第28話 狩人から英雄へ
「……なればこそ傲慢と言った」
完全に納得できるわけではないけれど、悔いるばかりでは仕方がないのも事実なので。
「ふう、とりあえずわかりました。ところで、そろそろ今回のご訪問の理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」
僕の問いにダニエルさんは、はっと気づいてバツが悪そうな表情になった。
「すまぬな、大きな成果を上げた貴公らがあまりに自らを過小評価しているのがじれったくて余計なことを言った」
ダニエルさんは、コホンと咳払いをして
「フェイウェル殿、ミーア殿。私聖騎士団副団長ダニエル・バリー・シンプソンが大司教様名代としてご連絡申し上げる。スタンピードによる被害防止の功績に対し褒美をとらせる。本日より10日の後、教会へ参内されたい」
「は」
僕もミーアも予想外の事態に反応できない。
「ま、端から見たら君たちは英雄なんだよ」
ニヤリと笑い崩れた口調で語るダニエルさんにあっけにとられる僕たち。
「そして、英雄となった者には我々はそれなりの敬意をはらう。英雄となった者は、その業績により様々な権利がもたらされる。そして」
「そして、なんですか」
少々言い難そうにダニエルさんが続ける
「勝手な言い分ではあるが、義務が発生してしまう」
「義務ですか」
「うむ、いくつかの行事への参加。それと英雄としてのふるまいが皆から期待されてしまうのだ」
僕はなんとなく嫌な予感を感じ、ミーアを見ると、やはり少々渋い顔をしている。
「いくつかの行事というのは、具体的には何をやらされるのですか」
「聖国の褒章の授与式への参加。おそらくここで騎士職への任命があり、それに合わせていくばくかの金品の授与もあるだろう。更にスタンピード撃退の祝賀パレードへシンボルとして参加。これはまぁ馬車に座って民衆に笑顔で手でも振ってくれればいい。その後受けた騎士職としてスタンピード撃退のスピーチを頼むことになるだろう。そしてその後いくつかの祝賀パーティへの出席を依頼することになる」
「僕たちは狩人です。騎士職としての作法もそんな大げさな場所でのスピーチのしかたも知りませんよ」
「ま、そこは我々がサポートするから、そこまで心配はいらない。むしろ……」
そこでダニエルさんが口ごもってしまった。
「むしろ。なんですか」
さらに言い難そうにダニエルさんは続けた
「フェイウェル殿は、その親子2代に渡っての英雄ということになってだな……」
そこまで言うと、気まずそうにミーアを見やり
「その、英雄の血筋というか、なんというか。自らの一族に欲しいと言い出すヤカラが近寄ってくるのが予想されるのだ。そしてそれらは、大体が国の有力者でな、国として大っぴらに拒否がしにくい。新婚の貴公らには許しがたい話をしてくるかもしれんのだ。というかまずしてくる」
僕は溜息をついて
「それは強制なんですか」
「さすがにそんなものは強制ではない。が、おそらく手練手管を弄して落とそうとしてくるだろう。そして貴公らの感じるものを理解できるので我々も可能な範囲でではあるが守ると約束しよう。ただ先の騎士職の任命とパレード、スピーチ、それから祝賀パーティへの出席はなんとか受けて欲しい。今回のスタンピードでは規模のわりに被害は小さかったがそれでも民衆は不安を感じている。その不安を取り除くための助力をお願いしたい」
まったく溜息しかない。僕は穏やかに暮らしたかっただけなのに。騎士職なんて
「騎士職など頂いても。僕たちに務まるとは思えないのですが」
「それについては心配はまず不要だ。おそらくは名誉職としての称号的なもので実際の職務は無いものが授与されるはずだ」
そのあとダニエルさんは、少しだけ雑談をして帰っていった。
「僕たちは村を守りたかっただけなのにな」
「そうね、国だとかそんな大きなもの想像も出来ないもの。それにフェイのお父さんの事。知られているのね」
「ギルマスのゲーリックさんに名乗っただけで確認されたしね。ある程度知られているんだろうなとは思ってはいたけどね。まさかここでその影響が出てくるとはおもわなかったな」
「どうするの」
どうする。ミーアの問いかけに僕は一瞬躊躇した。選べる未来はいくつもある。そして選べるだけの力も多分僕たちにはある。でも、
「血縁がどうとかは断るにしても。そのほかはまずは村のみんなをどうにかできてからかな」