第39話 結界への道
僕たちは勇者様のパーティーの案内で森の深層に踏み込んでいく。途中あまりにガチャガチャとうるさい戦士のフルプレートに皮をかまして当たり音を抑え。大きな声でしゃべろうとする勇者様と魔術師に何度も声を抑えるように注意をする。足元のしたばえの魔獣の痕跡を説明し追跡するもしくは避けるための方法の基礎を説明する等しながら結界を壊したと言っている場所を目指した。常に僕もミーアも探知を最大で展開し避けられる魔獣は避け、そうでないものも最低限の接触で済むように移動をする。
「フェイ殿、貴殿らはいつもこのような動きをしておられるのか」
「僕たちは狩人です。基本的に魔獣を狩ることで生計を立てていますが、狩っても持ち運べる量には限度があります。そしてそれを超える量を狩ってもリスクばかりでメリットがありませんから。それに今日は特に、勇者様が壊してしまったという結界の状態を見るのが目的なので、余計なことをして手間を増やしたくありません」
そうこうしているうちに、夕暮れ時になってきたため僕は野営の準備を提案した。
「そろそろ、みなさんは足元が怪しくなってきたと思いますし、夜は魔獣の活動も活発になりますのでこのあたりで野営としたいと思います」
野営と聞いてアーセルを除く勇者様のパーティーメンバーはその場に座り込んでしまった。どうやら朝からの魔獣との戦闘と僕たちと合流した後の繊細な移動に体力的にも精神的にも疲労してしまったようだ。
これまでの勇者様のパーティーの動きを見て、勇者シリーズを装備した勇者様の火力による力押しでこれまできたんだろうなぁと予測できているため、一応念のためという前振りの上で、森の深層における野営での心構えや注意事項を説明する。アーセルは知っていたはずなんだけれど、説明してなかったのかな。
「ミーア、勇者様のパーティーは疲労が大きい。明日以降の事もあるから夜の見張りは僕とミーアでしよう」
「うん、あの状態の人たちには任せるのはちょっと怖いね」
僕は勇者様に近づき
「勇者様、夜の見張りは僕とミーアで引き受けます。そちらのパーティーメンバーを十分に休ませてください」
「な、いや、フェイウェル殿はともかくミーア殿は女性ではないか。そのような方に見張りを任せて我らが休むなど」
僕は溜息を我慢できず、疲労感をおぼえてしまった。そこで僕はアーセルを呼ぶことにして声を掛ける。
「アーセル」
「なにフェイ」
微妙に嬉しそうな表情で応えたアーセルに
「夜の見張りは、僕とミーアでやる。勇者様を説得して休ませておいて」
「え」
きょとんとするアーセルを置いて僕はミーアのもとに戻った。
簡易のテントを張り、例によって
「じゃぁミーアは最初の3時間頼むね」
「アイアイ。おやすみフェイ」
僕たち狩人の祝福持ちは短い時間でも休息を取れば十分に回復ができる。僕も3時間も休めば十分。ミーアと交代後はテントの外で木に寄りかかり探知に魔獣が入ってこないか、入ってきたらこちらに近づいてこないかを監視する。幸いなことに1度だけ探知範囲に入った魔獣がいただけで近づいてくるものはいなかった。そろそろ明るくなってきたのでミーアに声を掛ける。勇者様のパーティーを見るとアーセルが勇者様のパーティーメンバーを起こして回っていた。向こうには口を出さなくてもいいだろう。
夜の間魔獣が寄り付かないようにするため消してあった火を起こす。低位の魔獣なら火を恐れて近づかないけれど、これほどの深層に住む魔獣は逆に火に寄ってくるための処置だ。干し肉と乾燥野菜を鍋に入れ水で煮込み簡単なスープを作る。十分に煮えたところでミーアに声を掛けた。
「ミーア。朝食出来たよ」
僕とミーアは、スープに黒パンを浸しながら一緒に朝食を済ませた。
キャンプを撤収し僕達は勇者様のもとへ声を掛けに行く。
「勇者様、よく休まれましたか」
「ああ、フェイウェル殿とミーア殿か。うむ、メンバーともどもしっかりと休ませてもらった」
「朝食は」
「今済ませたところだ、メンバーが今片付けをしてくれておる」
「では、片付けが終わりしだい出発します。昨日聞いた感じですと、今日の昼前には結界のあった場所に到着できると思います。そこで結界の状態を確認したらすぐに離脱します。できれば今日中に深層と中層の境目くらいまで戻りたいところです」
そこから先僕もミーアも弓を魔法の鞄にしまう。それを見た勇者様が聞いてきた。
「なぜ弓をしまわれるのか」
「見てわかりませんか。ここからは森が密集しています。つまり弓の射線が十分に通りません。なので僕たちも剣で魔獣を捌くことになります。そのためです」
「フェイウェル殿が強いことは知っておるが、ミーア殿も剣を使われるのか」
「ミーアも強いですよ。スタンピードでは背中をまかせて乗り切った戦友でもあります。それはご存知でしょう」
「話は聞いているが、女性が剣を……」
「無駄話は、ここまでにしましょう。時間がもったいないです」
近接戦闘中心となれば探知範囲の違いはあまり問題にならない。単純に剣技と力の問題に収束する。もちろん探知自体の有無は大きい。あれば後ろからの接近も明確に近くできる。人間に存在する死角がなくなるのだからそれは大きい。故に探知持ちに奇襲を行うには対抗する隠蔽を探知より高レベルで保持するしかない。そして高位の魔獣とは言えこのあたりにはそこまでのものはいない。結果として
「ミーアは右を。僕は左をやる」
「はい」
ミーアは新しくしたオリハルコンコートの短剣を振るい、上位魔獣の四肢を断ち目に突き入れる。僕はオリハルコンコートのブロードソードで上位魔獣の首を一閃する。
最低限の魔獣との戦闘を数回こなしながら予想通り昼前には結界のあった場所にたどり着いた。