第35話 幸福な夢
結局勇者様のパーティーについての十分な情報は得られなかった。ただ、レーアさんが言うには日々森に通い詰めているらしいとの話だけが聞けた。それだと付与術師を探しているという話とはややズレるのだけれど。僕としてはむしろ嬉しいズレであることは間違いなかった。
「ありがとうございました。森の行き帰りに聖都の入り口で接触をするしかなさそうですね」
そしてもう一つ
「スタンピードの事後調査がもう少しで終わる、か」
そんなことを考えていたところにミーアから声がかかった。
「ねえフェイ。この時間だと聖都への出入りを見張るのはちょっと意味がなさそうよね」
そろそろお昼時。勇者様のパーティーが森に探索・討伐に出ているとすればこの時間に門をくぐることはほぼ考えられない。
「そうだね。ちょうどお昼だし、そのあたりのお店で何か食べようか」
僕たちはギルド近くのレストラン、「幸福な夢」に入った。見た感じ昼間はレストラン、夕方以降は酒場として営業している感じの店だ。
「いらっしゃいませ。空いているお席を……サウザンドブレイカー様、トルネードレディ様」
また何か面倒くさい呼び名で呼ばれ、僕たちは少々食傷気味だ。相手に悪気がないのが逆に面倒くささを増している。が、これもダニエルさんに言われた英雄としての扱いとそれにともなう僕たちの英雄としての義務なんだろう。僕は溜息を一つついて手近なテーブルに着いた。慣れるしかないのだろうけれど、なかなか慣れない。
料理が配膳された。こういった店は食べ物と交換で支払いをする。場所柄それほど高いものではなかったが流石に聖都の店だけあって味は悪くない。多くの好意、尊敬、憧れ、そして僅かな妬み、そんな視線にさらされながらとりあえず食事を済ませる。支払いは済ませてあるのでこのまま出てもいいのだけれど、ふと気づいて、あまり可能性は高くないものの聞いてみることにした。
「結構おいしいですね。この店ってどんな方が食べにくるんですか」
店主と思われる男性が、わざわざ出て来て、自慢げに話すにギルド職員御用達だそうだ。そして聞きたかった答えがあった。
「勇者様のパーティーも3日に1度は食べに見えます。たぶん明日には夕食を食べにみえると思います」
「へえ、勇者様のパーティーまでが常連なんてすごいですね」
そう僕が褒めると、誇らしげに勇者様のパーティーの様子を語ってくれた。
店主の自慢話をほどほどに聞きながし、
「楽しい時間でした、また寄らせてもらいますね」
そう言って僕たちは店を出た。
その後は一度村の皆のところに寄ってギルドに依頼したことを話し、夜の羊亭で休むことにした。割り当てられた部屋のベッドに寄り添って腰かけ僕とミーアは話し合いをしていた。
「じゃぁ情報を整理しようか勇者様のパーティーは、今日寄ったレストランで、おおよそ3日に1度夕食を食べると」
「そうね、勇者様のパーティーのメンバーは勇者様とアーセルの他に盾持ちの重戦士、魔術師、スカウトの5人ね」
「最近は、勇者様、アーセル、重戦士、魔術師で森に探索、魔獣の討伐に出ていることが多くスカウトは街中で何かしていることが多いと」
「でも最近は一時のように勇者様がやる気をなくした感じではないのね」
「装備も勇者シリーズは使ってなさそうだね」
「で、フェイとしてはどうしたいの」
「うーん、とりあえず明日の夕食時に勇者様のパーティーメンバーと、どこに滞在しているかを確認したいかな。でも……」
「メンバーにスカウトがいるのが気になるわね」
「色によるけど、僕たちの追跡が見破られる可能性もあるからね。まあ、勇者様のパーティーメンバーとなれば少なくとも青、多分黄かな」
「そうよね。となるとあたしが追跡は、ちょっと無理かな」
「それに僕たち顔を一般の人たちに知られすぎてて普通にそばにいるだけで騒ぎになりそうだから、その対策もしないといけないしね」
その後の話し合いで、レストラン近くで待ち構えて、メンバーの顔を確認したらミーアは一度夜の羊亭に戻って待機。僕が追跡で後をつけて宿を確認。という手順でいくことにした。あとはフード付きのコートでも買って顔を隠せばなんとかなるだろう。
翌日、午前中に冒険者や旅人がよく使う丈夫な布のフード付きコートを着て僕とミーアはレストラン「幸福な夢」の入り口が見える少し離れた路地の入口で勇者様のパーティーメンバーが現れるのを待っていた。