返ると、そこには一人の女の子が立っていました。
冒険者風の出で立ちをしていますが、着衣はかなりボロボロな感じです。
長旅を終えてこの街についたばかりといった感じですね。
「見ない顔ですです。何かご用ですです?」
レトレが僕の後方から女の子に声をかけました。
すると、その女の子は
「あ、あの……私、先程この都市にやってきたばかりの者なのですが……ちょうどお仕事を探そうと思っていたんです」
そう言うと、レトレへ視線を移していたその女の子は改めて僕へと視線を戻し
「あの……ここでお会いしたのも何かのご縁です。私をタクラ様のお店で雇って頂けませんでしょうか?」
そう言うと、深々と頭を下げていきました。
僕は、その女の子の言葉を聞きながら、少し首をひねりました。