ブロロッサムの木の下にはね…… その3
小柄で妙に色白で、キモノを思わせる服を着ているピンクの長い髪の毛の女の子はウインナーを指さしながら、相変わらずその口から大量の涎をたらし続けています。
で、僕の顔を懇願するような表情で見つめながら、
「のう、お主、後生じゃからその良い匂いのする食べ物を妾にもわけてほしいのじゃ」
そう言いながらその場で地団駄を踏み始めました。
……見るからに幼女といいますか、パラナミオどころかスアよりも小柄なこの女の子ですが、はて、どこから出現したんでしょう?
僕は周囲を見回していきました……が、この子の親御さんらしい人の姿はありません。
で、そんな感じで僕が周囲を見回していると、その女の子は、
「頼むのじゃあああああああ、食わせてたもおおおおおおおお」
と、言いながら、とうとう大泣きし始めてしまいまして……その様子を見かねたパラナミオがですね
「パパ、あの……私のをあげましょうか?」
と言い出した次第です。
「あぁ、いいよパラナミオ。焼きたてを分けてあげるから」
僕はそう言うと、新しい皿の上にウインナーを3本のせると、それにフォークを添えてその女の子に手渡してあげました。
「はい、焼きたてで熱いから気をつけて食べるんだよ」
「わ、わかったのじゃ!」
そう言うと、その女の子は躊躇することなく皿に顔を寄せていき、ウインナーをそのまま口でがぶっと……
「ほわちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃああああああああああ」
女の子は、わたわたしながらも、両手でしっかり皿を持ったままその場で右往左往し始めました。
「あぁ、もう!だから熱いと言ったじゃないか」
僕は、慌てて水の入ったコップを手にとると、それを女の子に手渡しました。
女の子は、それを片手で受け取ると一気に飲み干し、
「ふぅ、死ぬかと思うほど熱かったのじゃ。でもすごく上手かったのじゃ」
そう言いながら笑顔を浮かべていました。
1本食べ終えたことで落ちついたらしく、その女の子は2本目のウインナーはフォークを使ってゆっくり食べていきました。
「うむ、旨いのじゃ。これはとても旨いのじゃ」
そう言いながら、その女の子は笑顔を浮かべ続けています。
すると、パラナミオとリョータもその女の子の側に寄っていきまして、
「向こうにもっといっぱい食べ物があるよ」
「一緒に食べるかい?」
そう声をかけていきました。
すると、その女の子は
「妾も一緒に食べて良いのか?」
そう言いながら、嬉しそうに微笑んでいます。
で、その女の子の言葉を受けて
「いいですか、パパ?」
パラナミオがそう僕に聞いて来ました。
で、まぁ、そのパラナミオが満面の笑みを浮かべていますしね、
「あぁ、いいよ。みんなで仲良く食べなさい」
僕がそう言うと、パラナミオとリョータは笑顔でその女の子を敷物のところに連れていきました。
すると、
「姉上だけずるいのじゃ」
「そうじゃ、妾達にも分けてほしいのじゃ」
「そうじゃそうじゃ」
って……なんだなんだ?
先程と同じ小柄で妙に色白で、キモノを思わせる服を着ているピンクの長い髪の毛の女の子達が、いつの間にか僕の前にワラワラと集まっているではありませんか。
「ちょ!? ちょっと待って!? き、君達どっから沸いてきたんだ?」
僕は思った事を聞いていったのですが、女の子達は、
「妾にもそのういんなあとやらをわけてほしいのじゃ!」
「妾にもじゃ」
と、口々に言いながら、みんな口から大量の涎を垂らし続けているわけです。
◇◇◇
で、
全部で12人出現したその女の子達が求めるままにウインナーやお肉を焼いてあげて皿にのせてあげたり、事前に準備していたお重の料理をわけてあげました。
幸い、女の子達はある程度お腹がふくれるとすごくおとなしくなってくれまして、他のみんなと仲良く談笑したり、飲み物を注いだりしてくれていました。
「貴殿達、なかなか気がきくではないか」
「気に入ったキ」
「どれ、酒を……っと、いかんいかん、まだジュースでないといかんな」
とまぁ、イエロ・セーテン・ゴルアの酒飲み三人娘もすっかりこの女の子達を気に入った様子で、みんなとワイワイ話しながら、飲み物をついであげたりしています。
それを受けて女の子達も、
「うむ、うれしいのじゃ」
「このパラナミオサイダー美味しいのじゃ」
口々にそう言いながら、楽しそうにしています。
で、僕達も本来の目的である、お花見をしながら……って……あれ?
「……なんでブロロッサムの木が全部なくなってるんだ?」
そうなんです。
綺麗に花を咲かせていたブロロッサムの木が全部無くなっていたんです、いつのまにか。
で、しかも、そのブロロッサムの木があったらしいあたりには大きな穴が空いています。
まるでブロロッサムの木の下から何かが這い出してきたかのような……
と、僕がそんなことを考えていると、女の子の1人が僕の元に歩み寄って来ました。
「なんじゃ? 花が見たいのか?」
「え? えぇ、まぁ……お花見に来たわけですんで……」
「そうかそうか、お主達こんな山奥にまでわざわざ妾達を見に来てくれたのじゃな」
その女の子はそう言うと、
「上手い料理も振る舞ってもらったし、ならば大サービスせねばなるまい」
おもむろに両手を頭上にかざしていきました。
すると、びっくりしたことに、その女の子はみるみる体が木になっていきまして……えぇ、ブロロッサムの木になっていったんですよ。
で、そのブロロッサムの木は、根っこを足代わりにしてのっしのっしと歩いて行くと、穴の一つへと入っていきました。
で、
『ほれ皆の衆、大サービスじゃぞ』
そんな声が木から聞こえてきたかと思うと、ブロロッサムの木から花びらが大量に宙を舞い始めました。
で、その花びらは、舞い散るのではなく、まるで生きているかのように空中を舞い踊っています。
で、その花びらに合わせて、他の11人の女の子達が同時に舞いを舞い始めました。
花びらを周囲に纏いながら、優雅に舞い踊る11人の女の子達。
その姿に、僕達は思わず見惚れていきました。
なんでも、この女の子達はブロロッサムの木の精霊なんだそうです。
毎年、この山奥で花を付けては誰かが見に来るのを待っていたそうなんですけど、
「ここ数十年は誰も来てくれなくてのぉ。食べ物を恵んでもらえなくてひもじかったのじゃ」
「え?でも木なんですから地下から養分を吸い上げているんじゃあ?」
「あれでは味気ないのじゃ。やはり人が食べる物がよいのじゃ」
とまぁ、そういうわけで、ひっさびさにこの木の元にやってきた僕達が、あまりにも美味しそうな匂いをさせていたもんですから、みんなして我慢出来なくなって全員人型になっておねだりしてきたってわけみたいです。
まぁ、でも、その正体がわかってしまえばどうということはありません。
舞い踊るブロロッサムの木の精霊達と、僕達は飲めや歌えの宴会をしていきました。
まぁ、僕はみんなのために焼き作業をし続けるはめになったんですけど、コンビニおもてなし組のみんなも、ブロロッサムの木の精霊のみんなも揃って笑顔でしたので、まぁ、よかったかなと思っている次第です。
◇◇◇
日が暮れ始め、僕達は帰宅の準備を始めました。
ブロロッサムの木の精霊達は
「妾達はいつでも待っておるからの。またいつでも花見に来てほしいのじゃ」
そう言いながら、僕達全員と笑顔で握手をかわしていきました。
僕も、そんなブロロッサムの木の精霊達みんなに笑顔を返しながら
「えぇ、またぜひ遊びにこさせていただきますよ」
そう言いました。
程なくして、僕達はスアの魔法の絨毯にのってこの地を後にしていきました。
そんな僕達を、ブロロッサムの木の精霊達は、人の姿で手を振って見送ってくれました。
「パパ、なんか楽しかったですね! ブロロッサムの木の皆さんもすごく綺麗でした」
「うん、そうだね」
僕とパラナミオはそんな言葉を交わしながら、ブロロッサムの木の精霊達に手を振り返していました。
ちなみに、このブロロッサムの木の群生地ですが、魔道船コンビニおもてなし丸の航路を少し変更して、この木の上を通るようにしました。
人があまりこなくなったっていってましたけど、こうして魔道船が上空を通過するだけでも少しは喜んでくれるんじゃないかな、と、思った訳ですはい。
もちろん、また遊びにもいくつもりですけどね。